ソクラテスのことがよくわかる！クイズ10問

正解：

3. クセノフォン

解説：

ソクラテス自身は一切の著作を残さなかったため、彼の思想や言動は主に弟子たちによって伝えられている。中でも代表的なのがプラトンとクセノフォンである。プラトンは哲学的・理想主義的視点からソクラテスの思想を対話篇形式で描き、特に『ソクラテスの弁明』『饗宴』『国家』などが有名である。

一方、クセノフォン（Xenophon）は歴史家・軍人としても知られ、より実用的かつ現実主義的な筆致でソクラテスを描写した。主著『ソクラテスの思い出（回想録）』や『饗宴』『ソクラテスの弁明』などでは、道徳や実践的知恵に富んだ人物としてソクラテスを紹介している。クセノフォンの記述は、プラトンとは異なる視点からソクラテス像を補完する貴重な資料となっており、後世の研究者にとっては比較の対象として重要である。

このように、ソクラテスの哲学はプラトンとクセノフォンという2人の弟子によって多角的に記録され、2500年にわたって哲学史に大きな影響を与え続けている。

正解：

2. 単に生きるのではなく、善く生きること

解説：

ソクラテスの倫理思想の核心にあるのは、「ただ生きるのではなく、善く生きること（to live well, not merely to live）」という信念である。この考えは、プラトンの対話篇『クリトン』の中で特に明確に表現されている。国家によって不当な裁判にかけられ、死刑判決を受けたソクラテスは、逃亡の提案を拒み、アテナイの法と正義に従って自らの死を受け入れる道を選んだ。

彼にとって「善く生きる」とは、道徳的に正しく、良心に従い、魂を正しく保つことであり、それが人間にとって最も価値ある生き方であった。物質的な成功や社会的評価よりも、内面的な誠実さと正義に重きを置いたその姿勢は、後世の倫理哲学に深い影響を与えた。

この思想は、ソクラテスの一貫した行動によって裏打ちされており、「魂の世話」「無知の自覚」「善の追求」といった哲学的実践の根本にある。彼の生き方そのものが、哲学とは単なる思索ではなく、実践的な生き方そのものであることを証明している。

正解：

3. みずからの無知を知っている人

解説：

ソクラテスの思想の根幹をなす概念の一つが、「無知の知（自分が知らないことを知っているという知）」である。彼は「私は自分が知らないということを知っている。だから私は他の多くの人より賢いのだ」と述べ、これを「デルフォイの神託」との対話を通じて確認したとされる。

プラトンの『ソクラテスの弁明』によれば、アポロンの神託で「ソクラテスより賢い者はいない」とされたとき、ソクラテスはその真意を探るために、多くの政治家・詩人・職人らと対話を重ねた。しかし彼らは自分が知っていると思い込んでいるだけで、実際には無知であることが多かった。それに対し、ソクラテスは自らが無知であることを自覚しているという点で、真の賢さを持っていると結論づけた。

このようにソクラテスにとって「賢人」とは、思い上がりを捨て、真理を追い求める謙虚な姿勢を持つ人間であり、それが哲学的探究の出発点でもあった。この思想は、西洋哲学の自己認識と懐疑精神の基礎をなす重要な教訓となっている。

正解：

3. 産婆術

解説：

ソクラテスが用いた独自の対話法は「産婆術（マイウティケー・テクネー）」と呼ばれる。この言葉は、ギリシア語で「助産術」を意味し、ソクラテスの母親が実際に助産婦であったことに由来している。彼はこの比喩を用いて、自らの哲学的役割を説明した。

ソクラテスによれば、知は他人から教えられるものではなく、自らの内から「生まれる」ものである。そしてその誕生を助けるのが哲学者の仕事であり、彼自身は「知を授ける教師」ではなく、「知の誕生を助ける助産婦」であると考えていた。具体的には、相手に問いかけ（エレンコス）を繰り返し、誤った前提や曖昧な思い込みを明らかにしながら、真理に近づいていく方法である。

この方法は、対話（ディアレクティケー）を通じて知を吟味し、自己認識を深める哲学的態度を象徴するものであり、西洋哲学の基盤となった。現代でも教育やコーチング、カウンセリングなどにおいて応用される重要な概念である。

正解：

3. 国家公認の神々を認めず、新たな神霊（ダイモニオン）を導入し、青年を堕落させたこと

解説：

ソクラテスが紀元前399年にアテナイで訴えられた際の主な罪状は、「国家の神々を信じず、新たな神霊（ダイモニオン）を導入したこと」と「青年を堕落させたこと」であった。これは、当時のアテナイ社会における伝統的な宗教秩序や市民道徳に対する挑戦とみなされた。

彼が導入したとされる新しい神霊とは、「ダイモニオン（神霊的な声）」と呼ばれるもので、自らの内面から聞こえる神の声としてしばしば語られる。これは一般的な神託や宗教的儀式とは異なり、個人の内的な良心や判断として理解されるものであった。このような独自の宗教観は、国家の公式宗教とは異なる信仰を広めるものとされ、当時の人々に不信感や不安を抱かせた。

また、ソクラテスが若者たちに与えた影響、特に民主政に懐疑的な思想を促したことも、宗教的罪と結びつけられて告発の一因となったと考えられている。そのため、彼の宗教的信念と哲学的実践は政治的・宗教的に危険視され、死刑判決に至った。

この出来事は、後世において「哲学者の殉教」として象徴的な意味を持ち、思想と言論の自由、そして市民社会における宗教と倫理の関係を考える上で、重要な歴史的エピソードとなっている。

正解：

3. 弁論術や自然科学などを教えて報酬を受ける弁論術の達人

解説：

ソフィスト（sophist）とは、古代ギリシアにおいて弁論術（レトリック）や倫理、自然科学などを教える専門家であり、知識を商品として有料で教える教師たちであった。彼らは知識を「説得の道具」とみなし、特に政治や裁判の場で有利になるような言論技術を訓練していた。

ソクラテスは、このようなソフィストのあり方を強く批判した。彼にとって知とは真理を探究するためのものであり、説得や勝利を目的とする弁論とは異なる。また、知識を金銭と引き換えに提供するという行為は、哲学の精神を損なうものとされた。ソクラテス自身は報酬を受け取らず、対話によって無知を自覚させ、徳（アレテー）を求める姿勢を貫いた。

ソクラテスのこの批判は、プラトンの対話篇『プロタゴラス』『ゴルギアス』などでも描かれており、彼と当時の代表的なソフィストたち（プロタゴラス、ゴルギアスなど）との思想的対立が強調されている。彼の立場は、知識と倫理、教育の本質を問う哲学的姿勢の象徴として、後世に大きな影響を与えた。

正解：4

解説：

この名言「良妻を持てば幸福になれるし、悪妻を持てば哲学者になれる（If you get a good wife, you'll become happy; if you get a bad one, you'll become a philosopher）」は、ソクラテスのユーモアと皮肉が込められた言葉として伝えられている。ソクラテスは、日常生活の中で人間の真理や徳を追究し続けた哲学者であり、しばしば妻クサンティッペとの不仲で知られている。

この言葉は、直接的な文献には記録されていないものの、ソクラテスの風刺的な発言として後世に伝わっており、哲学者としての彼の精神や姿勢を象徴的に表すものとされている。結婚生活の困難さを、哲学的探究へと昇華する姿勢がうかがえる名言である。

他の選択肢のうち、「1. 人間は万物の尺度である」はプロタゴラス、「2. 人はパンのみにて生きるにあらず」は聖書、「3. 汝自身を知れ」はデルフォイ神殿の碑文であるが、ソクラテスもしばしば引用していた。

ソクラテスは、オーストリアの大作曲家モーツァルト、ロシアの文学者トルストイとともに、「世界三大悪妻の夫」としても有名です。ソクラテスの妻クサンティッペは、稼ぎの少ない夫に朝から晩まで小言をいったり、怒鳴りつけて水をぶっかけたり、服をむしりとったりと、悪妻ぶりを発揮していました。３人の子供と妻を持ちながらろくな稼ぎもなく、街をほっつき歩いては知らない人をつかまえて哲学問答をくりかえす夫に、妻が怒りをぶつけていたのはむりからぬところだった。それでもクサンティッペは、ソクラテスが70歳で無実の罪で刑死した時は、取り乱して号泣したといわれています。

ソクラテスは弟子や友人に、

「とにかく結婚したまえ、良妻を得れば幸せになれるし、悪妻を得れば私のように哲学者になれる。そしてそれは誰にとってもいいことなのだ」

と結婚をすすめていたということです。たとえ悪妻をもっても、いい人生を送れるという模範例といえるかもしれません。

正解：

3. 魂の探求の無い生活は、人間にとって生きがいの無いものである。

解説：

この名言は、ソクラテスがアテナイで裁判にかけられ、死刑判決を受けた際の弁明において語ったとされるものである。原文はプラトンの対話篇『ソクラテスの弁明（アポロギア）』に記されており、「The unexamined life is not worth living.（吟味されない人生は、生きるに値しない）」という表現で広く知られている。

ソクラテスにとって「魂（プシュケー）」とは人間の内面的存在、すなわち倫理的・知的自我を意味し、その探求は人間として真に価値ある生を生きるために不可欠であるとされた。彼は物質的な幸福ではなく、善く生きること・正しく生きることにこそ人生の意味があると説き、生涯を通じて対話と問いかけを重視した。

この言葉は、彼の哲学的生き方と思想の核心を表しており、古代から現代に至るまで深い影響を与えている。

正解：

3. 絶え間ない問いかけと自己反省

解説：

ハンナ・アーレントは、ソクラテスを「哲学することの典型」として高く評価しており、特に彼の**絶え間ない問いかけ（エレンコス）と自己反省（内省）**の姿勢を重要視した。彼女にとってソクラテスとは、知識を一方的に伝える教師ではなく、対話を通じて他者の思考を促し、真理を共に探求する存在であった。

アーレントは著書『人間の条件』や『責任と判断』などにおいて、思考の重要性を繰り返し論じており、特にナチス・ドイツ下の全体主義体制における「思考の欠如」がもたらした悲劇に注目している。その文脈で、彼女は**「悪とは思考の欠如から生まれる」**という命題を提起し、思考する人間像の理想としてソクラテスを挙げた。

ソクラテスの哲学は、正義・善・真理といった概念を問うことで人間が自らの行為と信念を吟味し、誠実に生きる道を模索するものであり、アーレントはそこに人間的尊厳と倫理的責任の根幹を見出していたのである。

正解：

2. 71歳

解説：

ソクラテスは紀元前469年頃にアテナイで生まれ、紀元前399年に亡くなったとされている。したがって享年はおよそ71歳である。彼の死は、アテナイの民主政下において「青年を堕落させ、国家の神々を信じず新たな神を導入した」という罪で裁判にかけられ、有罪判決を受けたことによる。

判決に従い、ソクラテスは毒杯（ヘムロック）を自ら飲んで命を絶った。この死に際しても逃亡の機会を拒み、法律と市民としての義務に忠実であるべきだと語ったことが、後世において「哲人の死」として語り継がれている。

彼の死は、プラトンの『ソクラテスの弁明』『クリトン』『パイドン』などの対話篇によって詳しく描写され、哲学的思索の倫理的姿勢と一致した生き様・死に様として、古今の思想家に強い影響を与えている。71歳という年齢は、ソクラテスが当時としては比較的長寿でありながら、なお知的活動と社会的対話を続けていたことを示している。

参考文献：

甲斐博見著『ソクラテスの哲学』2011年 知泉書館

八木雄二著『ソクラテスとイエス』2020年 春秋社

プラトン著『ソクラテスの弁明』納富信留訳　光文社古典新訳文庫 2012年 光文社

クセノフォン著『ソクラテスの思い出』　2022年 光文社文庫

村井実著『ソクラテス』上・下 1957年　講談社学術文庫

岩田靖夫著『ソクラテス』2014年 ちくま学芸文庫