律令国家のことがよくわかる！クイズ10問

正解：3. 持統天皇

解説：

天武天皇（在位673〜686年）が686年に崩御すると、その后である鸕野讃良皇女（うののさららのひめみこ）が政治を主導し、のちに690年に即位して持統天皇となります。持統天皇は、天武政権の国家体制整備を引き継ぎ、中央集権的な律令国家の基盤づくりを推し進めました。具体的には、天武期に着手された律令編纂（浄御原令）の整備・施行を進め、690年の庚寅年籍の作成によって戸籍・班田収授制の運用基盤を固めています。また、694年には日本初の本格的な条坊制都城である藤原京への遷都を実現し、都城制に基づく統治の枠組みを整えました。さらに、早世した皇太子・草壁皇子の子である軽皇子（のちの文武天皇）への円滑な皇位継承を準備し、697年に譲位して太上天皇（院政的立場）となり、後見にまわります。これらの施策により、天武期に開始された国制改革は持統期に制度化・定着が進み、続く大宝律令（701年）公布へと接続していきます。以上の点から、天武の「事業」を最も直接的かつ実務的に引き継ぎ、完成度を高めたのは持統天皇であるといえます。

正解：4. 飛鳥浄御原令

解説：

飛鳥浄御原令（あすかきよみはらりょう）は、天武天皇期に編纂が進められ、持統天皇の治世に689年（持統3年）に施行されたとされる「令」（行政法）中心の法典です。原文は散逸して具体条文は伝わりませんが、後世の史料から、官職・位階・人事（選叙）や戸籍・計帳、班田収授、租庸調など、律令国家の運営に必要な基本規定を整備したと考えられます。すなわち、天武・持統路線の中央集権化を法制面で固め、のちの大宝律令（701年）による本格的な「律」（刑法）＋「令」（行政法）の体系化へ橋渡しをした意義が大きいです。 選択肢のうち、「大宝律令」は701年に完成した本格的律令法、「養老律令」は718年に改訂された法（施行は757年）であり、いずれも持統期の施行法ではありません。「近江令」は天智天皇期に制定が試みられたと伝わる令ですが、内容・伝存ともに不確実です。以上より、持統天皇が統治の仕組みとして施行した政令は飛鳥浄御原令です。

正解：2. 大宝律令

解説：

701年（大宝元年）に制定されたのは「大宝律令」です。これは、天武・持統朝の改革路線を受け継いだ文武天皇のもとで、刑部親王（おさかべのみこ）・藤原不比等らが中心となって編纂された成文法典です。大宝律令は、中国の唐律令を範として、国家統治の基本枠組みを「律」（刑事法）と「令」（行政法）に体系化した点が画期的でした。中央では神祇官と太政官を頂点とする官僚制（いわゆる二官八省制）を整え、地方には国・郡・里の統治単位を明確化して、中央集権的な運営を可能にしました。

国・郡・里には、国司・郡司・里長が任じられました。国司には中央から貴族が派遣され、役所である国府を拠点として国内を統治しました。国司は、郡ごとに現地の豪族から任命された郡司たちを指揮して、人民を戸籍に登録し、これを50戸ずつの里に編成しました。これによって律令政治を隅々にまで行き渡らせようとしました。また、外交・軍事の要地である九州北部には太宰府をおきました。

大宝律令はその後、718年に「養老律令」として改訂され、奈良時代の律令国家運営の中核となります。選択肢の「飛鳥浄御原令」は大宝に先行する令主体の法で、「延喜式」は平安時代に施行細目を定めた式であり、いずれも701年の制定法ではありません。以上より、701年に制定されたのは大宝律令です。

正解：4. 神祇官と太政官

解説：

律令国家の中央官制は、最上位に「二官」を置き、その下に八つの省（中務・式部・治部・民部・兵部・刑部・大蔵・宮内）を配する「二官八省」体制で整備されました。二官の一つである神祇官（じんぎかん）は、国家祭祀を統括し、伊勢神宮をはじめ全国の神社・神職の監督、祭祀の次第（祝詞や斎戒）、神階の授与など宗教儀礼面を司りました。もう一つの太政官（だじょうかん）は、政務全般を統括する最高機関で、太政大臣を頂点に左大臣・右大臣・大納言・中納言・少納言らが政務を分掌し、八省を指揮監督しました。

この二官体制は、大宝律令（701年）や養老律令（718年）により法的に整備され、戸籍・班田収授・租庸調といった基幹制度の運用から官人登用・人事、外交・軍事・司法・財政に至るまで、祭祀と政務の両輪で国家運営を支えました。選択肢の「参議と中納言」「左大臣と右大臣」はいずれも太政官の内部官職であり、「太政官と中務省」は太政官と八省の一つを並べたものに過ぎません。したがって、「二官」は神祇官と太政官を指します。

正解：2. 蔭位の制

解説：

蔭位の制（おんいのせい）は、律令国家で整備された官人登用制度の一つで、父や祖父などの父祖がもつ位階に応じて、その子や孫に初任の位階や官職への道を保証する仕組みです。一定年齢に達した子弟は、学業成績や試験に拠らずとも所定の位階に叙せられ、官職に補任されやすくなりました。これは『養老令』の選挙・叙位規定（選叙令）に位置づけられ、唐の蔭補制を参照しつつ日本の実情に合わせて制度化されたものです。

この制度のねらいは、中央貴族層の人材供給を安定させ、政務運営の継続性を担保することにありました。その結果、貴族社会の世襲的性格が一層強まり、大学寮での学科成績や試験によって登用する「試補（しほ）」の道よりも、蔭位による叙任が優越しやすい傾向が生まれます。とりわけ平安時代には、有力氏族が官職・位階を家格として継承する体制が定着し、貴族政治の骨格を形成しました。

なお、選択肢の「冠位十二階」は推古朝の人物評価による冠位制度で、律令的な叙任制度とは時代も性格も異なります。「試補の制」は学業・試験等の能力主義的登用の道であり、「班田収授法」は戸籍登録者に口分田を与えて返還させる土地制度です。したがって、父祖の位階に応じて子孫の位階を保証するのは「蔭位の制」です。

正解：4. 班田収授法

解説：

班田収授法は、律令制のもとで国家が作成する戸籍・計帳に登録された6歳以上の男女へ、公有地である口分田（こうぶんでん）を一定の基準で貸し与え、死去や規定年齢到達時に返還させる制度です。男子は2段、女子はその3分の2という給付基準が原則とされ、田地は私有ではなく国家（公）に属します。これにより、農民は耕作地を得て生計を立て、国家は租（稲の収穫の一定割合）・庸・調、さらに雑徭や兵役などを安定的に賦課できます。制度の狙いは、土地と人口を把握して均分に耕地を行き渡らせ、中央集権的な財政・軍事基盤を確立することにありました。もっとも、人口動態や口分田不足、そして開墾奨励策（三世一身法・743年の墾田永年私財法）による私有地拡大などの影響で、奈良後期以降は次第に形骸化し、中世には荘園制が主流となっていきます。なお、選択肢の「公地公民制」は土地・人民を公に属させる基本原理、「墾田永年私財法」は新たに開墾した田地の私有を認める法、「荘園公領制」は中世の土地支配構造であり、いずれも班田収授法そのものではありません。

正解：3. 雑徭（ぞうよう）

解説：

雑徭は、律令制下で国司が動員する地方の公役で、道路・橋梁・堤防の築造や修理、国衙・倉の造営、租税や公物の運搬（運脚）、各種の雑務などに従事する労役を指します。対象は戸籍・計帳に登録された成人男性（正丁）が中心で、原則として年間60日以内という上限が定められていました。これは中央の都での奉仕を原則とした「庸」を布などの物納に代替させる制度と対をなす、地方現地での実働負担でした。

雑徭は国家のインフラ整備と行政運営を下支えしましたが、実際には国司や在地の権力者によって過度に動員されることがあり、農繁期の労働力不足を招いて農民の負担が増大しました。こうした過重な公役は逃亡や浮浪の一因ともなり、律令体制の動揺にもつながっていきます。なお、選択肢の「調」は地方の特産物を納める税、「庸」は都での労役の代替として布を納める税、「兵役」は軍団や防人などの軍事的負担を指し、いずれも国司主導の土木・雑務労役そのものではありません。

正解：3. 律令国家における基本的な税制のこと

解説：

租庸調（そようちょう）は、律令国家の財政を支えた三本柱の税制をまとめた呼び名です。戸籍・計帳に登録された成年男子（正丁）を基本対象として課され、①租＝口分田など田地の収穫に対する田税、②庸＝本来の都での労役（年10日前後）の代替として納める布の税、③調＝各国の特産物を都に貢納する税、の三種で構成されます。租は地方財源、庸と調は中央財源となり、官人給与や宮廷運営、土木・軍事など国家機能の維持に充てられました。

この三税に加えて、現地での土木・雑務に従事する雑徭や、軍団・防人などの兵役も別途課されました。租庸調は、公地公民制と班田収授法（戸籍に基づく口分田の貸与）と一体で機能し、人口と土地を把握して安定的に課税する仕組みを整えました。しかし奈良後期以降、口分田の不足や逃亡・浮浪の増加、さらに開墾奨励策による私有地拡大の影響で徴収は次第に困難となり、平安時代には形骸化していきます。以上より、租庸調は律令国家の基本的・体系的な税制を指す用語です。

正解：2. 律令国家時代に九州の沿岸防備にあたった兵士のこと

解説：

防人（さきもり）は、白村江の戦い（663年）後に高まった外敵警戒の必要から整備された沿岸防備の兵士で、主に東国（関東・東海など）の正丁と呼ばれる成年男子から徴発され、九州北部（筑紫〈太宰府管内〉・対馬・壱岐など）の要地に派遣されました。任期は原則3年とされ、海岸の警備、異国船の監視、軍事連絡や城柵の守備などに従事します。指揮・統括は太宰府が担い、国司・郡司の選抜を経て派遣されるのが一般的でした。

任地が遠隔の九州であったため、農繁期に労働力を奪われる家々の負担は重く、家族との長期別離もしばしば『万葉集』の「防人歌」に詠まれています。これらの歌からは、装備・旅程・心情まで当時の具体的な軍務の実態がうかがえます。情勢の変化とともに平安時代には制度が次第に形骸化し、国防体制の重心は内陸の警備や蝦夷征討などへ移っていきました。以上のように、防人は律令国家の対外防備を担うために九州沿岸に常置された兵士のことを指します。

正解：3. 養老律令

解説：

養老律令は、701年の大宝律令を基礎に内容を整理・改訂した成文法典で、養老2年（718年）に藤原不比等・長屋王らの主導で編纂されました。構成は唐の制度にならった「律（刑法）」と「令（行政法）」から成り、二官八省制や官人登用・叙位、戸籍・班田収授、租庸調、軍防・司法など、律令国家の運営全般を包括的に規定します。実際の全面施行は後年の天平宝字元年（757年）とされ、奈良～平安初期の国家秩序を支える基本法として機能しました。令文は後に『令義解』（833年）や『令集解』により注釈・伝存し、制度理解の要となっています。

選択肢のうち「飛鳥浄御原令」は大宝律令以前の令主体の法であり、「延喜式」は平安中期に施行細目をまとめた式、「弘仁格式」は平安初期の格・式の総称で、いずれも718年の大宝改訂に当たりません。したがって正解は養老律令です。