マティスについてのクイズ10問

正解

2. 法律

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse, 1869-1954）は、もともと画家ではなく法律を学んでいました。彼の父親は穀物商を営んでおり、マティスも安定した職業に就くことを期待されていました。そのため、彼はパリの法律学校に進学し、法律事務員として働いていた時期もありました。

しかし、20歳のときに虫垂炎を患い、長期の療養生活を余儀なくされます。その間、母親が退屈しないようにと絵具セットを与えたことが、彼の人生を大きく変えました。絵を描くことに魅了されたマティスは、次第に法律の道を捨て、芸術に没頭するようになります。

回復後、彼は法律の道に戻ることなく、本格的に美術を学ぶ決意を固めました。そして、22歳のときにパリの美術学校「エコール・デ・ボザール」に入学し、画家としての道を歩み始めます。

このように、マティスは最初から芸術を志していたわけではなく、偶然の病気と母の影響によって絵画の道に進んだという経歴を持っています。このエピソードは「人生には思わぬ転機がある」ということを示す興味深い例でもあります。

ギュスターヴ・モロー『刺青のサロメ』1（1876年）

正解

2. ギュスターヴ・モロー

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse）が本格的に美術の道を志した際、彼に大きな影響を与えたのが**ギュスターヴ・モロー（Gustave Moreau, 1826-1898）**でした。モローは象徴主義の画家であり、幻想的で神秘的な作風で知られています。彼はフランスの名門美術学校「エコール・デ・ボザール」の教授を務めており、マティスは1892年にこの学校に入学し、モローの指導を受けました。

モローは伝統的なアカデミックな美術教育を尊重しながらも、生徒たちに自由な表現を奨励する教師でした。彼はマティスに対して「君の個性を大切にしなさい」と助言し、色彩や構成の探求を後押ししました。この指導が、後にマティスがフォーヴィズムのリーダーとして活躍する基礎となったと言われています。

しかし、1898年にモローが亡くなった後、マティスは新たな指導者を求めて他の学派にも学びに行きます。この時期に彼は印象派やポスト印象派の影響を受け、やがて独自の色彩表現を確立していきました。

つまり、ギュスターヴ・モローはマティスにとって単なる師匠ではなく、「自由な芸術表現の可能性」を教えてくれた恩師だったのです。

マティス「開いた窓」（1905年）

正解

2. 鮮やかな色彩と大胆な筆致

解説

フォーヴィズム（Fauvism）は、1905年頃にフランスで誕生した美術運動で、その中心的存在が**アンリ・マティス（Henri Matisse）**でした。この運動の最大の特徴は、鮮やかな色彩と大胆な筆致にあります。

フォーヴィストの画家たちは、伝統的な写実主義や遠近法の概念を無視し、純粋な色彩と感情の表現を重視しました。具体的には、以下のような特徴があります。

• 鮮やかな原色を直接使うフォーヴィストたちは、赤・青・黄などの原色を多用し、混色を最小限に抑えました。これにより、視覚的に強いインパクトを与える作品が生まれました。例えば、マティスの**「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」（1905）**では、顔の影の部分に緑色が使われ、従来の絵画の常識を覆しました。
• 荒々しく自由な筆致フォーヴィズムの作品は、細かく整った描写ではなく、勢いのある筆使いで感情を表現するのが特徴です。例えば、マティスの**「豪奢、静寂、逸楽」（1904）**では、大胆なタッチで風景が描かれています。
• 形の単純化と平面的な構成遠近法を重視せず、形を単純化し、色の平面性を強調するのもフォーヴィズムの特徴です。「赤のハーモニー」（1908）では、部屋の全体を赤で統一し、装飾的な効果を生み出しています。

フォーヴィズムは長くは続きませんでしたが、色彩の表現力を追求したこの運動は、後の現代美術に大きな影響を与えました。マティスはフォーヴィズムの枠を超え、その後も独自の色彩表現を探求し続けました。

ニース「マティス美術館」

正解

1. 南仏のニース

解説

1917年、アンリ・マティス（Henri Matisse）は、フランス南部の**ニース（Nice）**に移り住み、そこで約30年間にわたって制作活動を続けました。ニースは地中海に面した美しいリゾート地で、温暖な気候と豊かな光に恵まれた風景が、マティスの作品に大きな影響を与えました。

なぜニースに移ったのか？

当時、マティスはフランス北部のパリで活動していましたが、第一次世界大戦の影響や健康上の理由から、より穏やかで過ごしやすい環境を求めて南仏へ移住しました。ニースの明るい光と温暖な気候は、彼の創作意欲を刺激し、色彩豊かな作品を生み出す原動力となりました。

ニース時代の作品の特徴

ニース時代のマティスの作品には、以下のような特徴が見られます。

• 柔らかな色彩と優雅な雰囲気
  • ニースの陽光を反映した、明るく穏やかな色彩が多用されるようになりました。
• 室内画と女性像の増加
  • 特に、豪華な衣装をまとった女性を描いたオダリスク（Odalisque）シリーズが有名です。
  • 例：「オダリスクと赤いズボン」（1921）など。
• 東洋風の装飾と影響
  • イスラム文化やオリエンタルな要素を取り入れた室内装飾を背景にした作品も多く描かれました。

晩年までの影響

1930年代後半になると、マティスは旅をしながら新たな表現を模索し、最終的に切り絵（カットアウト）の技法へと移行しました。しかし、ニース時代の経験が、彼の後の装飾的で明るい色彩の表現に大きな影響を与えたことは間違いありません。

ニースは、マティスにとって単なる生活の場ではなく、彼の芸術をさらなる高みへと押し上げたインスピレーションの源だったのです。

正解

1. 色彩の魔術師

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse）は、**「色彩の魔術師」**と称されるほど、鮮やかで大胆な色使いを特徴とする画家でした。彼の作品は、単なる写実ではなく、色彩そのものの力で感情や空間を表現することに重点を置いていました。

なぜ「色彩の魔術師」と呼ばれたのか？

① フォーヴィズム（野獣派）のリーダー

1905年、マティスは**フォーヴィズム（Fauvism）**という美術運動を牽引しました。フォーヴィズムの最大の特徴は、原色を多用し、形を単純化し、感情を直接表現することです。彼の「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」（1905）では、顔に緑色を用いるという大胆な配色がなされ、伝統的な絵画の概念を打ち破りました。

② 色彩による空間の創造

マティスの作品では、色が空間を作り出す重要な要素となっています。例えば、「赤のハーモニー（1908）」では、背景と家具、テーブルがすべて赤で統一され、伝統的な遠近法とは異なる独特の奥行きを生み出しています。

③ 晩年の切り絵（カットアウト）の技法

晩年、マティスは病気のため絵筆を持つことが困難になりましたが、代わりに色紙を切り貼りして作品を制作する「カットアウト（切り絵）」の技法を生み出しました。「ブルーヌード」（1952）や「ジャズ」シリーズ（1947）では、単純な形と鮮やかな色の組み合わせで、生命力あふれる作品を生み出しました。

色彩の影響力

マティスの色彩表現は、彼の同時代の画家だけでなく、後の現代美術やデザインにも大きな影響を与えました。彼の「色彩の魔術」は、単なる装飾ではなく、感情や光、空間を生み出す独自の表現として、今なお高く評価されています。

そのため、マティスはまさに「色彩の魔術師」と呼ばれるにふさわしい画家だったのです。

正解

1. 病気療養中に母から画材を贈られたこと

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse）が絵画の道に進んだのは、決して最初からの夢ではありませんでした。実は彼はもともと法律を学んでおり、法律事務員として働いていた時期もありました。しかし、彼の人生を大きく変えた出来事が20歳のときに起こります。

病気と母からの贈り物

1890年、マティスは**虫垂炎（盲腸炎）**を患い、長期間の療養生活を余儀なくされました。この時、退屈しないようにと、母親が彼に画材を贈ったのです。初めて絵を描いたマティスは、その楽しさに魅了され、一気にのめり込んでいきました。

彼はこの出来事について後に次のように語っています。

「絵を描くことで、まるで新しい世界が開かれたようだった。」

これは単なる一時的な興味ではなく、彼の人生を根本から変える転機となりました。

本格的な美術の道へ

回復後、マティスは法律の道に戻ることなく、美術を本格的に学ぶ決意を固めました。彼は地元の美術学校に通い、その後パリのエコール・デ・ボザール（国立美術学校）に進学します。そこで彼は、象徴主義の画家であり、後に彼の恩師となるギュスターヴ・モローに師事しました。

まとめ

マティスが絵画の道を志したのは、偶然の出来事からでした。もし彼が病気にならなかったら、あるいは母が画材を贈らなかったら、彼は法律家として生涯を終えていたかもしれません。しかし、この偶然のきっかけによって、彼は「色彩の魔術師」と呼ばれるまでの偉大な画家へと成長しました。

マティスの人生は、**「運命のいたずらが新たな才能を開花させることがある」**という、まさにドラマチックなエピソードの一つです。

正解

2. 切り紙絵

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse）は、晩年に病気を患いながらも、新たな芸術表現を生み出しました。その技法が「切り紙絵（カットアウト）」です。

なぜ切り紙絵を始めたのか？

1941年、マティスは**大病（がん）**を患い、手術を受けました。その影響で体力が低下し、筆を持ってキャンバスに向かうことが困難になってしまいました。しかし、創作意欲を失うことはなく、代わりに紙をハサミで切り、それを組み合わせる新しい表現方法を考案しました。

切り紙絵の特徴

• 色紙を自由にカットして構成 → あらかじめ絵具で着色した紙をハサミで切り取り、画面に貼り付ける手法。
• 鮮やかな色彩と大胆な構成 → まるでフォーヴィズムの精神をそのまま継承したような、力強くシンプルな表現が特徴。
• 絵画と彫刻の融合 → 切り取った形が絵画の要素でありながら、立体感や動きを感じさせる点が特徴的。

代表作

• 『ブルーヌード（Blue Nude）』（1952） → 青い人体のシルエットを切り絵で表現したシリーズ。
• 『ジャズ（Jazz）』（1947） → 切り紙絵を用いたカラフルなイラストをまとめた書籍。音楽的なリズム感が表現されている。
• 『花と果実』（1952） → 自然のモチーフを大胆にデフォルメし、装飾的な美しさを追求。

切り紙絵の影響

マティスは、この技法によって「色彩を直接扱うことができるようになった」と語っています。ハサミを用いることで、より直感的に形を作り出し、色彩のエネルギーをダイレクトに表現できるようになりました。

彼の切り紙絵は、現代のグラフィックデザインやポップアートにも影響を与え、今なお多くのアーティストにインスピレーションを与え続けています。晩年になっても新たな表現方法を模索し続けたマティスは、まさに「色彩の魔術師」でした。

正解

2. 南仏ヴァンスのドミニコ会修道院ロザリオ礼拝堂

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse）は、晩年に南フランスの**ヴァンス（Vence）にあるドミニコ会修道院ロザリオ礼拝堂（Chapelle du Rosaire）**の内装デザインを手がけました。この礼拝堂は、彼の生涯最後の大仕事であり、「マティス芸術の集大成」とも呼ばれる作品です。

なぜマティスが礼拝堂のデザインを？

1941年、マティスはがんを患い、大手術を受けたことで体力が大幅に衰えました。療養のために南仏ヴァンスへ移住し、そこでかつて彼の看護をしていた**モニク・ブルジョワ（Monique Bourgeois）**という修道女と再会します。彼女は後にドミニコ会の修道女となり、修道院の礼拝堂の装飾を依頼しました。マティスは「生涯のすべてを捧げる」と誓い、80歳を超えた老齢にもかかわらず、このプロジェクトに全力を注ぎました。

ロザリオ礼拝堂のデザインの特徴

• シンプルな白壁と黒の線画→ 礼拝堂内部の壁には、**黒い線だけで描かれた「聖母子」「聖ドミニコ」「磔刑図」**などの絵が配置され、静謐な雰囲気を醸し出しています。
• 独特なステンドグラス→ 伝統的な聖堂のステンドグラスとは異なり、マティスは**「青・黄・緑」の3色のみ**を使用。この光が差し込むことで、礼拝堂の内部に神秘的な雰囲気を作り出しました。
• 衣装や家具もデザイン→ 祭壇や祭服、椅子などのデザインもマティスが担当し、礼拝堂全体を芸術作品として構築しました。

ロザリオ礼拝堂の意義

マティスは、**「これまでの人生と作品のすべてをこの礼拝堂に捧げた」と語りました。この礼拝堂は、単なる宗教施設ではなく、「光と色彩の調和による神聖な空間の創造」**というマティスの芸術観が結晶化した場所です。

現在もヴァンスには多くの観光客や芸術愛好家が訪れ、**「光と色の芸術作品」**として高く評価されています。マティスは、死の直前まで創作を続け、彼の芸術はこの礼拝堂に永遠に刻まれることとなりました。

マティス「ダンス」（1909年）

正解

2. ダンス

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse）の**『ダンス（La Danse）』**は、彼の代表作のひとつであり、フォーヴィズムの精神を象徴する作品として知られています。

『ダンス』とは？

• 制作年：1910年
• サイズ：約260×391cm（巨大なキャンバス）
• 依頼主：ロシアの美術収集家セルゲイ・シチューキン
• 所蔵：エルミタージュ美術館（ロシア・サンクトペテルブルク）

この作品は、マティスが依頼を受けて制作したもので、円を描くように手をつなぎ踊る5人の裸の人物が描かれています。人物のシルエットは非常に単純化されており、鮮やかな色彩とダイナミックな動きが特徴です。

『ダンス』の特徴

1. 大胆な色彩
   • 背景には「青」、地面には「緑」、人物には「赤」という原色のみが使用されています。
   • この配色は、**フォーヴィズム特有の「感情を直接表現する色使い」**を反映しています。
2. 単純化された形
   • 人物の顔の細かい描写は省かれ、滑らかな曲線のみで表現されています。
   • これは、動きのダイナミズムを強調し、観る人にリズムや躍動感を感じさせるためです。
3. 円環の構図
   • 5人の踊り手が円を描くように手をつなぐ構図が、永遠の循環や生命のエネルギーを象徴しています。
   • しかし、右側の人物の手が完全にはつながっておらず、動きの余韻を感じさせる巧みなデザインになっています。

『ダンス』の影響

この作品は、フォーヴィズムの代表的な作品として、後の抽象絵画や現代アートに大きな影響を与えました。また、マティス自身もこの構図を基にした作品を晩年まで制作しており、「シンプルな形と色だけで感情を伝える」彼の芸術観を象徴する作品となっています。

『ダンス』は、単なる人物画ではなく、生命の喜びや自由を表現した傑作として、今なお世界中の美術愛好家を魅了し続けています。

ターナー『解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号』（1838年）

正解

2. ターナー

解説

アンリ・マティス（Henri Matisse）は、印象派の画家カミーユ・ピサロ（Camille Pissarro）の助言を受け、ロンドンでイギリスの画家J.M.W. ターナー（Joseph Mallord William Turner, 1775-1851）を研究しました。ターナーは、「光の画家」とも呼ばれ、色彩と光の表現において革新的な手法を確立した画家です。

ピサロの助言とは？

• カミーユ・ピサロは、印象派の代表的な画家の一人で、色彩の使い方や筆致の面で、マティスに多くの影響を与えました。
• 彼はマティスに、**「ターナーの作品を研究すれば、色彩の扱い方や光の表現が学べる」**とアドバイスしました。
• その言葉に従い、マティスは1898年にロンドンへ渡り、ナショナル・ギャラリーでターナーの作品を研究しました。

ターナーの影響

1. 光と色彩の革新
   • ターナーは、風景画において大胆な色使いや光の表現を追求し、まるで空気が動いているかのような幻想的な効果を生み出しました。
   • 代表作：「雨、蒸気、速度—グレート・ウェスタン鉄道」（1844）、「戦艦テメレール号」（1838）
2. 色彩の解放
   • ターナーの作品では、形が曖昧になり、色彩だけで情景を表現する手法が見られます。
   • これは、マティスの後のフォーヴィズムにおける**「色を感情の表現手段とするスタイル」**に影響を与えました。
3. フォーヴィズムへの布石
   • マティスが後に展開したフォーヴィズムは、ターナーの色彩の自由さや光の表現と共通する部分が多くあります。
   • 特に、マティスの「赤のハーモニー」（1908）などは、ターナーのような色彩の大胆な扱いが見られます。

まとめ

マティスがロンドンでターナーの作品を研究したことは、彼の色彩表現の基礎を築く重要な経験でした。ピサロの助言がなければ、マティスの色彩理論は異なるものになっていたかもしれません。ターナーの革新的な光と色彩の表現は、マティスの後のフォーヴィズムや抽象芸術の先駆けとして、20世紀美術に大きな影響を与えたのです。