空海のことがよくわかる！クイズ八十八問（その１）

正解：4. 四国の讃岐国多度郡屏風浦

解説：

空海（弘法大師）は、774年（宝亀5年）に現在の香川県善通寺市にあたる「讃岐国多度郡屏風浦（さぬきのくに たどのごおり びょうぶのうら）」で生まれました。当時の地名である「屏風浦」は、瀬戸内海を望む美しい海岸地帯であり、風光明媚な土地として知られていました。

空海は佐伯直田公（さえきのあたいたぎみ）という豪族の家に生まれ、幼名を「真魚（まお）」と名乗りました。生家は地方豪族であり、学問や文化にも理解のある家柄でした。のちに空海は仏門に入り、真言宗を開祖するなど、日本仏教史に大きな足跡を残す人物となりますが、その原点はこの讃岐の地にあります。現在、彼の誕生地とされる場所には「善通寺」が建てられており、多くの参拝者が訪れる聖地となっています。このお寺は、佐伯家の広大な敷地に長安の青龍寺伽藍を模した佐伯一門の氏寺として建立され、空海の父の名をとって善通寺としたものです。

正解：1. 真魚（まお）

解説：

空海の幼名は**真魚（まお）**です。この名は、空海が生まれた讃岐国（現在の香川県）で使われていた実名で、古代の日本では身分にかかわらず「実名」と「通称」があり、僧侶となる以前の名前を「俗名」や「幼名」として伝えています。

「真魚」という名前には、「まことの魚」という意味が含まれているとされ、清らかで純粋な印象を与える名です。空海が後に仏門に入り、「空」と「海」の広大な世界観を体現する法名を持つようになる以前の名として、この「真魚」は彼の出発点を示す重要な呼称です。

また、この幼名からも、空海の人生が自然との深い結びつきの中にあったことがうかがえます。のちに高野山の開創者となり、日本密教を大成する彼の歩みは、この「真魚」という素朴で清浄な名から始まったのです。

正解：3

解説：

空海が「空海」という名を自ら名乗るようになったのは、彼が20歳頃、高知県室戸岬の御厨人窟（みくろど）で修行していた時の体験に由来します。念仏を百万遍唱えるという厳しい修行の最中、空から明星（金星）が彼の口に飛び込んでくるという神秘的な出来事がありました。その後、洞窟の外に目を向けると、そこには広大な空と海だけが見えたと伝えられています。この経験をもとに、「空」は仏教哲学の「空（くう）」を、「海」は包容力と智慧を象徴し、彼はその二文字を取って「空海」と改名したのです。この逸話は、空海の思想的背景と悟りの象徴として広く知られています。

正解：2. 東大寺戒壇院

解説：

空海は、延暦23年（804年）に遣唐使として唐に渡る直前、31歳のときに東大寺の戒壇院で得度（とくど）受戒を行ったと伝えられています。得度とは、正式に仏門に入るために戒律を受ける儀式であり、出家者としての第一歩を意味します。

奈良の東大寺戒壇院は、聖武天皇の時代に建立された日本で最初の戒壇（戒律を授けるための道場）で、当時は日本国内に三つしかなかった正式な受戒の場の一つでした。空海はこの場所で受戒することにより、国家に公認された正式な僧侶となり、以後、仏教の教義や密教の学びを深めていきます。

この受戒を経て空海は、遣唐使としての資格を得たうえで唐に渡り、真言密教の正統な後継者となる修行の旅に出ることになります。したがって、東大寺戒壇院での受戒は、空海の生涯において重要な転機のひとつであるといえます。

正解：1. 最澄

解説：

804年（延暦23年）、空海は遣唐使船に乗って唐（中国）に渡りました。このとき、同じ船団の別の船に乗っていたのが、天台宗の開祖である**最澄（さいちょう）**です。空海と最澄はともに新たな仏教の教義を学ぶために唐に渡り、それぞれ密教と天台教学の研鑽を積みました。最澄は天台山で仏教の教義を学び、日本に戻った後に天台宗を確立しました。一方、空海は長安で恵果（けいか）阿闍梨に師事し、真言密教を学びます。帰国後、両者は日本仏教界に大きな影響を与えましたが、思想的な相違などから後に関係が悪化したことでも知られています。とはいえ、この804年の渡航は、日本仏教の発展にとって重要な転機となった出来事です。

正解：2. 青龍寺の恵果和尚

解説：

空海は804年に遣唐使として唐に渡り、翌805年には当時の仏教の中心地である長安に到着しました。長安では、密教の高僧である青龍寺（せいりゅうじ）の恵果（けいか）和尚に師事しました。恵果はインドから伝わった密教を正統に受け継ぐ第七祖とされ、空海にとってはまさに理想的な師でした。

恵果は空海の素質をすぐに見抜き、わずか数ヶ月という短期間で彼に密教のすべての奥義を伝授したとされています。特に、灌頂（かんじょう）と呼ばれる儀式を経て、空海は正式に密教の正統な後継者となりました。この出来事は、のちに日本で真言宗を開くうえで決定的な意味を持ちます。恵果は空海が帰国する前年に亡くなっており、自らの密教を空海に託したとも言われています。

正解：3. 結縁灌頂

解説：

空海は唐から帰国した後、真言密教の普及に努めるなかで、天台宗を開いた最澄とも交流を持ちました。二人は当初、互いの教学を学び合う協力関係にありました。806年、空海は高尾山寺（現在の神護寺）に滞在中、最澄に対して密教の初歩的な儀礼である「結縁灌頂（けちえんかんじょう）」を授けました。

「結縁灌頂」とは、密教において仏や菩薩との縁を結ぶための入門的な灌頂儀式で、これを受けることによって、受者は密教世界への第一歩を踏み出すとされます。最澄はこの灌頂を通じて真言密教への理解を深めようとしましたが、のちに空海にさらなる秘法の伝授を求めた際、空海は「密教は一朝一夕で会得できるものではない」として断ることになります。これをきっかけに、両者の間には徐々に思想的な隔たりが生まれ、やがて関係は疎遠になっていきました。

この「結縁灌頂」の授与は、日本仏教史における密教と天台宗の接点として、非常に重要な意味を持っています。

正解：3. 讃岐国の満濃池治水工事

解説：

空海は宗教的指導者であると同時に、土木や灌漑技術にも優れた才能を発揮したことで知られています。その代表的な例が、讃岐国（現在の香川県）にある満濃池（まんのういけ）の治水工事です。

満濃池は日本最大級の灌漑用ため池ですが、8世紀から9世紀にかけてたびたび決壊や干ばつに悩まされていました。弘仁12年（821年）、空海は朝廷からの命を受けてこの満濃池の改修を指揮することになり、短期間で工事を成功させました。彼は地形を巧みに読み、水の流れを制御する工法を用いて、堤防の補強や排水路の整備を行ったと伝えられています。

この工事によって地域の農業は大いに助けられ、空海は単なる宗教家にとどまらず、実務能力にも長けた総合的な指導者であったことが証明されました。満濃池は現在も香川県に現存し、空海の功績をしのぶ史跡として大切にされています。

正解：2. 嵯峨天皇と橘逸勢

解説：

空海は、弘法大師としての宗教的業績だけでなく、書の達人としても非常に高く評価されています。平安時代初期の代表的な書家三人は、「平安の三筆（へいあんのさんぴつ）」と総称されており、その中に空海の名が含まれています。そして残る二人は、**嵯峨天皇（さがてんのう）と橘逸勢（たちばなのはやなり）**です。

この三人は、それぞれ異なる背景を持ちながらも、唐風（中国風）の書を日本文化の中に取り入れ、日本書道の礎を築いたことで知られています。

• 空海は唐で密教とともに書を学び、筆勢の強い力強い書風を残しました。
• 嵯峨天皇は天皇でありながら書に優れ、典雅で洗練された筆致を特徴としました。
• 橘逸勢は文人貴族として知られ、流麗で品格のある書風で高く評価されました。

この三人の功績によって、日本の書道は形式美と精神性を兼ね備えた独自の芸術へと発展していったのです。空海は書だけでなく、その書に込めた仏教的思想によっても後世に深い影響を与えました。

正解：2. 42歳

解説：

空海が四国の阿波（徳島県）、土佐（高知県）、伊予（愛媛県）、讃岐（香川県）の四国四カ国を巡って霊場を開いたのは、42歳の頃とされています。これは彼が唐から帰国し、真言密教の教えを日本に広め始めてから数年後のことです。

空海は、この四国遍歴を通じて各地の山岳や霊地に足を運び、修行の場として整備・開基しました。これが後に「四国八十八ヶ所霊場」として体系化され、今日まで多くの巡礼者が訪れる日本有数の霊場巡りの文化につながっています。

空海自身が若き日に修行した地でもある室戸岬や石鎚山なども含まれており、霊場の選定には彼の個人的な修行経験と深い宗教的な洞察が反映されています。この四国遍路の開創は、空海が地域信仰と密教思想を融合させた実践的布教の一環であり、民衆に寄り添う仏教を築いた証でもあります。