第二次近衛内閣と三国同盟のことがよくわかる！クイズ10問

【正解】3（第2次近衛内閣）

解説

米内光政内閣は、ドイツ・イタリアとの提携に慎重で、英米との関係維持を重視する姿勢をとっていました。しかし1940年7月、陸軍大臣の辞任を受けて陸軍が後任の推薦を拒否する「陸相不推薦」という圧力手段を用いたため、内閣は総辞職に追い込まれました。この制度上の弱点（軍部大臣現役武官制）を突いた政治介入により、内閣は組閣維持が不可能になったのです。

後を受けて7月に成立したのが第2次近衛文麿内閣です。同内閣は発足直後に国策の大枠を定める「基本国策要綱」を決定し、枢軸側への接近と「大東亜共栄圏」の構想を明確化しました。さらに1940年9月には北部仏印進駐を断行し、同月27日に日独伊三国同盟を締結します。10月には「新体制運動」の象徴として大政翼賛会を発足させ、既成政党を事実上解体・吸収する方向へ政治体制を転換しました。これらの一連の措置により、日本は対外的には枢軸陣営との結束を深め、国内的には総力戦体制の強化へと大きく舵を切ったのが第2次近衛内閣の最大の特徴であるといえます。

【正解】2（日独伊三国同盟）

解説

1940年9月27日、近衛文麿の第2次内閣はベルリンで日独伊三国同盟を締結しました。これは、ドイツ・イタリアが主導するヨーロッパ戦線と、日本が主導する東アジア・太平洋地域をそれぞれの「勢力圏」と位置づけ、いずれか一国が「現にヨーロッパ戦争または日中戦争に参加していない第三国」から攻撃を受けた場合に相互に支援することを定めたものです。想定された第三国の筆頭はアメリカ合衆国であり、同盟には対米抑止の意味合いが強く込められていました。

同盟は1936年の日独防共協定を土台に、軍事・政治・経済の協力枠組みを拡大・明確化した点に特色があります。背景には、近衛内閣が同年7月の成立後に打ち出した「基本国策要綱」による枢軸接近方針や、9月の北部仏印進駐による南方進出の既成事実化がありました。これにより日本は国際的に枢軸側への傾斜を一段と強め、国内では翌10月の大政翼賛会発足へとつながる総力戦体制の整備を加速させます。

一方で、三国同盟の締結は米英との対立を激化させ、アメリカは屑鉄輸出禁止などの対日経済制裁を強化しました。翌1941年7月の南部仏印進駐後には対日石油禁輸に発展し、外交的孤立と資源圧迫が深刻化していきます。以上のように、日独伊三国同盟は枢軸陣営強化の象徴であると同時に、対米関係の決定的悪化を招いた分岐点でもあったと評価できます。

【正解】4（大東亜共栄圏の確立）

解説

南方進出の直接目的は、大東亜共栄圏の確立にありました。これは日本が主導して東アジアから東南アジアに至る広域を一つの経済・政治ブロックとしてまとめ、欧米列強の植民地支配を排除し、自給自足的な「共存共栄」を実現するという理念として掲げられました。背景には、日中戦争の長期化で資源・外貨が逼迫するなか、石油・ゴム・錫・ボーキサイト・米など戦略物資を多く産出する東南アジアへの依存を強めざるをえなかった事情があります。とくにアメリカとの関係悪化で資源禁輸のリスクが高まるなか、資源の安定調達と経済圏の自立が重要課題になりました。

政治的には、1940年7月の第2次近衛内閣の発足後に示された「基本国策要綱」により、枢軸側への接近と南方重視が公式方針となります。これを受けて、同年9月には北部仏印進駐を断行し、同月に日独伊三国同盟を締結して対米抑止の枠組みを整えました。翌1941年7月には南部仏印進駐で南方進出を一層既成事実化します。理念としては「アジアの解放・共栄」を掲げましたが、現実には各地で軍事占領と資源収奪、統制経済の強化が進み、現地社会に深刻な負担を強いたことも忘れてはなりません。以上より、南進の核心は、戦時体制を支えるための資源確保と経済ブロック化を柱とする大東亜共栄圏の構想にあったといえます。

【正解】3（大政翼賛会）

解説

「新体制運動」は、政党対立を超えて「挙国一致」を掲げ、官僚・軍部・財界・在郷団体・地方組織などを一本化する全体主義的な動員体制の構築をめざした動きでした。その頂点として1940年10月12日、近衛文麿を総裁に大政翼賛会が発足します。大政翼賛会は、既成政党政治の弊害を克服するとの名目で、町内会・隣組・産業報国会・婦人団体・青年団などの大衆組織を結節させ、国家総動員体制の政治的「中枢」として機能しました。理念面では「皇国の道」「尽忠報国」「国体明徴」を標語化し、対外的には大東亜共栄圏の実現に資する国内統合を正当化しました。

選択肢のうち**「翼賛政治会」は1942年の総選挙に向けて議会内の与党的統一会派として組織されたもので、大政翼賛会の下位・周辺に位置づく議会ブロックです。「国民精神総動員本部」は1937年に始まる戦時宣伝・教化の運動体であり、のちに大政翼賛会へと吸収・衣替えされていきます。「国民同盟」**は1930年代の右翼系政党で、やがて新体制に合流・解消していきました。これらと区別して、新体制の中核となる全国的政治結社として1940年に創設されたのが「大政翼賛会」である点がポイントです。以上より、正解は大政翼賛会です。

【正解】2（日米交渉を開始した）

解説

1941年4月以降、近衛内閣は対米戦争を避けるため、在米大使野村吉三郎を通じてアメリカ国務長官コーデル・ハルとの協議（いわゆるハル＝野村会談）を本格化させました。日本側は中国からの段階的撤兵や通商回復などを含む理解文書案を提示し、アメリカ側も門戸開放・主権尊重・三国同盟の事実上の凍結といった原則を示して、外交的妥結の余地を探りました。これは資源・石油の供給不安と経済制裁の強化を背景に、武力衝突を回避して日中戦争の出口を模索する現実的対応だったからです。

ただし、中国からの撤兵範囲・時期や三国同盟の扱いなど根幹問題で隔たりは大きく、同年7月の南部仏印進駐を機にアメリカは在米日本資産の凍結と実質的な対日石油禁輸を実施し、交渉環境は急速に悪化しました。近衛は米大統領ルーズヴェルトとの首脳会談開催も模索しましたが実現せず、交渉は平行線のまま10月に総辞職へと至ります。それでも1941年4月からの中心的な対応が**「日米交渉の開始・推進」**であったことは、対米戦争回避を図る近衛外交の要点として押さえておくべきです。

【正解】3（対日石油輸出の全面的禁止）

解説

1941年7月末の南部仏印進駐に対し、アメリカはまず在米日本資産の凍結（7月）で金融面を封じ、続いて8月には石油の対日輸出を全面的に停止しました。日本の原油・石油製品輸入の大部分は当時アメリカに依存しており、禁輸は燃料・潤滑油・航空ガソリンの調達を直撃します。結果として海軍・陸軍・産業全体の稼働に深刻な制約が生じ、限られた備蓄（概ね1～2年分と見積もられました）での政策決定を余儀なくされました。

この措置は、英国・オランダ領東インド（蘭印）などによる対日輸出統制とも相まって、日本側が「ABCD包囲陣」と呼んだ経済・外交的圧迫を形成します。近衛内閣は戦争回避のため日米交渉を進めつつも、資源確保のための南進方針を強め、事態は一層硬直化しました。選択肢のうち①の資産凍結は7月の措置であり、問われている「8月の対抗措置」とは区別して押さえることが重要です。以上より、正解は対日石油輸出の全面的禁止です。

【正解】4（ABCD包囲陣で対日経済封鎖を強化した）

解説

「ABCD包囲陣」とは、America（アメリカ）、Britain（イギリス）、China（中国）、Dutch（オランダ＝蘭領東インド）による対日経済封鎖を日本側が呼んだ言い方です。1941年7月末の南部仏印進駐を受け、アメリカは在米日本資産の凍結と対日石油輸出の全面禁止を実施し、イギリスとオランダ（蘭印）もこれに同調して石油・ゴム・錫・ボーキサイトなど戦略物資の対日供給を遮断しました。中国側も対日物資の流入を抑える外交・経済的協調を進め、結果として日本は資源調達の生命線を圧迫されました。

重要なのは、ABCD包囲陣が条約や統一司令部による正式な軍事同盟ではなく、各国の政策協調によって実質的な経済封鎖が形成された点です。これにより日本の燃料・原材料の不足は一気に深刻化し、南方資源地帯への依存と「南進」の加速、さらには外交的孤立の進行を招きました。なお、選択肢③のABDA軍（米英蘭豪）は1942年に編成される軍事司令部であり、問われている制裁強化（1941年）とは時期も性格も異なります。以上から、正解はABCD包囲陣による対日経済封鎖の強化です。

1941年8月、大西洋上で会談中のフランクリン・ルーズヴェルト大統領とウィンストン・チャーチル首相 (Wikipedia)

【正解】4（現在の戦争がファシズムに対する民主主義防衛の戦争であることを宣言した）

解説

「大西洋憲章」は、1941年8月にニューファンドランド沖の会談でローズヴェルトとチャーチルが共同で示した戦争目的と戦後構想の原則です。文言上は包括的な八原則（領土不拡大、国民の自己決定、占領地の主権回復、通商・資源への公平なアクセス、生活水準の向上と社会保障、海洋の自由、侵略国の武装解除と恒久的平和機構の構築など）を掲げ、専制・侵略を拒む価値観を明示しました。これにより、当時進行中の戦争がファシズムに対する民主主義の防衛という理念的性格を持つことが広く示され、後の「連合国宣言（1942年1月）」や国際連合構想の基礎となっていきます。

もっとも、同憲章は条約ではなく政治的宣言であり、直ちに拘束力を持つものではありませんでした。また「民族自決」を掲げながら、英帝国の植民地統治との整合性には矛盾が残りました。それでも、憲章が提示した原則は連合国側の戦争目的を民主主義と自由の擁護へと位置づけ、対枢軸の国際世論形成に大きな効果をもたらした点が重要です。

【正解】2（1941〔昭和16〕年9月6日の御前会議）

解説

1941年9月6日の御前会議では、「帝国国策遂行要領」が決定され、対米交渉を継続しつつ開戦準備を同時並行で完成させる基本方針が定まりました。とくに重要なのは、対米交渉の期限を「10月上旬」までと区切り、その時点で日本の主要要求（中国問題の処理、三国同盟の扱い、資源・通商の回復など）が受け入れられる見通しが立たない場合には、米英との開戦を決意すると明確にした点です。これは外交と軍事準備を一体化させ、時間軸で政策を管理する転換でした。

なお、選択肢①の7月2日御前会議は南方重視を打ち出した早期の方針決定で、「情勢の推移に伴う帝国国策要綱」を採択したものです。選択肢③の11月5日御前会議は、交渉の行き詰まりを受けて期限を11月末へ実質延長し、12月初旬の武力発動準備を最終確認しました。選択肢④の12月1日御前会議は、**対米英蘭開戦（太平洋戦争）を正式決定した最終会議です。したがって、「10月上旬までの見通しが立たなければ開戦決意」**という方針を定めた会議は、1941年9月6日の御前会議であると押さえてください。

【正解】4（米英間の大西洋憲章を破棄すること）

解説

1941年のハル＝野村会談を中心とする日米交渉で、日本側が提示した要望の柱は、①米英の日中戦争への不介入、②米英が日本の国防を害する行動に出ないこと（経済制裁や軍事的威圧の緩和）、③資源・通商面で日本の物資獲得に協力すること（石油など南方資源へのアクセス、資産凍結解除・通商回復）でした。これらはA案（包括的妥結）・B案（暫定協定）といった交渉文書にも反映され、戦争回避と経済再建を狙う実務的要求であったといえます。

一方、大西洋憲章の破棄は米英の戦争目的に関する政治宣言に対する介入であり、日本が公式に要求した事実はありません。したがって本問で正しくないのは④です。

日本側の要求に対し、アメリカ側は日本軍の中国・仏印からの撤退、日独伊三国同盟の事実上の空文化を強く主張し、交渉は完全に行き詰まりました。結果として、近衛内閣の総辞職後も対立は解けず、情勢は一層緊迫していきます。