弘仁・貞観文化のことがよくわかる！クイズ10問

正解：2. 弘仁・貞観文化
解説：
弘仁・貞観文化は、平安遷都（794年）後の9世紀を中心に、平安京の宮廷と貴族社会を舞台に花開いた唐風志向の文化です。桓武・嵯峨・淳和・仁明・文徳・清和朝にわたり、遣唐使の派遣で最新の唐の学芸・制度がもたらされ、洗練された漢文学（詩文）が隆盛します。勅撰漢詩文集『凌雲集』『文華秀麗集』『経国集』が編まれ、国家的事績を記す六国史（『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』など）の編纂も進みました。菅原道真ら学者官人の活躍もこの時期の特色です。書は**三筆（嵯峨天皇・空海・橘逸勢）**が名高く、唐様の端正な筆致が尊ばれました。
宗教面では、最澄（天台）と空海（真言）が唐から密教を本格導入し、延暦寺・東寺・高野山を拠点に密教美術が発達します。彫刻は量感豊かで力強い作風が多く、一木造の密教像が多数造立されました。建築も東寺・神護寺などに代表される堂塔の整備が進み、儀礼・法会・楽舞（雅楽）も宮廷文化を彩りました。
選択肢の「天平文化」は奈良時代の唐風国際色豊かな文化、「国風文化」は10世紀以降に和様のかな文学（『古今和歌集』『源氏物語』など）が成熟する段階、「延喜・天暦文化」は10世紀中葉の洗練期を指します。したがって、8世紀末～9世紀末頃に平安京を中心に栄えたのは弘仁・貞観文化です。

正解：2. 大学別曹
解説：
大学別曹（だいがくのべっそう）は、平安時代の有力貴族が自氏の子弟のために大学寮の近くに設けた氏族経営の寄宿・教育施設です。国家の最高学府はあくまで大学寮でしたが、実際の学習・生活・経済的支援の多くはこの別曹で行われました。別曹は、講義の補習、経書・史書の素読や文章作成の訓練、書道・算道・明法道（律令法）の実務教育、試験対策などを包括的に担い、優秀な博士家や学識経験者を招いて教授しました。代表例として勧学院・弘文院・奨学院・学館院などが知られ、氏のネットワークを通じて教材・師資・費用を確保した点が大きな特色です。
背景には、蔭位の制や家格による官人登用が進むなかで、自家の後継官人を安定的に育成する必要があったことがあります。別曹は、衣食住の提供や学資の援助、学業規律の維持といった寄宿舎機能も果たし、貴族子弟が都で学ぶための安全網かつ進路指導機関として機能しました。
選択肢の「大学寮」は国家直営の官学で、「国学」は各国の地方学校、「私塾」は個人開設の学問所です。これらと異なり、**大学別曹は氏族が運営する“大学寮付属の私的教育機関”**として、平安貴族の教育を実質的に支えました。

正解：3. 最澄
解説：
最澄（さいちょう, 767–822）は、延暦23年（804）に遣唐使の船で入唐し、天台山で智顗の教え（法華一乗）を継ぐ天台教学や戒律を学びました。翌805年に帰国すると比叡山に拠点を置き、延暦寺を中心に天台宗を開きます。最澄は「一乗思想（法華経中心）」を国家仏教の新たな柱とすることを目指し、南都六宗中心の奈良仏教に対して、比叡山に大乗戒壇の設立を強く訴えました。これは小乗戒（具足戒）に代わって菩薩戒による僧の育成を行う構想で、後の日本仏教全体に大きな影響を与えます。
また、最澄は教学・実践の総合化を重視し、顕教（天台）に加えて密教・禅・戒の四宗兼学を掲げました。人材育成では『山家学生式』を定め、国家と社会に奉仕する僧の養成を制度化しました。なお、選択肢の空海は同じ804年に入唐して真言宗を開いた人物、鑑真は唐から日本に渡来して戒律を伝えた僧、行基は奈良時代の民衆教化と社会事業で知られる高僧であり、いずれも「天台宗を開いた僧」ではありません。

正解：1. 一隅を照らす、これすなわち国宝なり
解説：
この言葉は、最澄が比叡山の僧教育規程『山家学生式（さんげがくしょうしき）』で示した理念で、「各人が自らの持ち場＝一隅を明るく照らすように尽力する者こそ、国家の真の宝である」という意味です。最澄は、国家の繁栄は財貨や権勢ではなく、利他の心と実践を備えた人材にかかると説きました。背景には、法華一乗思想にもとづく菩薩行（衆生済度）の重視があり、学問・修行は自己の栄達ではなく社会への奉仕に結びつくべきだと位置づけられています。
『山家学生式』は、比叡山で学ぶ学生僧に対し、学問（経論の研鑽）・戒（大乗戒）・実践（勤労・奉仕）を統合すること、そして**「忘己利他」の精神で地域社会に貢献することを求めました。したがって「一隅を照らす」は、どんな小さな持ち場でも誠実に努力し、身近な人びとを照らす行為の積み重ねが国家全体の光明になる、という倫理的・教育的スローガン**です。
なお、選択肢2「初心忘るべからず」は世阿弥の能楽論、3「和を以て貴しとなす」は聖徳太子の十七条憲法、4「知行合一」は明代・王陽明の語であり、最澄の『山家学生式』の言葉ではありません。

正解：4. 空海
解説：
空海（くうかい, 774–835）は、延暦23年（804年）の遣唐使に随行して入唐し、長安の青龍寺で恵果（けいか）に師事して密教の奥義を学びました。胎蔵界・金剛界の両部灌頂を受け、法器・経軌・曼荼羅・梵字法などの一切を正統に継承したとされます。大同元年（806年）に帰国後は、真言密教を体系化して真言宗を開き、のちに京都の東寺（教王護国寺）や紀伊の高野山金剛峯寺を拠点として教線を広げました。書の名手として三筆（嵯峨天皇・橘逸勢と並称）に数えられ、さらに庶民教育を志して綜芸種智院（828年）を設立するなど、宗教・文化・教育の各面で大きな足跡を残しています。
一方、最澄（さいちょう, 767–822）は同じ804年の遣唐使（同一の派遣＝船団）で入唐し、天台教学を学んで帰国後に天台宗（比叡山延暦寺）を開きました。選択肢の円仁・円珍はいずれも9世紀中葉に唐へ留学した天台宗の高僧で、鑑真は奈良時代に唐から日本へ渡来して戒律を伝えた僧です。したがって、最澄と同じ遣唐使の渡航で密教を日本にもたらしたのは空海です。

正解：3. 嵯峨天皇と橘逸勢
解説：
「平安の三筆」とは、嵯峨天皇・空海・橘逸勢の三人を指す称号です。初期平安期に唐風の書法（楷・行・草の均整と力感）を摂取・洗練し、宮廷文化の中で日本書道の基礎を築いた功績が評価されています。嵯峨天皇は端正で典雅な筆致で知られ、橘逸勢は鋭さと躍動感のある運筆で名高く、空海は豊かな構成力と精神性に富む書で後世に大きな影響を与えました。
一方で、選択肢にある小野道風・藤原佐理・藤原行成は「平安の三跡」と呼ばれる中期以降の名筆で、和様書の確立に寄与した別グループです。したがって、空海と並び立つ「三筆」の残り二人は嵯峨天皇と橘逸勢です。

正解：1. 現世利益が得られるから
解説：
平安期の密教（天台・真言）は、護摩・加持祈祷・修法などの厳密な儀礼によって、国家安泰・五穀豊穣・疫病退散・敵対勢力の調伏・延命長寿・安産といった具体的な効験（現世利益）をもたらすと信じられました。とくに朝廷は、旱魃時の祈雨、地震・疫病の鎮静、怨霊や御霊の鎮撫など、当面の政治課題や災厄への即応を必要としており、密教の法力に強い期待を寄せました。
密教は宇宙観（両界曼荼羅）と真言・陀羅尼・印契による象徴操作を通じて、天皇＝国家の中心が宇宙秩序を調えうるというイデオロギーを提供し、国家鎮護の宗教として制度化されます。空海の東寺（教王護国寺）や最澄系の延暦寺が朝廷の祈祷所として機能し、宮廷儀礼と一体化していきました。

正解：4. 神仏習合
解説：
神仏習合（しんぶつしゅうごう）とは、日本古来の神祇信仰と外来の仏教が互いに融和・一体化していく動向のことです。奈良時代に端緒が見られますが、密教導入とともに国家儀礼や貴族の信仰が高度化した弘仁・貞観期（9世紀）に、寺院の鎮守社（ちんじゅしゃ）の整備や神社側に神宮寺（じんぐうじ）が併設されるなど、制度・実践の両面で一層進展しました。たとえば比叡山延暦寺は日吉（山王）社を鎮守として祀り、東寺・神護寺などでも神と仏が相互に護持する関係が形成されます。こうして神は仏教的儀礼の守護者となり、仏教は在地神を取り込むことで地域社会への浸透力を強めました。
なお、選択肢の本地垂迹説（3）は、神を仏の権現（仮の姿）と位置づける教理で、神仏習合の理論化として中世に本格化します。御霊信仰（1）は怨霊鎮撫の信仰、末法思想（2）はとくに11世紀以降に広がる仏法衰退観で、いずれも9世紀の「神仏の融合」という趣旨とは異なります。したがって、この時期に進んだ新しい宗教動向は神仏習合です。

正解：2. いかめしい表情をした不動明王像
解説：
弘仁・貞観期（9世紀）の宗教文化を特徴づけるのは、天台・真言に代表される密教の本格的な受容と展開です。密教では、如来・菩薩の静かな相だけでなく、煩悩・災厄を力で制する明王が重視され、不動明王はその中心的存在として造像が盛んになります。不動明王はサンスクリット名アチャラ（不動）に由来し、右手に利剣（倶利伽羅剣）、左手に羂索を持ち、背に迦楼羅炎を負う忿怒相（いかめしい表情）で表されます。これは迷いや悪を断ち、衆生を索め取って救済する力を象徴します。
造形面でも、初期平安の密教彫刻は量感豊かで力強いプロポーションと簡潔で深い衣文表現が特徴で、一木造の作例が多く見られます。こうした明王像は、護摩・加持祈祷などの密教儀礼の本尊・脇侍として重用され、国家鎮護や現世利益を求める宮廷・貴族の信仰需要に応えて広まりました。選択肢の阿弥陀如来や観音菩薩は主に浄土・菩薩信仰の系譜で、飛鳥仏は時代が前の様式です。したがって、弘仁・貞観期に新しく前面化した密教的造像として適切なのは不動明王像です。

正解：3. 曼荼羅
解説：
曼荼羅（まんだら、Skt. maṇḍala）は、密教が説く宇宙（法界）と諸尊の関係を幾何学的・象徴的に配置して図示した絵画です。中心に大日如来を据え、その周囲に如来・菩薩・明王・天部を一定の秩序で区画（院）ごとに配列します。代表的なものに、慈悲と生成を象徴する胎蔵界曼荼羅と、智慧と悟りの不壊性を示す金剛界曼荼羅（九会）があります。これらは単なる美術作品ではなく、修行者が本尊と同体となるための観想（瞑想）や灌頂の次第図として機能し、道場荘厳や護摩・加持祈祷にも用いられます。素材は絹本着色が多く、方形区画と同心円的構成、色相・持物・印相の厳密な規定によって宗教的宇宙観を可視化します。
一方、「来迎図」は阿弥陀如来が臨終者を迎える浄土教絵画、「仏涅槃図」は釈迦入滅を主題とする説話画、「頂相」は高僧の肖像画です。密教の宇宙を体系的に図示するものは曼荼羅です。