国風文化のことがよくわかる！クイズ10問

正解：2

解説：

カタカナは平安初期に、主として寺院の学僧が漢文を日本語として読み下すための訓点作業の中で発明されたと考えられています。漢字そのもの（万葉仮名）を全面的に用いると煩雑であるため、漢字の一部分――偏（へん）・旁（つくり）・折れ曲がりなどの特徴的な画――だけを抜き出して音価を担わせ、簡略な表音記号として使い始めました。これが「片（かた）仮名」、すなわち「漢字の“片”を取った仮名」という名の由来です。

たとえばアは「阿」、イは「伊」、ウは「宇」、エは「江」、オは「於」、カは「加」、キは「幾」、クは「久」、ケは「介」、コは「己／古」の一部をもとにしています。こうした部分取りの発想により、字形は直線的・角張ったものが多くなりました。

これに対し、ひらがなは同じ万葉仮名でも漢字全体を草書にくずして生まれた文字で、曲線的で流れるような形が特徴です。つまり、両者は同じ万葉仮名に源をもちながら、カタカナは「一部抽出の略記」、ひらがなは「全体の草書化」という別の生成プロセスをたどりました。カタカナは当初、経典の注記や語句の読みを示す補助記号として実務的に用いられ、のちに外来語、擬音語、専門用語の表記などにも広がっていきました。です。

正解：3

解説：

「古今和歌集」は、延喜5年（905年）頃、醍醐天皇の勅命によって紀貫之・紀友則・凡河内躬恒・壬生忠岑らが撰した、最初の勅撰和歌集です。全20巻からなり、春・夏・秋・冬・賀・離別・羇旅・物名・恋・雑といった部立で構成され、収録歌は約1100首（通数1111首）とされます。平安初期の貴族社会の洗練された美意識やことばの技巧を典型化し、後世の和歌作法の基準を確立しました。序文として、紀貫之が仮名で記した「仮名序」と、紀淑望（よしもち）による漢文の「真名序」が付され、和歌の本質や歴史・評価基準が論じられています。以後の勅撰集（いわゆる二十一代集）の出発点となり、日本の和歌史における画期的な転換を示す集成であると評価されます。

正解：3

解説：

日本最古の物語は『竹取物語』です。平安時代前期の10世紀ごろに成立したと考えられ、作者は不詳です。物語は、竹取の翁が竹の中から見つけた少女「かぐや姫」を育て、成長した姫に求婚する貴族たちが不可能に近い宝物探しに挑むも失敗し、最後はかぐや姫が月の世界へ帰るという筋立てです。作中には、求婚譚・試練・超自然的存在の来訪・別離など後世の物語文学に受け継がれる基本モチーフが整っており、架空世界の創作を核にした本格的な「物語（フィクション）」として完成しています。

これに対して、『日本書紀』や『古事記』は神話・伝承を含みますが、体裁は歴史書であり、創作物語としての「物語」とは区別されます。また『伊勢物語』は歌物語で、和歌を中心に短い挿話が連なる構成であり、長編の起伏あるプロットをもつ『竹取物語』とはジャンル上の性格が異なります。『源氏物語』は物語文学の頂点とされますが、成立は11世紀初頭で『竹取物語』より後です。以上の点から、『竹取物語』が日本最古の本格的物語と位置づけられます。

正解：4

解説：

紫式部の卓越性は、人物の心の機微を重層的に描き分ける「心理描写の細やかさ」にあります。『源氏物語』では、喜び・嫉妬・罪悪感・逡巡・諦念といった揺れ動く感情が、地の文の焦点化（視点の寄せ方）や、自由間接話法に近い言い回しによって段階的に開示されます。直接語らず余情で示すため、読者は登場人物の内面に「気づいてしまう」読解体験を得ます。

和歌の贈答を心情の媒介として配し、語句の典拠や言い回しの差異で関係の緊張や変化を示すのも巧みです。さらに、敬語や呼称（君・御方・女三宮など）の選択や微妙な変化で心理的距離や上下関係を示し、台詞に頼らず内面の位置関係を立ち上げます。情景や季節語も心象の反映として用いられ、月・雨・花などが人物の感情曲線と照応します。

各巻の具体例としては、「葵」での六条御息所の抑えがたい嫉妬と自尊心の葛藤、「若紫」での光源氏と若紫の心の距離の縮まり、「柏木」での禁忌を犯した青年の罪責と崩壊、「幻」や「御法」での喪失後の自己省察、「宇治十帖」での薫・匂宮・浮舟の関係における揺れる自意識と自己欺瞞などが挙げられます。物語は青春から老い、次世代へと長い時間をかけて心の変容を追い、無常観と「もののあはれ」を深く感じさせます。こうした技法の総合によって、『源氏物語』は日本文学史上屈指の心理小説として評価されるのです。

正解：2

解説：

『枕草子』は清少納言が宮廷生活の見聞や感興を、短い章段に断続的に書き付けた随筆（エッセイ）です。冗長な叙述を避け、要点を素早く提示する簡潔な文体が特徴です。季節や行事、人物評をめぐって、「春はあけぼの」に代表される明快な断定や、対象をテンポよく並べる列挙法（「うつくしきもの」「にくきもの」など）を多用し、読者に鮮烈な印象を与えます。体言止めや反復、対比表現を巧みに用いることで、場面の空気と筆者の審美眼を即座に伝えるキレの良さが生まれます。

また、作者の知的機知と観察眼が前面に出ており、批評的・ユーモラスな語り口が躍動します。和歌を添える場面はありますが、和歌自体を中心に据えるのではなく、雑感・寸評・ランキング的列挙を組み合わせた軽快な運びが核になります。以上のように、『枕草子』は簡潔でキビキビしたエッセイ風の文章で書かれているといえます。

（文例）

春は、あけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこし明かりて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる。

秋は、夕暮。夕日のさして、山のいと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛びいそぐさへあはれなり。

正解：4

解説：

「三跡」は、平安時代中期（10～11世紀）に和様書の確立に大きく貢献した三人の能書家、小野道風（おのの みちかぜ）・藤原佐理（ふじわらの さり）・藤原行成（ふじわらの ゆきなり）を指します。三人はいずれもかなと漢字の調和を重んじ、柔らかさと品格を両立させた日本独自の書風（和様）を高水準に完成させました。道風は量感のある雄渾な運筆で力強さを示し、佐理は奔放で変化に富むリズム感のある筆致が特色です。行成は端正で品格の高い書を理想とし、のちに宮廷で主流となる「世尊寺流」の祖と仰がれます。こうした相補的な三様の美質が、かな書の表現領域を大きく広げ、後世の書流形成に決定的な影響を与えました。

なお、よく混同される「三筆（さんぴつ）」は、同じ平安でも前期の嵯峨天皇・空海・橘逸勢を指し、中国風の書風を基盤とした名筆家たちです。中期の和様の成熟を象徴するのが「三跡」である点を押さえておくと理解が深まります。

正解：1

解説：

正解は空也（903–972）です。空也は平安時代中期の遊行僧で、都や市（いち）を巡って庶民に念仏を広めたことから「市聖」と呼ばれました。また阿弥陀仏への深い信仰と念仏勧進の活動から「阿弥陀聖」とも称されます。飢饉や疫病の際には施薬・施茶・托鉢勧進などの救済活動に努め、宗教的救済と社会事業を結びつけた点が大きな特色です。念仏を節をつけて唱え、踊りながら群衆に勧めたと伝わる「踊念仏」も空也に由来するとされます。京都・六波羅蜜寺に残る康勝作の「空也上人立像」では、口から六体の阿弥陀が現れて「南無阿弥陀仏」の六字を表す姿が表現され、空也の教線の実像をよく伝えています。

なお、源信（942–1017）は貴族層に向けて『往生要集』を著し浄土思想を理論化した僧で、良忍（1072–1132）は融通念仏宗の祖、法然（1133–1212）は専修念仏を掲げて浄土宗を開いた人物です。空也はこれらより早い世代に庶民レベルで念仏信仰を広く浸透させた点に意義があるといえます。です。

正解：2

解説：

正解は平等院鳳凰堂です。藤原頼道（992–1074）は、父・藤原道長の別業だった宇治の邸宅を1052年（永承7）に寺院化し、翌1053年に阿弥陀堂（鳳凰堂）を完成させました。平安後期に広がった阿弥陀信仰と末法思想（1052年が末法元年と意識されたこと）を背景に、西方極楽浄土をこの世に具現化する「浄土式庭園」と阿弥陀堂を整えたのが特色です。

鳳凰堂は、中央の堂を左右の翼廊・背面の尾廊が囲む独特の平面構成で、まるで翼を広げた鳳凰の姿に見えることから名づけられました。屋根上には一対の鳳凰像が据えられ、堂内には仏師・定朝による本尊阿弥陀如来坐像（寄木造・金箔押し）が安置されます。内壁や扉には「来迎図」や天人奏楽の絵が施され、阿弥陀の来迎シーンを視覚的に体験できる空間となっています。

また、鳳凰堂は日本の美の象徴として10円硬貨の図柄に採用され、平等院は「古都京都の文化財」の一部として世界遺産にも登録されています。なお、他の選択肢の法隆寺金堂は飛鳥時代の仏教建築、三十三間堂は平安末〜鎌倉期の千体観音で著名、中尊寺金色堂は奥州藤原氏（藤原清衡）による12世紀の霊廟で、いずれも頼道の阿弥陀堂とは異なります。です。

正解：4

解説：

本地垂迹説は、仏や菩薩という「本来の姿（本地）」が、人々を導くために日本の神として「跡を垂れる（垂迹）」＝仮の姿を取って現れると考える理論です。平安時代に神仏習合が深まり、寺社の共存や祭祀・信仰の統合を合理化する教義として広まりました。これにより、各地の神は特定の仏・菩薩の化身と位置づけられ、たとえば八幡神が「八幡大菩薩」と尊称されたり、春日社の神々が諸仏の権現と説明されたりしました。こうした対応関係は「権現（ごんげん）」という称号や、神仏習合の社殿配置・祭礼・縁起絵巻（〇〇権現縁起）などにも具体化します。

本地垂迹説は、神祇を在地の守護として敬ってきた日本的感性と、仏教の救済論を矛盾なく接合する枠組みでした。結果として、神社に仏像・仏具が置かれる神宮寺の成立、社前での読経・修法、仏教的徳目で神徳を語る縁起の展開など、宗教文化の各面に影響を与えます。

正解：4

解説：

平安時代中期に広がった阿弥陀仏への信仰は「浄土教」と呼ばれます。浄土教は、西方極楽浄土に住む阿弥陀仏を信じ、「南無阿弥陀仏」と称名念仏をとなえることで来世の極楽往生を願う教えです。遊行僧の空也（903–972）は都や市を巡って庶民に念仏を勧め、「市聖」「阿弥陀聖」と称されました。踊り念仏や施薬・施茶など実践的な救済活動により、念仏は宮廷外の人々にも届くようになりました。

一方、比叡山の僧・源信（942–1017）は『往生要集』（985年）を著し、極楽の清浄と地獄の恐怖を対照的に描き、念仏往生の理論と実践を体系化しました。11世紀には「末法」の到来が意識され（とくに1052年）、現世の乱れを救う方便として念仏・阿弥陀信仰がいっそう支持を得ます。藤原頼通が宇治に建立した平等院鳳凰堂（1053年）は、西方浄土をこの世に表現しようとする浄土教美術・庭園の代表で、来迎図や阿弥陀如来像（定朝作）などが信仰のイメージを視覚化しました。

なお、この時期の浄土教は広義の信仰運動であり、のちに法然（1133–1212）が専修念仏を掲げて開く宗派としての浄土宗や、親鸞の浄土真宗より先行する段階です。選択肢の真言密教や法華信仰、律宗は別系統の教えであり、平安中期の阿弥陀信仰の広がりを示す名称としては浄土教が適切です。