鎌倉文化（仏教）のことがよくわかる！クイズ10問

【正解】3
解説
『正法眼蔵』は、曹洞宗の開祖・道元（1200–1253）が説いた禅の根本思想を、日本語（和文）中心の仮名交じり文で編んだ代表作です。題名は「正しい仏法を見る“眼”の蔵＝真理を見抜く智慧の宝庫」を意味します。収録篇の構成は伝本により異なり、一般に「七十五巻本」「十二巻本」など複数の体系が伝わっていますが、いずれも法話をもとにした各章（巻）が主題ごとに立てられているのが特色です。主要な章には「現成公案」「有時」「仏性」「身心脱落」「修証一等」などがあり、只管打坐（ひたすら坐る）という実践を中心に、修行と悟りは同時に成り立つという独自の立場を展開します。とくに「現成公案」では、存在そのものが真理を顕現しているという視座を平明かつ力強い言葉で説き、日本思想史上きわめて大きな影響を与えました。
選択肢のうち『興禅護国論』は栄西の著で臨済宗の護国思想を述べたもの、『碧巌録』は宋代の公案集（圜悟克勤の評唱）、『臨済録』は臨済義玄の語録であり、いずれも道元の著作ではありません。以上の点から、道元の代表作は『正法眼蔵』が正解となります。

【正解】2
解説
正解は法然（1133–1212）です。法然は平安末から鎌倉初期にかけて活躍した僧で、浄土宗の開祖とされています。彼は、末法の時代には高度な修行や学問に依存せずとも、阿弥陀仏の本願を信じて「南無阿弥陀仏」と称える念仏を専らにすれば、誰であっても往生できると説きました。これを「専修念仏」（せんじゅねんぶつ）といい、身分・性別・善悪の別を超えて万人に開かれた救いの道として強い支持を集めました。
その理論的基礎を示した著作が『選択本願念仏集（せんちゃく ほんがん ねんぶつ しゅう）』で、阿弥陀の「選択本願」によって念仏こそが往生の要道であると整理しています。法然の運動は既成寺院勢力からの反発も招き、1207年には弾圧（建永の法難）を受けて土佐へ配流となりましたが、赦免後も教えは広がり、庶民から武士・貴族に至るまで多くの帰依者を生みました。法然の教えは、「浄土宗」と呼ばれるようになりました。
選択肢のうち、親鸞は法然の高弟で、念仏の救いをさらに徹底させて「悪人正機」を強調した浄土真宗の祖です。栄西は臨済宗を伝えた禅僧で、念仏の専修を唱えたわけではありません。一遍は踊り念仏で知られる時宗の祖で、民衆遊行を通じて念仏を広めました。したがって、善人・悪人を問わない普遍的往生を念仏によって初めて大きく提唱した僧は法然です。

正解：4. 親鸞
解説
親鸞（1173–1263）は、法然の高弟で、阿弥陀仏の「本願力」にすべてをゆだねる「他力本願」を徹底して説いた人物です。親鸞は比叡山での修行に限界を感じ、法然のもとで専修念仏を学びましたが、念仏を「救いの原因」とするよりも、阿弥陀の誓願を信じ受ける「信心（しんじん）」こそが正因であると主張しました。これをしばしば「信心正因・称名報恩」と言い、念仏は救いを得るための手段というより、救われた喜びの表現であると位置づけます。
1207年の承元の法難で流罪となりましたが、この経験を通じて他力の理解をさらに深め、『教行信証』に体系化しました。親鸞が強調した他力は「絶対他力」とも呼ばれ、煩悩具足の凡夫こそが阿弥陀の本願の対象であるという立場から、「悪人正機」の思想でも知られます。これは「悪を勧める」趣旨ではなく、自力善行に頼れない者も等しく救われるという、救済の普遍性を示すものです。のちに親鸞の教えは浄土真宗として広まり、門徒共同体の形成など日本宗教史に大きな影響を与えました。
なお、選択肢の他の人物との違いを整理します。法然は師であり、念仏一行を勧めましたが、親鸞はその意義を「信心」を中心に再解釈しました。一遍は時宗を開き踊念仏で布教しました。日蓮は南無妙法蓮華経の題目を唱える立場で、いずれも親鸞の他力本願とは教義が異なります。

【正解】3

【解説】

叡尊（えいそん, 1201–1290）は奈良・西大寺を拠点に戒律（律宗）の再興を主導した鎌倉中期の高僧です。とりわけ受戒（授戒）の制度を整え、僧侶だけでなく在家にも戒を授ける実践を広めることで、荒廃していた戒律の伝統を現実社会の中に復活させました。叡尊の運動は真言教学の行法と厳しい戒律実践を結びつけたため「真言律宗（西大寺流）」とも呼ばれ、宗派横断的な求道と社会救済をともに重視した点に特色があります。

また、叡尊の高弟である忍性（にんしょう）が鎌倉・極楽寺を拠点に病者救済、橋梁・道路の整備、施薬院や悲田院の運営など大規模な社会事業を展開したこともあり、叡尊一門は「現世利益としての慈善」を積極的に実行しました。こうした実践は幕府（北条氏）からの保護・寄進や、朝廷からの尊崇・綸旨による後押しを受け、叡尊自身も朝野から篤く遇されました。

なお、選択肢のうち栄西は臨済宗の開祖、日蓮は日蓮宗の開祖であり、忍性は叡尊の高弟として救済事業で著名です。律宗の「復興」を主導し、幕府と朝廷双方に重んじられた中核人物は叡尊です。

正解：3. 一遍
解説
一遍（1239〜1289）は時宗の開祖で、「遊行上人」と称されます。各地を巡り、市や寺社の縁日で集まった人々とともに太鼓や鉦に合わせて「踊り念仏」を行い、庶民にわかりやすい形で阿弥陀信仰を広めました。布教の際に配ったのが「念仏札（賦算・ふさん）」で、札に「南無阿弥陀仏」と記し、人びとに授けることで阿弥陀仏との結縁を結ばせ、身分や善悪を問わず救いに与れると説きました。これは一遍の徹底した他力観と平等救済の姿勢を象徴する実践で、寺檀や戒律よりも「称名」と「結縁」を重視した点に特色があります。
一遍は「捨聖」とも呼ばれるように定住を避け、財や地位に執着しない遊行を生涯貫きました。彼の活動は没後に『一遍聖絵』として視覚的に記録され、踊り念仏と札配りの様子が具体的に描かれています。なお、法然は専修念仏を説いた浄土宗の開祖、親鸞は悪人正機を説いた浄土真宗の祖、良忍は融通念仏宗の祖であり、いずれも一遍とは教義・布教形態が異なります。しばしば平安期の空也が踊り念仏で知られますが、「念仏札」を配りつつ全国を遊行して大衆運動として組織的に広めたのは一遍である点が決定的な違いです。

正解： 3. 栄西
解説
栄西（1141–1215）は比叡山で天台を学んだ後、宋へ二度渡航し、臨済宗の法を受けて帰国した僧です。帰朝後は座禅と公案を中心とする禅の実践を日本で体系的に広め、禅宗を独立した宗派として根付かせました。とくに、禅の受容を正当化するために著した『興禅護国論』（1198年）では、禅の修行が国家と社会の安定に資すると論じ、朝廷や武家からの支持を得る理論的基盤を提示しました。
また、栄西は京都に建仁寺（1202年）を開創し、鎌倉では寿福寺（1200年）の開山となるなど、宗門の拠点づくりにも尽力しました。これらの寺院は学問・修行の場として機能し、のちの禅の発展に大きな影響を与えます。さらに『喫茶養生記』（1211年）を著して茶の効用を説くなど、禅と生活文化を結びつけた点でも重要で、武家社会に適合する厳格な戒律・規矩と実践性を提示したことが受容を後押ししました。
なお、選択肢の道元は曹洞宗の祖で、只管打坐を重視して13世紀に禅をさらに深化させました。法然と一遍はそれぞれ浄土宗・時宗の祖で、念仏による救いを説きます。したがって、座禅と公案を柱とする臨済禅を日本へ本格導入した人物としては栄西が正解になります。

【正解】3
解説
日蓮宗は鎌倉時代の僧・日蓮（1222–1282）が開いた仏教で、『法華経』を根本聖典とし、題目「南無妙法蓮華経（なむみょうほうれんげきょう）」を唱える唱題の実践を中心に据えるのが最大の特色です。ここで「南無」は「帰依します」の意で、「妙法蓮華経」は法華経の漢題を指します。すなわち、法華経の真実の教えに身を委ね、その功徳を全身で受け取る行として、日々の唱題を勧めるのです。
当時は末法思想が広まり、人々は救いの確実な道を求めていました。日蓮は、どの身分・性別であっても唱題によって現世・来世にわたる安穏と成仏が得られると説き、社会や国家の安定も正しい信仰（立正）によって実現すると主張しました。代表作『立正安国論』により為政者に諫言したため、龍ノ口法難や佐渡流罪などの弾圧も受けますが、教線は各地に広がりました。宗風としては、誤りを鋭く指摘して正法に導く「折伏（しゃくぶく）」と、相手の機根に応じて和やかに導く「摂受（しょうじゅ）」の双方を用いる点が知られています。拠点は身延山（久遠寺）などで、今日まで多くの在家信徒を擁します。
なお、他宗との違いを確認すると、浄土宗は阿弥陀仏への「念仏」を中心とし、真言宗は密教の「真言・曼荼羅・護摩」などの行を重視し、曹洞宗は「只管打坐（ひたすら坐禅）」を根本とします。日蓮宗はこれらと異なり、『法華経』への帰依を明確にし、題目の唱和を通じて仏のいのちを現実に顕すことを重視する点が特徴であると言えます。

【正解】2
解説
建長寺は1253年（建長5年）に鎌倉幕府の執権・北条時頼の発願により建立が始まり、南宋から渡来した臨済宗の高僧・蘭渓道隆（らんけいどうりゅう）が開山・初代住持として寺を主導しました。日本仏教では、寺の造営や資金・政治的後ろ盾を担う「創建（発願者）」と、宗旨を据えて修行制度を整える「開山（創立僧・初代住持）」を区別するのが通例で、建長寺の場合は造営＝北条時頼、開山＝蘭渓道隆という体制で成立したのが特徴です。問題の意図は、鎌倉禅宗寺院の成立において中心的役割を果たした人物＝開山を問うもので、蘭渓道隆が正答となります。
蘭渓道隆は1246年に来日し、厳格な戒律と本格的な禅の修行制度を導入しました。建長寺はその結果、日本で最初期の本格的な禅専門道場として整備され、のちに「鎌倉五山第一位」とされる重鎮寺院へ発展します。講堂（法堂）や僧堂などの伽藍配置、坐禅と公案を重視する臨済の実践、宋学・禅林文化の受容など、建長寺を舞台にした制度化が、鎌倉・室町期にかけての禅宗の広がりに大きく寄与しました。
なお、他の選択肢は次のように関連します。
栄西：日本臨済宗の祖で、京都に建仁寺（1202）を開きました。建長寺ではありません。
道元：曹洞宗の祖で、越前に永平寺を開きました。宗派も寺も別です。
無学祖元：南宋の高僧で、鎌倉の円覚寺の開山として知られます（発願は北条時宗）ので、建長寺とは異なります。
以上のように、建長寺の開山＝蘭渓道隆であり、鎌倉禅の制度化を主導した点が決め手になります。

【正解】3
【解説】
円覚寺は、鎌倉幕府第8代執権の北条時宗が開基（造営の主体）となって1282年（弘安5年）に創建された禅寺です。時宗は元寇（文永の役1274年・弘安の役1281年）ののち、戦没者の供養と国家安泰を祈るために大寺を建立する必要を感じ、南宋の高僧・無学祖元（むがくそげん）を招いて開山（初代住持）としました。円覚寺は鎌倉五山第二位に列せられ、北鎌倉に壮大な宋風の伽藍を整え、のちの日本禅の発展に大きな影響を与えます。寺名は造営の際に発見されたと伝わる『円覚経』にちなむとも言われます。
選択肢の人物関係を整理します。北条時宗は「開基＝造営の主体」で本問の正解です。無学祖元は「開山＝宗教的創始者」であり、造営者ではありません。北条時頼は円覚寺ではなく、建長寺（1253年）の開基として知られます。蘭渓道隆は建長寺の開山で、円覚寺とは役割と寺院が異なります。したがって、「誰が円覚寺を造営（開基）したか」を問う本問では北条時宗が正答となります。

【正解】4

解説

鎌倉時代は、武家政権の成立や度重なる戦乱（治承・寿永の乱、承久の乱）、天災や飢饉、さらに元寇などにより社会不安が広がった時代でした。こうした中で、人々は身分や学識の差を越えて、誰もが確実な救いに至れる道を求めました。新仏教の諸宗派――浄土宗・浄土真宗（日蓮宗、時宗を含む民衆教化系）や禅宗（臨済宗・曹洞宗）――は、そのニーズに応じて「平易で実行しやすい修行」を提示したことが大きな特徴です。

具体的には、法然の専修念仏（「南無阿弥陀仏」と称えるだけで往生可能）、親鸞の他力本願の徹底（善悪や身分を超えた救い）、一遍の踊り念仏による民衆への直接布教、日蓮の題目（「南無妙法蓮華経」）による救済、栄西・道元らの禅の実践（坐禅を通じて自らの本来の面目に気づく）など、いずれも「誰にでも届く方法」で精神の救い（成仏）を示しました。説教や和讃、辻説法、地方遊行などの布教スタイルも平易で、農民・商人・女性を含む幅広い層に受け入れられました。

一方、旧来の南都・北嶺の大寺院は国家鎮護や学問仏教の性格が強く、庶民にとって実践が難解に感じられる側面がありました。したがって、新仏教が多くの人々の信仰を集めた主因は、乱世の不安に応えつつ、救いの道筋を簡明に説き、行為（念仏・題目・坐禅）を通じて誰でも救済に達しうると示したからです。選択肢1・2・3のように、国家の強制や特権・難解さが支持を広げたわけではありません。

まとめ：

鎌倉仏教とは、鎌倉時代（12世紀末～14世紀初頭）に新たに興隆した仏教の流れを指します。この時代は、武士の台頭や政治権力の移行、さらに度重なる戦乱や自然災害によって社会不安が広がり、人々は現世での救済や来世での安寧を強く求めるようになりました。こうした社会背景のもと、従来の貴族中心の仏教から、庶民や武士にも広く受け入れられる新しい宗派が誕生したのです。

まず浄土宗を開いた法然は、阿弥陀仏の本願を信じ、念仏を唱えるだけで極楽往生ができると説きました。これは複雑な修行を必要とせず、誰でも救われるという平易さから、多くの民衆に支持されました。弟子の親鸞は浄土真宗を開き、信心そのものが救済の根本であると強調しました。これにより、善人も悪人も平等に救われるという思想が広まりました。

一方、時宗を開いた一遍は、踊り念仏によって信仰を全国に広めました。念仏札を配り、民衆と共に念仏を唱える活動は、人々に強い影響を与えました。

禅宗では、栄西が臨済宗を伝え、座禅と公案による悟りの実践を広めました。武士階級に好まれ、質実剛健な精神と結びつきました。また道元は曹洞宗を開き、「只管打坐」（ひたすら座禅すること）を重視しました。これにより、思索よりも実践そのものが悟りの道であるとされました。

さらに、日蓮は法華経こそが唯一の正しい教えであると主張し、「南無妙法蓮華経」と唱えることで救済が得られると説きました。強烈な排他性を持つ一方で、熱心な信者を獲得し、後世に大きな影響を残しました。

このように鎌倉仏教は、念仏による平等な救済、座禅による自己修行、題目による独自の信仰実践など、多様な形で展開しました。その背景には、戦乱や社会不安の中で「誰もが救われたい」という切実な願いがありました。鎌倉仏教は、民衆の生活と深く結びつき、日本仏教史の大きな転換点となったのです。

参考文献：

貫達人・石井進編 (1993) 『鎌倉の仏教』有隣堂
平岡聡著 (2021) 『鎌倉仏教』角川選書
松尾剛次著 (2009) 『山をおりた親鸞　都を捨てた道元ー中世の都市と遁世』法蔵館
松原泰道著 (2000) 『道元』アートデイズ
左方郁子著 (2014) 『法然』淡交社
西原祐治著 (2006) 『浄土真宗の常識』朱鷺書房