鎌倉文化（芸術作品）のことがよくわかる！クイズ10問

高徳院・大仏像（撮影：三上俊治）

【正解】3
解説
鎌倉大仏は、正式には「高徳院阿弥陀如来坐像」といい、鎌倉市長谷にある高徳院（山号：清雲山、宗派：浄土宗）に属するご本尊の一つです。浄土宗は法然を開祖とし、阿弥陀仏を念じて極楽往生を願う教えを中心に据えるため、鎌倉大仏も阿弥陀如来を表した像である点が宗派的特徴と一致します。像は青銅製の露坐の大仏で、高さ約11メートル超の堂々たる姿をもち、鎌倉期に鋳造が進められました。当初は堂内に安置されていましたが、中世の風水害・地震津波などで仏殿が失われ、以後は屋外で拝観される形となりました。しばしば奈良の東大寺盧舎那仏と比較されますが、奈良は華厳思想の盧舎那仏、鎌倉は浄土教の阿弥陀如来と尊格が異なります。選択肢にある建長寺・円覚寺は臨済宗の大本山で本尊も釈迦如来であり、東寺は真言宗の根本道場で不動明王が著名です。したがって、鎌倉大仏は「法然を開祖とする浄土宗・高徳院の阿弥陀如来坐像」と答えるのが正確です。

【正解】3
解説
鎌倉時代には、源頼朝・北条氏を中心とする武士政権が成立し、力強さ・実在感・機能美を尊ぶ価値観が広まりました。こうした武家的美意識は、筋肉や骨格を明確に表し、感情や気迫を可視化する写実的彫法を後押ししました。慶派（康慶―運慶・快慶・湛慶ら）の作風は、この需要に合致しており、力動感のある量感表現や玉眼（ぎょくがん）による迫真的な眼差し、精緻な衣文の彫りなどで高く評価されました。
さらに、治承・寿永の乱に伴う南都焼討後の大規模復興（東大寺再建など）によって、巨像から門将像、僧形像まで幅広い注文が発生しました。重源の勧進により多くの仏像制作が進み、慶派は寄木造の高度な分担制作や工程管理で短期間に良質な像を多数供給できました。この「実務力」も武家の信頼を得る要因でした。
加えて、鎌倉新仏教の広がりや現世利益志向の高まりにより、守護神的な忿怒像や、名僧の肖像彫刻への需要が増しました。こうした社会的・宗教的要請と武士政権の支援が相まって、慶派の写実主義は時代精神に合致し、運慶・快慶らの活躍へとつながったのです。

伝運慶作・金剛峯寺八大童子像のうち制多迦童子 (Wikipedia)

快慶作「金剛界大日如来坐像」（「仏像ワールド」HPより）

【正解】2

解説

快慶は鎌倉時代前期を代表する慶派の名匠で、端正で気品ある写実表現から「安阿弥様（あんなみよう）」と称されます。その代表作の一つが、滋賀県大津市の石山寺に伝わる「金剛界大日如来坐像」です。大日如来は密教の中心仏で、金剛界像は右手で左手の人差し指を握る「智拳印」を結ぶのが特色です。快慶作とされる本像も、この密教的な厳格さを保ちながら、穏やかな面貌や流麗な衣文の彫りなど、快慶ならではの端正さが際立っています。

制作技法としては、寄木造による精密な構造、玉眼（ぎょくがん）による生気あるまなざし、さらに金箔や截金（きりかね）による荘厳が用いられ、格調の高い美を実現しています。こうした洗練は、同時代の武家社会が求めた写実性とも調和し、鎌倉彫刻の到達点を示す作例として高く評価されてきました。選択肢のうち、東大寺・東寺・金剛峯寺はいずれも名刹で仏像名品を多く有しますが、快慶の「金剛界大日如来坐像」が安置されるのは石山寺である点が重要です。

円覚寺舎利殿 (Wikipedia)

正解：4
解説
円覚寺舎利殿は、宋代建築の影響を受けて鎌倉時代に広まった「禅宗様（唐様）」で建てられた代表的な建築です。禅宗様は、装飾を抑えた端正な意匠と、構造を強調する実用的な美しさが特色です。具体的には、組物を密に重ねる「詰組（つめぐみ）」の斗栱、弓なりに開口する「花頭窓（かとうまど）」、板戸に格子を組み込む「桟唐戸（さんからど）」、整然と並ぶ垂木などが典型要素として挙げられます。これらにより、直線的で引き締まった外観と、内部の力学的安定を両立させています。円覚寺の舎利殿は仏牙舎利（釈迦の歯の遺骨）を安置するための聖堂で、禅宗様の端正な比例感覚と簡素な荘厳さがよく示されており、我が国の禅宗建築を理解するうえで重要な遺構と評価されます。
誤答について補足します。1の「和様」は日本古来の様式で、穏やかな曲線や装飾を特徴としますが、禅宗寺院に典型的な要素とは異なります。3の「大仏様（天竺様）」は東大寺再建で著名な雄大な様式で、太い部材と大規模な組物を多用します。2の「折衷様」は和様・大仏様・禅宗様の要素を混合した後世の様式で、舎利殿の純粋な性格とは一致しません。以上の理由から、正解は「禅宗様」です。

正解：3
解説
正解は「新古今和歌集」です。後鳥羽院の発意により、建仁元年（1201）頃に撰進が始まり、元久2年（1205）に成立したとされます。後鳥羽院は自らも選集に深く関与し、藤原定家・藤原家隆・慈円・寂蓮らが撰者として参加しました。全二十巻から成り、四季・賀・哀傷・恋・雑などの部立で約二千首を収めます。作風は、古典の伝統を踏まえつつ象徴性と余情を重んじるもので、幽玄・有心の美意識や本歌取りの洗練が顕著です。これにより、平安和歌の美の総括と鎌倉初期の新機軸の両立が図られ、日本和歌史上の金字塔と評価されます。
誤答について補足します。1の「古今和歌集」は醍醐天皇の勅命による最初の勅撰集で、時代は平安前期です。2の「新勅撰和歌集」は鎌倉中期に成立した別の勅撰集で、後鳥羽院の新古今とは異なります。4の「万葉集」は奈良時代の歌集で、勅撰集ではありません。以上の理由から、本問の正答は「新古今和歌集」です。

【正解】4
解説
『方丈記』は、鎌倉時代初期の1212年（建暦2年）に鴨長明が記した随筆で、世の移ろいを捉える仏教的な無常観が根底にあります。冒頭の「ゆく河の流れは絶えずして—」に象徴されるように、万物は常ならずという認識を、抒情性を保ちながらも冷静で観察的な筆致で示します。長明は京の大火・辻風・遷都・飢饉・地震などの災厄を具体的に記録し、人々の生活や心理の変化を客観的に描写しますが、誇張やセンセーショナルな語りは抑えられており、淡々とした記述がかえって迫真性を生んでいます。
後半では、三間四方（約一丈四方）の小庵「方丈」でのつましい隠遁生活を述べ、動産・地位・人間関係への執着を離れて「知足」に近い心境を語ります。ここでも主観的感慨に溺れず、住まいの構造や持ち物の機能性を具体的に列挙することで、思想（無常・捨離）と生活実践が結びついている点が特徴です。したがって、『方丈記』は華麗な宮廷回想でも武勇譚でもなく、冷静な観察に裏打ちされた無常の省察を中核とする「隠遁者の随筆」であるといえます。

参考：『方丈記』冒頭の文章
「行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある、人とすみかと、またかくのごとし。」

【正解】1
解説
日本三大随筆は、平安中期の清少納言『枕草子』、鎌倉初期の鴨長明『方丈記』、そして鎌倉末〜南北朝期の吉田兼好（兼好法師）による『徒然草』の三作を指します。『徒然草』は、およそ243段から成る章段体の随筆で、兼好が「つれづれ（することがなく手持ちぶさた）」の折に書き付けた見聞・感想・人生訓・美意識を自由闊達に綴った作品です。
内容面では、無常観や人事の機微に対する洞察、和歌・古典への造詣、礼節や作法に関する批評などが巧みな比喩と軽妙なリズムで語られます。美的理念としては「わび・さび」や「もののあはれ」に通じる感受性が色濃く、簡素の中に趣を見いだす精神が随所に見られます。文体は平明でありながら余情に富み、説話的エピソードと格言的箴言が交錯するため、文学としての面白さと教養書としての実用性を兼ね備えている点が高く評価されています。
選択肢のうち、『土佐日記』は紀貫之の仮名日記文学、『平家物語』は軍記物語、『竹取物語』は物語文学であり、いずれも随筆ではありません。したがって、『枕草子』『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つは『徒然草』となります。

参考：『徒然草』序段の文章
「つれづれなるままに、日ぐらし硯にむかひて心にうつりゆく由なしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」（これと言ってすることのない、ひとり居の物わびしさにまかせて、終日硯に向かってそれからそれと心に思い浮かんでは消えてゆくつまらぬ事を、漫然と書きつけてみると、何とも妙に狂気じみた感じがする。）（松尾聡著『徒然草全釈』清水書院より）

【正解】4
解説
『平家物語』は、中世日本を代表する軍記物語で、平家一門の栄華から滅亡に至るまでを描いた作品です。作品全体を貫くのは仏教的無常観であり、「盛者必衰」「有為転変」を基本理念として、人の世の繁栄はやがて衰えるという認識を物語構造に組み込んでいます。平清盛の台頭、源平の合戦、壇ノ浦での敗北などの事件を通じて、権勢の頂点に立った者ほど急速に没落するという世界観が、具体的な人物像と劇的場面によって説得力をもって提示されます。
文学的特色としては、和漢混交のリズムある文体と、平曲（平家琵琶）による口誦を前提とした構成が挙げられます。各段は朗誦に適した反復や対句が多用され、哀惜の情や「もののあはれ」を喚起します。『敦盛最期』『那須与一』『義経の八艘飛び』などの名場面は、英雄的な美しさと無常の哀感が交錯し、登場人物の栄枯を公平に描く点も魅力です。史実の骨格を保ちながらも、宗教観・倫理観・美意識を織り交ぜ、教訓性と娯楽性を兼ね備えた総合芸術として、後世の文学・芸能に大きな影響を与えました。以上の点から、本作品は「諸行無常・盛者必衰」を根幹とする平家の盛衰記であると言えます。

【正解】3
解説
『平家物語』は中世において文字資料だけでなく、口誦によって広く流布しました。その中心的担い手が琵琶法師です。琵琶法師は多くが盲目の芸能者で、当道座という職能集団に属し、平曲（へいきょく）と呼ばれる語り物を「平家琵琶」の伴奏で演じました。寺社の法会・供養、武家屋敷での宴、勧進興行など、各地を巡回して上演することで、物語が全国へと広がりました。
語りの内容は「祇園精舎」「富士川」「宇治川合戦」「敦盛最期」など多岐にわたり、哀悼と無常観を強調する節回しが特色です。写本文化が主流で印刷が限られていた時代に、琵琶法師の口演は人々の記憶に直接訴える最重要のメディアであり、物語の諸本・異本の形成にも影響を与えました。
なお、選択肢の巫女は神事・神楽の担い手、猿楽師は能楽へ発展する芸能者、連歌師は連歌・俳諧の指導者であり、『平家物語』の口誦普及の主体ではありません。したがって、正解は琵琶法師です。

正解：1
解説
正解は「吾妻鏡」です。『吾妻鏡』（別称：東鑑）は、鎌倉幕府の公的記録を基礎に13世紀後半、北条政権下で編纂されたと考えられる全52巻の日記体史書です。内容は治承4年（1180）の源頼朝挙兵から文永3年（1266）までを年代順に記し、頼朝・頼家・実朝・九条頼経・九条頼嗣・宗尊親王の「六代将軍記」という枠組みで叙述します。政務・軍事・朝廷関係、さらには天候・吉凶・天文現象まで幅広く収め、鎌倉期研究の基本史料として重視されます。
同時に、北条氏の政治的立場を反映した記事選択や叙述の偏り、欠落巻や後補とみられる箇所がある点にも注意が必要です。とはいえ、『吾妻鏡』は承久の乱をはじめとする重大事件の具体相や幕府運営の実態、将軍・執権・御家人の動向をつぶさに伝える第一級資料であり、鎌倉幕府の歴史像を考える上で不可欠な存在です。誤答の『平家物語』は軍記物語、『愚管抄』は天台僧慈円の歴史論書、『梅松論』は南北朝期の武家政権論で、いずれも本問の条件には当てはまりません。