正解:2. 西洋紀聞
解説
新井白石(1657–1725)は、正徳の治を主導した儒学者・政治家で、ヨーロッパ出身の宣教師ジョヴァンニ・バッティスタ・シドッチ(イタリア人)を江戸の切支丹屋敷で複数回にわたり尋問し、その得た情報を体系的にまとめて『西洋紀聞』を著しました。『西洋紀聞』では、欧州の地理区分、キリスト教(特にカトリック)の教義や教会制度、諸国家の政治体制・歴史、暦法や時間計測、貨幣・度量衡、緯度経度にもとづく世界像など、当時の日本にとって最新の「西洋知」を整理して提示しています。
同時期に作成された用語集『采覧異言』が語彙・術語の対照に重点を置くのに対し、『西洋紀聞』は叙述的・通史的に西洋世界を概観する点に特徴があります。これらの成果は、幕府の外交・通商認識(たとえば正徳期の貿易規制整備)にも背景知を提供し、のちの蘭学興隆に先駆ける「西洋理解の基礎文献」として高く評価されます。シドッチの証言という一次情報に依拠しつつ、白石自身の比較考証を加えているため、単なる見聞録ではなく、政策的示唆を含む知的業績である点が重要です。