平安遷都と律令国家の変容がよくわかる！クイズ10問

【正解】2. 水陸交通に便利な地だったから
【解説】
平安京（山城国）は、鴨川・桂川が合流して淀川へとつながり、瀬戸内海方面まで舟運で結べる地理条件に恵まれていました。米や木材、塩などの物資を各地から集配しやすく、都の維持と国家経営に不可欠な物流を安定させることができたのです。また、山陰道・山陽道・北陸道などの幹線道路とも結節し、陸上交通の要衝でもありました。これにより、地方支配の統合や軍事・行政上の迅速な連絡が可能になりました。
加えて、京都盆地は背後に比叡・北山を負い、前面に桂・鴨の河川が走るため、条坊制の都市計画を敷きやすい平坦地が広がっていました。長岡京の経験（784年の一時遷都）を踏まえ、より洪水リスクの小さい高位段丘を選んで内裏・官衙を配置できた点も利点でした。もちろん、奈良で肥大化した寺院勢力から距離を取る狙いや、王城の風水的・祭祀的配慮（北に船岡山、東に賀茂社）もありましたが、国家経済と軍政を支える決定要因は「水陸の交通利便性」による安定的な物流・財政基盤の確立であったと理解できます。以上の理由から、平安京は日本列島の交通ネットワークの要として選ばれたのです。

【正解】2. 桓武天皇
【解説】
平安京への遷都は、延暦13年（794年）に桓武天皇の勅により実施されました。桓武天皇（在位781～806年）は、父の光仁天皇の後を継ぎ、まず延暦3年（784年）に長岡京へ遷都しましたが、水害や造営をめぐる不祥事、藤原種継暗殺事件などの混乱を受け、より安定した新王城として山城国の平安京を選定しました。
平安京は鴨川・桂川を通じて淀川・瀬戸内へつながる舟運が発達し、山陰道・山陽道・北陸道など主要街道とも結節するため、水陸交通に優れた立地でした。こうした交通条件は、貢租の集配や物資の流通、中央と地方の迅速な連絡を支え、律令国家の再編に有利でした。また、奈良時代に肥大化した寺院勢力から政治を距離づけ、王権中心の新たな都づくり（条坊制に基づく計画都市）を進める狙いもありました。
桓武天皇は中央集権の再強化を目指し、勘解由使の整備や軍団廃止・健児制採用など行財政・軍事制度の改革を断行しました。東国の動静を踏まえた蝦夷征討（坂上田村麻呂の活躍）も推進し、国家体制の引き締めを図りました。平安京遷都は、これらの政治・軍事・経済改革を支えるインフラ整備であり、日本古代国家の新段階を画した大転換であったと評価されます。

正解】3. 坂上田村麻呂
【解説】
坂上田村麻呂は、桓武天皇のもとで延暦16年（797年）に征夷大将軍に任命され、東北（陸奥・出羽）方面の軍事行動を統括した武官です。延暦20～21年（801～802年）の大遠征では、胆沢地方を中心に蝦夷勢力を圧迫し、朝廷側の軍事・補給路を確保しました。これにより朝廷は北方経営の拠点として胆沢城（802年）を築き、翌803年には志波城を設けるなど、城柵ネットワークを拡充して支配の恒常化を図りました。併せて鎮守府を多賀城から胆沢城へ移すなど軍政の再編も進め、律令国家の外縁部統治を実務面から強化した功績が評価されます。
なお、征夷大将軍の称号自体はそれ以前に大伴弟麻呂にも与えられていましたが、田村麻呂は大規模遠征の成功と城柵整備によって決定的な成果を上げた点で特に著名です。桓武天皇の中央集権化政策と連動し、交通・補給体制の整備、辺境支配の制度化を具体的に押し進めた点に、田村麻呂の歴史的意義があるといえます。

【正解】1. 嵯峨天皇
【解説】
嵯峨天皇（在位809〜823年）は、平安初期の政治・文化の基調を整えた中心人物です。810年の薬子の変を鎮定し、朝廷の権力秩序を立て直しました。その過程で、天皇直轄の機密・詔勅伝達機関である蔵人所を設置し、太政官の外に意思決定と命令伝達の迅速な回路を確立しました。また、都の治安と司法警察機能を担う検非違使を常設化するなど、統治の実務を引き締めました。律令運用面でも、格式の補訂や法令注解の整備を進め、のちの『令義解』（833年成立）や「弘仁格式」へとつながる基盤を築いたと評価されます。
文化面では、最澄・空海ら新仏教の保護育成により、密教儀礼・造形・文学が宮廷文化に深く浸透しました。唐風漢文学・書の隆盛も顕著で、「三筆」（嵯峨天皇・空海・橘逸勢）に象徴される書道美が生まれました。こうした政治の安定と文化振興が相俟って「弘仁文化」が花開き、その流れは仁明・文徳を経て清和朝の「貞観文化」へ連続的に発展します。選択肢の桓武・淳和・清和各天皇も重要ですが、改革の起点をつくり文化展開の土台を固めた点で、最も端的に問に合致するのは嵯峨天皇です。

【正解】4. 検非違使（けびいし）
【解説】
検非違使は、嵯峨天皇の時代に創設された警察・司法機能を併せ持つ機関で、「非違（法令違反）を検察する使」の意で名づけられました。奈良末から平安初期にかけて、律令本来の刑部省や弾正台の機能が低下し、都では盗賊・放火・私闘などの治安悪化が目立ちました。薬子の変（810年）の混乱後、朝廷は秩序回復を最優先課題とし、迅速な逮捕・取調べ・裁断を一体で行える実務機関として検非違使を整備しました。
検非違使は京内の巡邏・夜警、犯罪捜査、訴訟の審理・量刑、交通・関門の取締りなどを担い、のちには左・右に分置され常設化されます。これにより、都の安全保障ラインが強化され、宮城・条坊制都市の運営が安定しました。蔵人所は詔勅伝達など天皇の機密政務機関であり、弾正台は風紀取締・監察の中枢、兵衛府は宮城警備を司りましたが、総合的な警察・司法の中核として治安回復に直接的な実効を示したのが検非違使でした。以上の点から、本問の正解は「検非違使」です。

【正解】3. 東西約4.5km、南北約5.2km
【解説】
平安京は、条坊制（碁盤目状の都市計画）で整然と区画された都で、左右両京を合わせた計画都市の範囲が東西約4.5km、南北約5.2kmでした。中央を南北に貫く朱雀大路を軸に左京・右京が配置され、北端付近に大内裏（政治中枢）を置き、南端を羅城門方面へと開く構造です。これらの数値は、一条大路から九条大路、東西の外郭線（鴨川西岸から桂川方面へ至る計画線）を基準にした都市設計上の規模を示しています。
この規模は、唐の長安城に範をとりつつも、日本の地形・水系（鴨川・桂川）と交通条件に適応させた結果で、物資流通と行政統合に適したコンパクトな都づくりを可能にしました。朱雀大路のような幹線大路を中心に、東西の条、南北の坊が規則的に交差し、官衙・祭祀・市（東西二市）・貴族邸宅などが計画的に配置されます。なお、のちに右京の湿地化や治水事情などで市街の重心が左京へ偏在するなど都市の実態は変化しますが、建都当初の「計画都市としての平安京」の標準的規模が「東西約4.5km、南北約5.2km」であったと理解できます。ですので、本問の正解は選択肢3です。

【正解】1. 天皇の命令をすみやかに太政官組織に伝えるため
【解説】
蔵人頭は、嵯峨天皇が810年の薬子の変後に整備した内廷機関・蔵人所の長官で、詔勅（天皇の意思）を起案・管理し、太政官へ迅速に伝達するために置かれました。奈良末～平安初には太政官の手続きが煩雑化し、政治・軍事の緊急案件で意思決定や命令伝達が遅れる弊害が目立っていました。蔵人頭は天皇直奏の窓口として機密文書の受付・起草・伝令を担い、太政官符のような官僚手続きを経ずに「宣旨」を通じて命令を素早く実施させる役割を果たします。これにより、非常時対応や治安・人事・儀礼運営などで中枢の統制力が高まりました。併せて、蔵人所は外記・史などの文書官僚と連携して記録・伝達系統を整理し、政治の実務を効率化しました。したがって、蔵人頭設置の核心は、天皇の意思を遅滞なく太政官に通し、国家運営のスピードと機密性を確保する点にあったのです。

【正解】4. 令外官（りょうげのかん）
【解説】
令外官とは、文字通り「令（律令の“令”＝行政法規）に外れる官」、すなわち律令典に規定のない官職の総称です。奈良末～平安初期にかけて、既存の律令官制だけでは処理しきれない政治・軍事・治安・文書伝達などの実務需要が増大したため、天皇の詔勅や太政官の命により新設されました。代表例として、天皇の詔勅を迅速・機密に太政官へ伝えるための蔵人所とその長官である蔵人頭、京内の警察・司法を担った検非違使、国司交替事務の監査を行った勘解由使などが挙げられます。
これらは当初は臨時色が強い機関でしたが、実務上の必要性から常設化・制度化が進み、やがて律令体制の運用を支える中枢機構として機能しました。背景には、薬子の変（810年）後の統治再編や、都の治安悪化、地方支配の再統合といった課題がありました。令外官の整備は、古典的な律令規定に新たな運用レイヤーを重ね、時代に即した俊敏な行政を実現した点に意義があります。したがって、平安京で令に定めのない新官職を指す用語は「令外官」が正解です。

正解】2. 弘仁格式（こうにんきゃくしき）
【解説】
「弘仁格式」は、弘仁年間（810～824年）に嵯峨天皇のもとで整備・施行された「格」と「式」の総称です。ここでいう「格」は律令条文（特に令）の修正・追加・先例を体系化した規定で、「式」は役所の手続や運用細則を定めた実施規程です。奈良末から平安初期にかけて、実情に合わない条文や運用上の空白が目立ったため、国家統治を俊敏かつ統一的に行うための「施行ルール」と「改訂ルール」を整理する必要がありました。弘仁格式はまさにその中核で、薬子の変後に進んだ統治機構の再編（蔵人所・検非違使など令外官の整備）と歩調を合わせ、法令運用の標準化と即応性の確保に貢献しました。
関連する文献として、令の公式注釈書である『令義解』（833年）や、のちの「貞観格式」「延喜式」へと続く編纂事業があり、これらは歴代政権が律令を時代状況に適合させるための継続的なアップデートでした。その端緒を開いたのが「弘仁格式」である点が重要です。

【正解】1. 公営田（くえいでん）と官田（かんでん）
【解説】
8〜9世紀にかけて戸籍作成の停滞や浮浪・逃亡の増加により、口分田を再配分する班田収授制が機能不全に陥りました。そこで国家は安定財源を確保するため、公的に運営・管理する田地を新設します。各国の国衙が直営的に設け、収益を国庫に入れたのが「公営田」です。これに対し、中央の官司や宮中の経費など特定の官務を賄う目的で指定されたのが「官田」で、ここからの収穫は公的経費（公廨）に充てられました。
運営の実務では、生産力と在地支配力を持つ有力農民（のちに田堵〈たと〉と称される層）が管理人として登用され、労働力の手配や耕作の督励、収穫物の収納・納入を担いました。こうして国家は、従来の租庸調や班田に代わる形で米を中心とする収益（官物・公廨稲）を安定的に確保できるようになります。荘園が私的領有に基づくのに対し、公営田・官田はいずれも公的運営を前提とする点が相違点です。以上から、班田収授の弛緩に対応して9世紀に設けられた田畑は「公営田と官田」といいます。

まとめ：

平安遷都（794年）は、桓武天皇が長岡京から山城国の平安京へ都を移した出来事であり、律令国家の構造的変容と密接に関わっています。律令国家は奈良時代に成立し、中央集権的な官僚制と租庸調制、班田収授法を基盤として運営されてきましたが、8世紀末には人口減少や口分田不足、農民の逃亡・浮浪、私有地（荘園）の拡大などにより制度疲労が進んでいました。

桓武天皇は、奈良の平城京における仏教勢力の政治介入や都市機能の限界を避け、政治刷新と体制立て直しを図るため遷都を決断しました。平安京は唐の長安をモデルとした条坊制の都城で、陰陽道の風水思想に基づく立地が選ばれました。都の設計は中央集権的な律令体制を前提にしており、大内裏を北端中央に置き、南に朱雀大路を通し、左右対称に官庁や居住区を配置しました。また、京内の寺院建設を制限し、仏教勢力の影響を抑えようとしました。

しかし、遷都後も律令国家の制度的問題は解消されず、むしろ変容が加速します。班田収授法は口分田不足や公地公民制の形骸化により機能不全となり、租庸調制も庸・調の徴収が困難になりました。その一方で、桓武天皇は地方支配強化のため健児制（軍団制の縮小と地方豪族子弟の登用）や勘解由使設置（国司交替時の監査強化）など、制度改革を進めました。

平安京時代には、律令の規定は形式的に残りつつも、実際の政治運営は天皇を中心とした貴族層の合議や家格による官職世襲が支配的になります。また、地方では荘園の発展と国衙領の並存による二重構造が進み、租税や労役の徴収も公的制度から私的支配へと移行していきます。

このように、平安遷都は律令国家の再建を意図した大事業でしたが、その後の社会経済の変化と制度疲労の中で、律令体制は実質的に変容し、中世的土地支配への道を開く契機ともなったのです。