正解:
- ロンドン
解説:
ジークムント・フロイトは、精神分析学の創始者として知られる、ウィーンを拠点に活動したユダヤ系オーストリア人でした。しかし、1938年にドイツがオーストリアを併合し(アンシュルス)、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害が激化すると、フロイトとその家族の身にも危険が及びました。
ナチスはユダヤ人に対する弾圧を強化し、フロイトの著書は焚書(ふんしょ)の対象となり、彼の家族もナチスの尋問を受けるなど、生命の危険にさらされました。フロイト自身は高齢で病気(口腔癌)を患っていましたが、友人のマリー・ボナパルト(ナポレオンのひ孫)やアーネスト・ジョーンズ(イギリスのフロイトの弟子で伝記作家)らの尽力、そしてアメリカの支援もあって、国外脱出の許可を得ることができました。
そして1938年6月4日、フロイトは娘のアンナや妻のマルタらとともにウィーンを脱出し、最終的に安全な場所としてイギリスのロンドンに亡命しました。彼はロンドンのハムステッドにあるマレスフィールド・ガーデンズ20番地の家(現在はフロイト博物館となっている)に居を構え、そこで最晩年の1年と数ヶ月を過ごしました。
ロンドンでは、彼は短期間ながらも研究と執筆を続け、『モーゼと一神教』などの著書を完成させました。しかし、口腔癌が悪化し、亡命からわずか1年後の1939年9月23日、83歳で亡くなりました。
まとめ:
フロイトは、精神分析学の創始者として知られるオーストリアの精神科医です。彼は人間の心の働きを「意識」「前意識」「無意識」という三層構造で説明しました。とくに無意識の重要性を強調し、人間の行動や思考の多くは、本人も気づかない無意識の欲望や衝動に動かされていると考えました。この無意識の領域には、抑圧された欲望や記憶、願望が潜んでおり、それらが夢や失錯行為(言い間違いなど)を通じて表に現れると説きました。
また、フロイトはリビドーと呼ばれる性的エネルギーが人間の発達や精神活動の根源にあると考え、幼児期の性発達段階論を提唱しました。口唇期・肛門期・男根期・潜伏期・性器期という段階を経て、成人の性格や心理的傾向が形成されるとしました。これにより、彼は人間の性の問題や心の葛藤を科学的に探求しようとしたのです。
さらに、フロイトは「自我」「エス」「超自我」という心的装置の理論も打ち立てました。エスは本能的な欲求、自我は現実原則に基づく調整役、超自我は道徳や良心の働きを担う存在です。この三者の葛藤が精神的な不安や症状を引き起こすと考えられました。
精神分析療法では、自由連想法や夢分析を通じて、患者の無意識に迫り、抑圧された感情を意識化することが目指されました。フロイトはまた、宗教や文化、社会現象も無意識の働きから分析し、人間存在を深く問い直しました。彼の思想は心理学だけでなく、文学、哲学、芸術など広範な分野に影響を与えています。
参考文献:
牛島定信編著(2007)『精神分析入門』放送大学教育振興会
竹田青嗣・山竹伸二著(2008)『フロイト思想を読む』NHKブックス
渋谷昌三著(2001)『よくわかる深層心理』西東社
ルイス・ブレーガー著(2007)『フロイト 視野の暗点』里文出版