享保の改革のことがよくわかる！クイズ10問

正解：3

解説：1716年（享保元年）、第7代将軍徳川家継が幼くして没し、将軍家の直系男子が断絶しました。そこで幕府は、徳川宗家を補うために設けられていた「御三家」（紀伊・尾張・水戸）の中から後継を求め、紀伊徳川家の徳川吉宗を迎えて第8代将軍に就任させます。吉宗は就任直後から幕府財政の再建と統治の引き締めに取り組み、いわゆる「享保の改革」を主導しました。具体的には、倹約令の徹底や新田開発の奨励、年貢・租税制度の見直し、相対済令による民事紛争処理の簡素化、目安箱の設置による民意の吸い上げ、貧民救済のための小石川養生所の開設など、多方面にわたる施策を進めます。これらの改革は、貨幣経済の進展と物価変動に揺れる幕府財政の立て直しを目指すとともに、支配機構の実効性を高めるものでした。

正解：2

解説：吉宗は門閥や家格よりも実務能力を重視し、老中・側近層の刷新を進めました。とくに江戸町奉行の大岡忠相を抜擢し、町方行政・司法の整備や治安対策（訴訟処理の適正化、町火消の整備など）を推進させます。また、役職に見合う収入を不足分だけ加給して登用の間口を広げる「足高の制」を導入し、石高の低さゆえに才能ある下級旗本が要職に就けない弊害を是正しました。さらに目安箱で広く意見を募り、学問・技術面でも実学志向の人材を登用します。儒者の室鳩巣をはじめ、洋書輸入の制限緩和のもとで青木昆陽・野呂元丈らに蘭学・農政の研究を担当させ、甘藷の普及など実利的な施策に結びつけました。以上のように、吉宗の人事は「能力本位・適材適所」を旨とし、老中と有能な側近、そして大岡忠相に代表される実務家を要にして改革を動かした点に特色があります。選択肢1・3・4のような門閥重視や硬直的な人事ではありませんでした。

正解：2

解説：

正解は大岡越前守忠相（おおおか・えちぜんのかみ・ただすけ）です。吉宗のもとで1710年代から1730年代にかけて江戸南町奉行などを務め、通算19年間という長期にわたり町政・司法・警察を統括しました。忠相は、物価や治安、都市インフラなど市民生活に直結する課題にきめ細かく対応し、享保期の改革を下支えしました。とくに町火消（いろは四十八組）の創設で町人主体の消防体制を整え、火災多発の江戸で被害軽減に大きく貢献したとされます。また、川筋の浚渫や橋・道路の維持、夜回り強化、訴訟手続の整備など、日常行政の改善を積み重ねました。裁きについては「情理と法」を両立させる姿勢で知られ、その運用や判例の蓄積は、のちの幕府法令整備（公事方御定書の編纂期）にも影響したと評価されます。講談・歌舞伎で有名な逸話（「三方一両損」など）には後世の脚色もありますが、実務面での制度整備と公正な裁断によって、「名奉行」の名を確立した点は史実として重視されます。

正解：4

解説：享保の改革において吉宗は、歳出削減の徹底を第一の柱とし、朝廷・幕府儀礼や大名・旗本・町人に及ぶ広範な倹約令をたびたび発出しました。これにより、衣服・婚礼葬祭・贈答・饗応・新築修理などの出費を抑え、参勤交代の行列・滞在費用や役所の薪炭・灯火・器具購入といった公私の支出を縮減させます。浪費を抑えることで物資需要の過熱を抑え、物価の安定化を図る狙いもありました。さらに、倹約令は他の歳入増加策（年貢増徴のための新田開発奨励・検地の精密化、諸役の見直し、上げ米の制など）と連動し、財政の出入り両面を締め直す役割を果たしました。選択肢2の「上げ米の制」は歳入増をねらう措置として重要でしたが、設問の趣旨である「支出を減らし、収入を増やす」という両面の基調を直接示すのは、広域かつ継続的に実施された倹約令の発出です。以上から、正解は4の「倹約令の発出」です。

正解：1

解説：吉宗は実学重視の方針のもとで、飢饉対策と農村経済の活性化を同時に図りました。その一環として、耐旱性・多収性に優れた甘薯（サツマイモ）に着目し、蘭学や博物学の素養をもつ青木昆陽を登用して栽培研究と普及にあたらせます。昆陽は各地で試作を行い、栽培法や貯蔵法を整理して書物にまとめ、関東を中心に甘薯の受容を広げました。甘薯は非常時の救荒作物として効果を発揮するだけでなく、でん粉・菓子原料などの用途によって商品化が進み、農家の現金収入源拡大にも寄与します。選択肢の野呂元丈は蘭学者・医員として江戸で活動しましたが、甘薯普及の中心人物ではありません。平賀源内は後期の博物学者・技術者で、鉱山開発やエレキテルで知られます。田中丘隅は名主で行政改革や民政論で評価されます。したがって、甘薯栽培の研究・普及で吉宗に抜擢されたのは青木昆陽です。

正解：4

解説：公事方御定書は、徳川吉宗の主導で整備された成文の裁判基準集で、評定所や町奉行・勘定奉行などの裁判・行政担当者が参照するための「判例・先例集成」として編まれました。条項ごとに刑罰や処理手続の標準が示され、同種事案に対して同等の判断が下るよう設計されています。これにより、個々の奉行の裁量や場当たり的運用に流れがちだった従来の慣行から、法と先例に依拠する合理的・予見可能な統治へと転換が図られました。享保期の「法治主義の確立」を象徴する施策であり、吉宗の目指した「倹約・実務・秩序」を法の面から支えた点に大きな意義があります。

なお、1の御成敗式目は鎌倉幕府の基本法で時代が異なります。2の相対済令は金銭貸借の私的解決を促して訴訟負担を減らす措置で、総合的な法典ではありません。3の武家諸法度は大名統制の根本法ですが、裁判基準の体系化という点では公事方御定書が該当します。したがって正解は4です。

正解：2

解説：吉宗の時代、正徳改鋳（新井白石主導）によって金銀の含有率が高められた結果、通貨の流通量が不足し、物価下落傾向と取引の停滞が問題になっていました。そこで吉宗は、享保期から元文期にかけて改鋳を断行し、正徳金銀に比べて金銀の含有率をおよそ半分に引き下げました。これにより通貨供給を増やして市中の資金繰りを改善し、米価や諸物価の極端な下落を抑えて商業活動の活性化を図ります。あわせて改鋳益（シニョリッジ）を財源として確保し、改革の経費にも充てました。

選択肢1・4のような純度引き上げは、むしろ通貨の逼迫とデフレを深める方向で、吉宗の狙いと逆です。選択肢3のように銭貨の鋳造停止や銀一本化も行っていません。吉宗の貨幣政策は、含有率の引き下げによる通貨量の拡大を通じて、物価の「安定」をめざす現実的な運用であったと評価されています。

【正解】3

【解説】

享保6年（1721年）、徳川吉宗は庶民の声を直接政策に反映させるため、「目安箱」を設置しました。これは城下の要所に投書箱を置き、町人・百姓・武士を問わず広く意見や改良案、社会問題の告発を受け付ける制度です。原則として実名と居所の記載を求め、内容は町奉行所や目付などが吟味し、有用と判断されれば上申されて施策に採り入れられました。翌享保7年（1722年）には、投書意見も背景に、貧民医療を目的とする「小石川養生所」の開設が実現し、また青木昆陽らの登用と甘藷（サツマイモ）栽培の奨励など、社会経済上の改善に結びつく案件が進みます。なお、選択肢の「相対済し令」は金銭貸借などの私事紛争を当事者間の和解で処理させる方針を示したもので、「公事方御定書」は享保年間の司法基準を成文化した法令（本格的な公布は1742年）であり、いずれも目安箱の制度そのものとは別の施策です。目安箱は、享保の改革における「民意の吸い上げ」を象徴する取り組みであったと言えます。

正解：4. 町火消

解説（ですます調）

江戸は木造家屋が密集し、強風が吹くと一度の火災が瞬く間に大火へ拡大しやすい都市でした。徳川吉宗は享保の改革の一環として、町人主体の機動的な消防体制を整える必要があると考え、享保期に町火消を組織しました。町火消は大工・鳶などの町方の職人を中核とし、「いろは四十八組」（江戸市中）と本所・深川の十六組に編成され、町年寄や町役人の統制下で活動しました。彼らは纏（まとい）を掲げて出動し、延焼を防ぐために家屋を計画的に壊して防火線をつくる破壊消防を得意としました。

それ以前の消防には、将軍直轄の旗本組織である定火消や、各大名が担当区域を受け持つ大名火消がありましたが、町場の細路地や密集地では初動の速さが鍵となります。町火消の導入により、町場に密着した迅速な初期消火と延焼遮断が可能になり、幕府直轄の定火消と役割分担・協働する体制が整いました。さらに吉宗は負担と非効率を是正するため、のちに大名火消を廃止し、町火消と定火消を中核とする体制へと整理しました。こうした制度改革は江戸の防災力を高め、後世の出初式に見られる梯子乗りや纏振りといった文化的所作にも受け継がれていきます。

正解：2. 小石川養生所

解説（ですます調）

徳川吉宗は享保6年（1721年）に目安箱を設け、広く庶民からの意見を施政に反映させました。その投書の中に、貧しい人々にも医療を施す施設の設置を求める提案があり、これを受けて享保7年（1722年）に小石川養生所が設けられました。場所は**小石川御薬園（現在の小石川植物園）**の一角で、園内で栽培した薬草も活用しながら、町奉行の管理下で運営されました。

小石川養生所は、町役人や名主の紹介状を持つ困窮者に無料で診療と投薬を行うことを基本とし、当時の江戸における公的医療・貧民救済の先駆的制度でした。医師が輪番で診療に当たり、入院機能に準ずる養生の場も備え、感染症の流行や窮乏による社会不安を和らげる効果をねらいました。吉宗の享保の改革は倹約・財政再建だけでなく、こうした社会政策（公衆衛生とセーフティネット）の整備にも及んだ点が特色です。

なお、選択肢の**「施薬院」は中世以来の僧寺系施療施設の呼称で、吉宗の新設施設とは異なります。「石川島人足寄場」は寛政期（18世紀末）の松平定信による矯正・救済施設で時代も目的も別です。「養育院」**は明治期の救貧施設で、江戸時代の小石川養生所とは時代を異にします。