元禄時代のことがよくわかる！クイズ10問

徳川綱吉像（徳川美術館蔵） (Wikipedia)

【正解】3
【解説】
徳川綱吉（1646–1709）は、1680年に4代将軍家綱の後を継いで5代将軍に就任しました。就任から死去までの治世（1680–1709）は、戦乱が鎮まり、都市経済と町人文化が大きく発展した元禄期と重なります。江戸・大坂・京都では出版や浮世絵、町人文学が栄え、商業や金銀流通も活発化しました。綱吉は儒学（とくに朱子学）を尊び、学問奨励や礼法の整備を進め、服忌令の制定や湯島聖堂の整備などによって道徳秩序と教化を重視しました。財政面では荻原重秀を登用して元禄金銀の改鋳を行い、当座の収入増を図りましたが、物価上昇を招く副作用も生みました。また「生類憐みの令」は人命尊重・治安維持の理念を掲げつつも、過度な取り締まりとして民間に負担を与えた側面があり、後世の評価は賛否が分かれます。なお、綱吉の治世には赤穂事件（1701–03）も起こっています。
他の選択肢について補足します。1の徳川家光は3代将軍で、参勤交代の制度化やキリスト教禁制の徹底など17世紀前半の統治を特徴づけました。2の徳川吉宗は8代将軍で18世紀前半に享保の改革を実施した人物です。4の徳川家綱は4代将軍で、由緒大名の改易抑制など穏健な政治運営を行いましたが、5代ではありません。以上の点から正解は徳川綱吉となります。

【正解】4
【解説】
1683年（天和3年）の綱吉改定武家諸法度では、第一条が「文武忠孝を励まし、礼儀を正すべきこと」といった趣旨へ改められました。これは、従来の「文武弓馬の道を励むべし」という軍事的徳目の強調（家光期の寛永令）から、儒教倫理に根差す「忠孝」や礼法の遵守を中核に据える方向への明確な転換であることが特徴です。戦乱が収束しつつあった元禄期の社会状況のもと、将軍権威の下で武家秩序を安定させるには、軍事動員よりも日常統治に資する道徳規範と礼法の徹底が重要だと判断されたためです。綱吉は朱子学を尊重し、湯島聖堂の整備や服忌令の制定など、教化と礼制の整備を通じて「礼治」を志向しました。第一条の改定は、まさにその政治理念を法令の冒頭に刻み込んだものです。
なお、選択肢1の在府日数増や2の城郭新築容認は第一条の趣旨とは異なります。選択肢3は家光期の理念を反映した記述であり、綱吉期の第一条の転換点を捉えていません。以上より、正解は「弓馬の道（武道）から『忠孝』『礼儀』への転換」です。

Exif_JPEG_PICTURE

【正解】3

【解説】

正解は湯島聖堂です。湯島聖堂は、徳川綱吉が朱子学を尊重する教化政治を進める中で、1690年（元禄3年）に江戸の湯島に建立した孔子廟です。中心となる本殿は「大成殿」と呼ばれ、孔子および四配（顏子・曾子・子思・孟子）を祀りました。軍事的規範よりも「忠孝」「礼儀」を重んじる綱吉の理念を象徴する施設であり、武家社会における道徳秩序の涵養を目的としていました。18世紀末の寛政期には、幕府直轄の学問所である昌平坂学問所（昌平黌）がここに併設され、朱子学を正学とする方針（寛政異学の禁）と相まって、全国の儒学教育の中心地として機能しました。のちの火災や震災で再建を重ねますが、孔子廟としての歴史的意義は近世を通じてゆるぎないものとなりました。

他の選択肢について補足します。1の「昌平坂学問所」は学問機関の名称で、孔子を祀る廟そのものの名称ではありません。2の「湯島天満宮」は学問の神・菅原道真を祀る神社で、儒教の孔子廟ではありません。4の「林羅山邸内聖堂」は林家の私邸に付属した初期の聖堂を指す表現で、将軍綱吉が公的に建立した孔子廟の正式名ではありません。従って「湯島聖堂」が正解となります。

【正解】2
【解説】
正解は大嘗会（だいじょうえ）です。大嘗会は、天皇の代替わりに際して一代一度だけ行われる最重要の宮中祭祀で、即位の公的宣明（即位礼）と並ぶ核心儀礼を構成します。貞享4年（1687年）、東山天皇の代に前回（1466年頃）からおよそ221年ぶりに復活しました。中世末の戦乱・財政難で中断していた大嘗会を、近世初頭の社会安定と幕府の後援のもとで再興したことは、王権儀礼の回復と朝廷威儀の整備を象徴する出来事でした。
大嘗会では、選定された二つの斎田（悠紀・主基）で収穫した新穀をもって、悠紀殿・主基殿をしつらえ、天皇自らが天照大神および皇祖神々に奉告し、神と共食する形で新穀を親ら（みずから）喫します。これにより、新たな天皇が「みあらたまる」（更新される）とともに、天下の安寧と五穀豊穣を祈念する宗教的・国家的意義が確認されます。
【他の選択肢】1の「即位礼」は即位を内外に宣明する儀礼で大嘗会とは別個です。3の「新嘗祭」は毎年の収穫感謝の祭で、一代一度の大嘗会とは頻度も意味も異なります。4の「践祚の礼」は前帝の崩御・譲位直後に皇位を受け継いだことを内向きに確定する儀式で、やはり大嘗会とは区別されます。以上より、復活した儀式は「大嘗会」です。

赤穂浪士の吉良邸討ち入り。二代目山崎年信画、1886年 (Wikipedia)

【正解】3. 荻生徂徠
【解説】
荻生徂徠は、赤穂浪士の討ち入りを「私闘」であり幕府の禁令に反する行為とみなして、法秩序の維持を最優先に厳罰を主張した儒学者です。徂徠は名分論の立場から、臣下が主君の仇討ちを名目に自ら武力を行使することは、公権の専断に当たり、国家秩序を揺るがすと論じました。これに対して、世論の多くや儒者の一部は浪士を「義士」と讃えました。例えば、室鳩巣は『赤穂義人録』で彼らの忠義を称揚し、武士道の理想を体現したと評価しています。もっとも、幕府は最終的に法の観点から統治秩序を守る判断を下し、浪士たちに切腹を命じました。選択肢のうち山鹿素行は浪士を導いた思想的源流としてしばしば言及されますが、事件当時にはすでに没しており当事の評価者ではありません。新井白石も同時代の重臣・学者ですが、徂徠のように明確に厳罰を鼓吹した論陣で知られるのは徂徠である点がポイントです。

由井正雪 (Wikipedia)

【正解】2. 由井正雪の乱
【解説】
慶安事件（由井正雪の乱）は、慶安4年（1651年）、三代将軍徳川家光の死直後という政情不安の時期に、兵学者の由井正雪が多数の牢人を糾合して挙兵を企てた事件です。江戸では槍の達人として知られた丸橋忠弥が呼応し、江戸・駿府での同時蜂起や江戸城の急襲などが計画されたとされます。しかし内通により計画は露見し、江戸側の関係者は捕縛され磔や獄門（さらし首）などの重刑に処せられ、正雪自身は駿府で自害しました。
この事件は、改易や減封の続出で増加した牢人層の不満が背景にあり、幕府は以後、牢人対策や兵学者の私塾への監視を強め、治安と統制を一段と重視するようになります。
なお、選択肢の「大塩平八郎の乱」は天保8年（1837年）の大阪での蜂起で時代が大きく異なります。「島原の乱」（1637〜38年）はキリシタン一揆、「赤穂事件」（1701〜03年）は赤穂浪士の仇討ちで、いずれも本問の牢人による幕府転覆計画とは性格が異なります。

【正解】4. かぶき者
【解説】
「かぶき者（傾奇者）」は、戦乱の価値観を引きずった若侍・浪人などが、泰平化の進む江戸初期において、常道から“傾（かぶ）く”奇抜な装いと行動で目立とうとした人々を指します。派手な小袖や大きな刀、奇妙な髪形や化粧を好み、徒党を組んで辻騒ぎや喧嘩沙汰に及ぶこともありました。幕府は治安と公儀秩序の維持のため、風俗・帯刀・徒党に関する触書をたびたび出し、取り締まりを強化しました。語源の「かぶく」は常道から外れて振る舞うことであり、この語感はのちの「歌舞伎（かぶき）」の名称にも影響を与えたと考えられます。
一方、選択肢の「ばさら者」は南北朝〜室町期の華美放縦な風潮を好む人々で時代が異なります。「旗本奴」「牢人衆」は江戸社会で見られる集団や身分の呼称ですが、奇装・奇行を旨とする江戸初期特有の現象を示す語としては「かぶき者」が最も適切です。

【正解】1. 生類憐み令
【解説】
生類憐み令は、5代将軍徳川綱吉のもとで1687年（貞享4年）に本格化した一連の触書の総称で、犬だけでなく、鳥獣・魚介・さらには小さな虫に至るまで広く「生類」への殺生や虐待を禁じたものです。背景には、儒教的仁政や仏教的慈悲に基づく徳治の理念があり、江戸初の平和秩序の中で暴力的風俗を抑え、人心を教化しようとする意図がありました。実施にあたっては迷い犬の保護・給餌体制が整えられ、江戸近郊の中野などに「お囲い（犬小屋）」が設けられるなど、行政的にも大規模な施策がとられました。
他方で、違反者への処罰は重く、告発や取り締まりが行き過ぎる事例も生じ、綱吉は「犬公方」と渾名されるほどに世評を呼びました。綱吉の死後、1709年（宝永6年）に6代将軍徳川家宣（いえのぶ）の下で順次廃止され、約22年間で幕を閉じます。選択肢の「慶安御触書」は百姓心得をまとめたとされる文書で性格が異なり、「武家諸法度」「御定書百箇条」は武家統制や成文法体系に関わる法で、本問の動物保護・徳治的教化を旨とする法令を指す語としては不適切です。

【正解】3. 服忌令（ぶっきれい）
【解説】
服忌令は、江戸幕府が貞享元年（1684年）に公布した、死や出産にともなう「服」（喪に服す期間）と「忌」（穢れを避けて公事・交際を控える期間）を、親等や続柄ごとに体系的に定めた法令です。対象は武家を中心に町人・百姓にも及び、一定期間は出仕・登城・裁判への出頭・祝儀行事・参詣などを差し控えることを求めました。これにより、家内の不幸や通過儀礼が公的生活にも明確に反映され、社会全体のスケジュール運用（婚礼・出張・興行・宗教行事など）に統一的な基準が与えられました。思想的には、儒教の孝や礼制、仏教・陰陽道の穢れ観が背景にあり、幕府が「徳治」と「礼」によって秩序を維持しようとする姿勢を示しています。
他の選択肢と比べると、「生類憐み令」は動物保護・教化政策で趣旨が異なり、「慶安御触書」は百姓心得とされる文書で服喪規定ではありません。「宗門改（寺請制度）」はキリシタン禁制と民衆統制のための宗教台帳制度で、服忌の期間を定めるものではないため不適切です。

明暦の大火を描いた田代幸春画『江戸火事図巻』（文化11年/1814年） (Wikipedia)

【正解】4. 明暦の大火
【解説】
明暦の大火（1657年・明暦3年）は、江戸本郷丸山の本妙寺付近から出火し、強風にあおられて三日にわたり延焼、江戸城天守をはじめ大名・旗本屋敷、寺社、町家を焼き尽くした江戸最大級の火災です。市中の約6割が灰燼に帰し、死者は十万人超とも推計される未曾有の惨事となりました。俗に「振袖火事」とも呼ばれます。
この大災害を契機に、幕府は都市計画を抜本的に見直しました。具体的には、延焼を防ぐための「火除地」や「広小路」の設置、道路の直線化・拡幅、橋梁や堤防の整備、寺社・武家地・町人地の再配置などが進められ、江戸の骨格が再編されます。また、武家主導の消防制度（定火消）の整備が進み、のちの町火消の制度化へとつながりました。選択肢の「明和の大火」（1772年）や「寛文江戸大火」（寛文期の火災）は時期・規模が異なり、「元禄地震」（1703年）は地震災害で火災とは性格が異なります。