北条執権のことがよくわかる！クイズ10問

【正解】4. 比企氏
解説
1203年（建仁3年）に起こった「比企能員の変」によって、比企氏は北条氏の策謀と武力行使により一挙に滅ぼされます。比企氏の棟梁・比企能員（ひき よしかず）は、源頼家の外戚であり、頼家の正室は能員の娘でした。頼家の嫡子・一幡を擁する比企氏は、頼朝没後の政権で強い発言力を持ち、これに対抗したのが、頼朝の妻である北条政子の実家・北条氏（時政・義時ら）でした。
1203年、頼家が病に伏すと、後継をめぐって「一幡（比企方）」と「頼家の弟・実朝（北条方）」の二派が鋭く対立します。北条時政は比企方の先手を封じるため、比企能員を自邸の饗応に招いて急襲・誅殺しました。これを合図に北条軍は比企一族の館を攻撃し、一族は悉く討たれ、幼い一幡も戦火の中で命を落とします。こうして比企氏は滅亡し、頼家は失脚して伊豆・修禅寺に幽閉（翌1204年に殺害）され、頼朝の次男・実朝が将軍に擁立されました。
この事件は、北条氏が将軍家の外戚勢力（比企氏）を排除して主導権を握る転機となりました。事件後、北条時政は「執権」として幕府政務を統括し、以後の鎌倉政権は「将軍を補佐する北条執権家」が実権を握る体制へと移行します。比企氏滅亡は、鎌倉初期の政権構造が「将軍権威」と「北条執権権力」に二分される道筋を決定づけた出来事であったと言えます。

【正解】2. 政子
解説
1219年（建保7年）、第三代将軍・源実朝が鶴岡八幡宮で公暁により暗殺されると、源氏将軍の血統は断絶し、鎌倉幕府は大きな空白に直面しました。このとき、政治の実権を掌握して事態を収拾し、事実上の「将軍」として最高権力を発揮したのが北条政子です。政子は出家後であったため「尼将軍」と称され、弟の執権・北条義時と二人三脚で幕政の主導に当たりました。
政子はまず御家人たちの離反を防ぐため、頼朝以来の恩義を説いて結束を呼びかけ、将軍家断絶による動揺を抑えました。そのうえで、朝廷との関係調整と後継将軍の擁立方針（宮将軍の招聘）を主導し、最終的には摂関家の九条頼経を第四代将軍として迎える道筋を整えます。こうした過程で政子は人事・軍事・財政の要所に目配りし、義時の執権権力を政治的に支えると同時に、御家人層への求心力を高めました。
さらに1221年（承久3年）の承久の乱では、政子が御家人に向けて出陣を促す檄を発し、幕府軍の勝利に大きく寄与します。戦後処理では京都の監察機関である六波羅探題の設置に道を開き、幕府の全国支配を確かなものにしました。以上のように、実朝暗殺直後の危機から承久の乱を経て体制を安定させるまでの中心人物は政子であり、「実質的な将軍」と呼びうる最高権力者として行動したのです。

【正解】3. 北条泰時
解説
承久の乱（1221年）で後鳥羽上皇方を破ったのち、鎌倉幕府は京都に六波羅探題を設置し、北条泰時と時房を派遣して西国と朝廷監督を強化します。政権再編の流れの中で、執権であった北条義時が1224年に没すると、孫の泰時が第三代執権に就任します。したがって「承久の乱後の体制整備を経て執権に就いた人物」は北条泰時です。
泰時は就任後、評定衆（1225年）を整えて合議制を確立し、御家人間の訴訟・所領争いに対処する制度を整備しました。さらに1232年（貞永元年）には武家政権としての基本法典である『御成敗式目（貞永式目）』を制定し、慣習法を成文化して裁判基準を明確化します。これにより幕府の法治的統治が進み、源氏将軍断絶後に動揺した政治秩序は安定へと向かいました。泰時の統治は、北条執権政治を制度面から強固にした点で画期的であったと言えます。

【正解】3. 御成敗式目
解説
御成敗式目は、1232年（貞永元年）に第三代執権・北条泰時が制定した、鎌倉幕府の基本法典です。全51か条から成り、将軍家・御家人の所領相続、訴訟手続き、犯罪と処罰など、武家社会の実務に直結する裁判基準を明確化しました。律令・延喜式のような公家法をそのまま踏襲するのではなく、武家社会で実際に運用されてきた慣習（先例）と、合理性を重んじる「道理」を基盤に成文化した点が大きな特色です。
背景には、比企氏滅亡や実朝暗殺後の動揺、承久の乱（1221年）を経た支配の全国化がありました。泰時はまず評定衆（1225年）を整備して合議制を確立し、その上で訴訟の混乱を避けるために普遍的な基準を示す必要がありました。御成敗式目はこの要請に応え、幕府の公正な裁断権を裏づけ、御家人の間の紛争解決を迅速・公平にする役割を果たします。
また、この法典は後に「追加（ついか）」と呼ばれる条項が重ねられて運用が更新され、室町幕府にも継承されました。近世の徳川幕府が大名統制のために制定した「武家諸法度」（1615年）とは性格が異なり、御成敗式目は主として裁判実務と所領秩序の維持に重点を置いた“武家の基本ルール”であった点が重要です。別名で「貞永式目（じょうえいしきもく）」とも呼ばれます。

【正解】3. 北条時頼
解説
北条泰時の死（1242年）後、直後は孫の北条経時が第4代執権となりましたが、短期で病没します。これに続いて第5代執権に就任した北条時頼（在職1246–1256年）が、泰時の路線を実務・制度の両面で大きく発展させました。とくに重要なのが1249年の引付衆（ひきつけしゅう）の設置で、評定衆のもとに専門の審理機関を置いて訴訟処理を迅速・公正にし、『御成敗式目』の運用を実効化しました。
さらに、1247年の宝治合戦で有力御家人の三浦氏を排除して政権の中枢を引き締め、守護・地頭人事の掌握を通じて幕府の支配体制を再編しました。これにより、将軍家よりも北条得宗家が実権を握る得宗専制の体制が進展します。また、時頼は1256年に出家・辞任後も「最明寺入道」として後見に当たり、執権・連署・評定衆の人事を通じて政策決定を主導しました。宗教・文化面でも禅宗の保護（建長寺の創建支援など）を通して鎌倉の権威づけを図っています。
以上のように、法制度の整備と権力構造の再編を同時に進め、泰時の築いた合議・法治の政治をより実効的なものへと高めた点で、継承と発展の担い手は北条時頼であると言えます。

【正解】4. 引付衆
解説
引付衆（ひきつけしゅう）は、1249年（建長元年）に北条時頼が設けた裁判担当機関で、評定衆の下で訴訟の第一次審理を専門に行う役職・部署の総称です。幕府草創以来、御家人間の所領争い・相続争いは増加し続け、評定衆だけでは処理が滞りやすくなっていました。そこで時頼は、御成敗式目の基準と先例（先規）に基づいて迅速かつ公正に審理できる常設の審理体制を整え、評定に上げる前段階の審査・整理を担わせました。こうして評定衆は合議の最終判断に集中でき、裁判行政の効率と透明性が高まりました。
引付衆には「頭人（とうにん）」を頂点とする組織が置かれ、寄人（よりうど）などの実務担当が配されました。やがて複数の「引付（第一～第三など）」が並立して分担審理を行う体制に発展し、幕府の法治主義を実務面から下支えします。これにより、泰時以来の法制度（評定衆・御成敗式目）の運用が一段と実効化され、得宗家主導の統治が制度面で強化されました。なお、六波羅探題は京都統治・朝廷監察機関、問注所は文書・裁判記録・訴訟補助を担う部署、政所別当は政所の長職であり、いずれも引付衆とは役割が異なります。

【正解】1. 北条時宗
解説
一般に「時頼の後を継いだ執権」として歴史的意義を持つのは北条時宗です。時頼（第5代執権・在職1246–1256年）は辞任後も得宗家当主として幕政の実権を握り、評定衆・引付衆を軸にした法治行政や得宗主導の体制（得宗専制）を築きました。こうした父の政治路線を受け継ぎ、執権位に就いて幕府の最高意思決定を主導し、体制を完成させていくのが時宗（のちの第8代執権・在職1268–1284年）です。
なお形式的な“直後”の執権としては長時（在職1256–1264年）、続いて政村（在職1264–1268年）が任じられますが、これは時頼の院政的後見のもとで体制を維持する過渡期でした。時宗の代になると、父の遺制を本格運用しつつ将軍・御家人統制を強化し、文永の役（1274年）・弘安の役（1281年）という蒙古襲来に際して京都・西国の軍事体制や防塁築造（石築地）などを主導します。これにより、時頼が整えた“法と組織”の枠組みは、時宗の下で“実戦的な国家運営”へと発展しました。以上の理由から、時頼の後継者として執権政治を実質的に担った人物は北条時宗であるといえます。

【正解】2. 御内人（みうちびと）
解説
御内人は、北条氏の本家＝得宗家（とくそうけ）に直属する私的家臣団の呼称で、時宗（第8代執権・1268～1284年）の時代にとくに重用されました。一般の御家人が「幕府（公的権力）に対する家臣」であるのに対し、御内人は「得宗家（当主の家政機関）に対する家臣」であり、主従関係の重みが私的・直接的であった点が最大の特徴です。
時宗は蒙古襲来（文永・弘安の役）に備えて軍事・財政・人事の集中を図り、得宗家の家政機関（「内々」）を通じて政務を素早く処理しました。その中核を担ったのが御内人で、文書の起草・訴訟の斡旋・軍勢動員・所領処理など実務の多くを掌握しました。御内人の頂点には内管領（ないかんれい）が置かれ、平頼綱や（のちの時代には）長崎円喜・高資らが実権をふるいます。とくに1285年の霜月騒動では、内管領平頼綱が有力御家人の安達氏を排除し、御内人・得宗家中心の政治を一層強化しました。
このように、時宗の下で御内人は評定衆（合議機関）や奉行人などの公的装置よりも実務面で大きな影響力を持ち、得宗専制体制の推進力となりました。したがって、時宗の執権期に重用された北条本家の家臣を問う設問の答えは**御内人（みうちびと）**となります。

【正解】1. 平頼綱が安達泰盛とその一族を滅ぼした事件
解説
霜月騒動は1285年（弘安8年）11月に鎌倉で発生した政変で、得宗家に直属する御内人の頂点である内管領・平頼綱が、有力御家人で評定衆の中心でもあった安達泰盛を急襲し、一族・与党をことごとく滅ぼした事件です。月名の「霜月」に起きたことからこの名で呼ばれます。背景には、蒙古襲来後の軍役負担や所領処理、財政運営などをめぐる政策対立があり、泰盛を中心とする合議・法治重視の路線と、頼綱を中心とする得宗家直轄の即断専行的な運営との対立が先鋭化していました。
この事件により、御家人層の中核であった安達氏が壊滅し、幕府の政治は得宗家と御内人による権力集中が一段と進みます。評定衆などの公的合議機関の影響力は相対的に低下し、得宗専制体制が強化されました。なお、選択肢2の「北条貞時が平頼綱を誅殺した事件」は、その後の1293年に起きた別の政変で、霜月騒動とは区別されます。選択肢3は1247年の宝治合戦（三浦氏の滅亡）、選択肢4は1203年の比企能員の変であり、いずれも霜月騒動とは異なる事件です。

【正解】2. 北条貞時
解説
得宗家の専制（得宗専制）は、北条氏本家＝得宗家が御内人（得宗被官）・内管領ら私的家政機関を通じて幕政の実権を一手に握る体制を指します。この体制を決定的にしたのが第9代執権の**北条貞時（在職1284–1301年）**です。
背景として、父の時宗期に蒙古襲来対応で得宗家の指導力が強化され、御内人主導の政治運営が進みました。貞時の初期には内管領平頼綱が台頭し、1285年の霜月騒動で安達泰盛一族を粛清して得宗家直轄の権力基盤を拡大します。続いて貞時は1293年、逆に平頼綱を誅殺して内管領勢力をも統制下に置き、得宗家の私的機関が公的合議機関（評定衆など）を凌駕する政治構造を確立しました。1297年の永仁の徳政令に見られるように、所領・債務処理にまで及ぶ全国的施策を得宗主導で断行できるだけの権力集中が完成したのです。
選択肢との関係では、時宗（1）は得宗専制の土台を築いた人物ですが、「完成」に至らせたのは貞時です。守時（3）は鎌倉末期の執権で、滅亡期の人物です。経時（4）は短期在職で、制度の確立・完成を担ったわけではありません。以上より、得宗家の専制を完成させた執権は北条貞時となります。

まとめ：
北条氏の執権政治は、鎌倉幕府において将軍を補佐する「執権」の地位を独占し、実質的に政権運営を担った政治体制のことです。鎌倉幕府は源頼朝によって樹立されましたが、頼朝の死後、将軍の権威は次第に弱まり、代わって北条氏が幕府の実権を掌握するようになりました。
初代執権は北条時政であり、源頼家を失脚させて実朝を将軍に据えるなどして権力基盤を築きました。二代執権の北条義時は、承久の乱において後鳥羽上皇の挙兵を鎮圧し、朝廷に対して幕府の優位を確立しました。この乱を機に、幕府は朝廷を監視するため六波羅探題を設置し、武家政権の支配体制を全国に広げていきました。
三代執権北条泰時は、執権政治を制度として確立させた人物です。彼は合議制の評定衆を設け、重要な政策決定を合議によって行う仕組みを整えました。さらに1232年には「御成敗式目」を制定し、武士社会における最初の成文法を整備しました。これにより、法に基づく政治の基盤が固められ、幕府の支配はより安定したものとなりました。
その後も執権は北条氏によって世襲され、幕府の将軍は形式的な存在となっていきました。特に得宗家と呼ばれる北条本家の権威は強大化し、執権を中心とした専制的な政治体制が展開されました。しかしこの専制体制は御家人の不満を募らせ、やがて幕府の衰退を招く要因となりました。
このように北条氏の執権政治は、源氏将軍の滅亡後も幕府を維持し、武士政権を安定させた一方で、北条氏による独裁的な支配を強めていく過程でもありました。その支配体制は鎌倉幕府の盛衰と深く結びつき、日本中世政治史において重要な意義を持っているのです。

参考文献：
野口実編著 (2021) 『図説　鎌倉北条氏』戎光祥出版
五味文彦, 本郷和人, 西田友広編 (2010) 『執権政治』吉川弘文館
細川重男著 (2018) 『執権 : 北条氏と鎌倉幕府』講談社学術文庫
田端泰子著 (2022) 『女人政治の中世　北条政子と日野富子』吉川弘文館