天平文化のことがよくわかる！クイズ10問

正解：3. 遣唐使がもたらした唐文化の影響が強い、国際色豊かな文化

解説：

天平文化は奈良時代中期（8世紀）を代表する宮廷中心の華やかな文化で、最大の特色は、遣唐使を通じて唐の最新文化や制度・宗教・芸術が大量にもたらされ、シルクロードを経由する西アジア系の文物まで取り入れた国際性にあります。仏教は国家鎮護の理念のもとに強く保護され、東大寺大仏（天平勝宝4年〔752〕開眼）や唐招提寺の創建など、建築・彫刻・絵画で唐風の様式が顕著に見られます。彫刻では乾漆造や塑像が発達し、写実的で豊満な量感をもつ天平彫刻が生まれました。正倉院に伝わる螺鈿紫檀五絃琵琶やガラス器などは、唐のみならずササン朝・中央アジアの影響を示し、国際交易の広がりを物語ります。音楽・舞楽でも唐楽や高麗楽が取り入れられ、宮廷儀礼の舞台を彩りました。文学面では漢詩文が隆盛し、『懐風藻』（751）が編まれ、『万葉集』の編纂もこの時期に大きく進みます。これらの総合的な動きにより、天平文化は、国内だけでは完結しない広域的な交流を基盤とする「国際色豊かな唐風文化」として位置づけられるのです。

東大寺三月堂(Wikipedia)

正解：2. 良弁（ろうべん）

解説：

東大寺三月堂は、一般に「法華堂（ほっけどう）」とも呼ばれる東大寺最古級の堂宇で、奈良時代の高僧・良弁が創建したと伝えられます。良弁は聖武天皇の大仏造立を支え、東大寺の初代別当（長官）として伽藍整備と教団運営の中心を担った人物です。三月堂は、その良弁が法華経の祈祷と講讃のために整えた堂で、陰暦三月に「法華会（ほっけえ）」が行われたことにちなみ「三月堂」と俗称されます。

本堂には本尊の不空羂索観音立像（乾漆造）を安置し、梵天・帝釈天や四天王像など天平彫刻を代表する群像を備えます。これらの仏像群は、遣唐使を通じてもたらされた唐風の写実性や量感を色濃く伝え、天平美術の精華を今に示しています。建築も古様をとどめる部分が多く、後世の改修を受けつつも奈良朝以来の信仰空間として継承されました。

選択肢のうち、実忠は東大寺二月堂の「修二会（お水取り）」を創始した僧で、鑑真は戒律（律宗）を伝え東大寺戒壇の整備に関与した唐僧、行基は各地で社会事業と布教に尽くした僧です。三月堂の創建者としては良弁を押さえるのが正解です。

興福寺・阿修羅像 (Wikipedia)

正解：4. 阿修羅像（あしゅらぞう）

解説：

興福寺の阿修羅像は、三つの顔と六本の腕をもつ姿で知られる奈良時代の名作で、仏法を守護する八部衆の一尊です。八部衆は仏教を外敵や障難から守る護法善神のグループで、天・竜・夜叉・乾闥婆・阿修羅・迦楼羅・緊那羅・摩睺羅伽から成ります。阿修羅像は少年のように繊細で内省的な表情をたたえ、怒りの戦神としての側面だけでなく、仏に帰依して悔悟する精神性を表現している点が高く評価されています。素材は中空の乾漆造と考えられ、軽量で自由度の高い技法により、薄い衣の襞や指先のニュアンスまで柔らかく表すことができています。もとは西金堂の八部衆群像の一体として安置され、現在は国宝館で拝観できます。

なお、選択肢のうち迦楼羅像も八部衆の一尊ですが三面六臂ではありません。金剛力士像は伽藍の門を護る二体の仁王で、筋骨隆々の一面二臂が基本です。毘沙門天は四天王・多聞天に由来する武神で、甲冑姿の一面二臂が通例です。したがって、三面六臂の興福寺の像は阿修羅像が正解です。

唐招提寺

正解：1. 鑑真（がんじん）

解説：

唐招提寺は奈良時代に鑑真が開いた律宗の大本山です。鑑真は唐の高僧で、日本側の度重なる招聘に応じて渡海を試み、五度の失敗と失明という苦難を経て天平勝宝5年（753年）に来日しました。来日後は東大寺の戒壇院で正式な受戒制度を整え、日本仏教の僧尼資格を厳格化する基盤を築きます。その晩年、天平宝字元年（759年）に自らの住坊と教団の拠点として唐招提寺を創建しました。寺名は「唐の教えを招き、ここに伝える」の意で、唐風文化を正統に継承する拠点という自覚が表れています。

伽藍は奈良時代創建の金堂・講堂などが現存し、簡素ながらも量感豊かな天平様式を伝えます。とくに鑑真和上坐像（乾漆造）は写実性と精神性の高さで名高く、来日僧の人格と律宗の厳格な理想を今に語りかけます。選択肢の行基は社会事業で知られる先達、空海は真言宗の開祖、最澄は天台宗の開祖であり、唐招提寺の創建者ではありません。唐招提寺については鑑真を正しく押さえることが大切です。

薬師寺

正解：3. 天武天皇が皇后・鵜野讃良の病気平癒を願って

解説：

薬師寺の起源は、奈良時代にさかのぼり、天武天皇が皇后・鵜野讃良（のちの持統天皇）の病気平癒を祈願して伽藍造営を「発願（ほつがん）」したことにあります。薬師寺の本尊は医薬と治療の仏である薬師如来であり、病気平癒の祈りと宗教的機能が一致している点が大きな特色です。天武天皇は在位中にこの誓願を立てましたが、崩御により自らは完成を見ず、事業は皇后であった持統天皇に継承されました。完成の舞台となったのは藤原京で、のちに平城遷都（710年）に伴って現在地（奈良市西ノ京）へ移されます。

薬師寺は白鳳文化を代表する寺院で、金堂・西塔（再建）・東塔（国宝）などの伽藍が知られます。とくに東塔は三重ながら六重に見える独特の意匠をもち、白鳳様式の端正さを今に伝えます。選択肢のうち、聖武天皇は東大寺の大仏造立を推進した天皇で薬師寺の発願者ではありません。天智天皇の国家鎮護祈願は一般的な国家祭祀の動機であり、薬師寺創建の直接の理由ではありません。持統天皇は事業の継承者・完成者として重要ですが、最初に病気平癒を願って誓願したのは天武天皇です。

正倉院

正解：4. 光明皇太后が聖武天皇の遺愛の品を東大寺に寄贈したもの

解説：

正倉院宝物の核は、天平勝宝8歳（756年）に光明皇太后が、崩御した聖武天皇の四十九日忌に合わせて東大寺の盧舎那仏（大仏）へ奉献した「遺愛の品」です。奉献品は目録（「国家珍宝帳」など）に記され、仏前に捧げられたのち正倉（校倉造の宝庫）に収められて守り伝えられました。その後、朝廷や東大寺からの追加の納入品や帳簿・公文書類も集積しましたが、コレクションの中心理念は「聖武天皇の御遺愛を仏に帰す」ことにあります。

内容は、仏教儀礼具のほか、螺鈿紫檀五絃琵琶やガラス器、漆胡瓶、織物・染織、香料など多岐にわたり、唐や西アジア、中央アジアに淵源をもつ品も多く、天平文化の国際性を雄弁に物語ります。正倉院の校倉造は乾燥に強く、宝物の保存に適した構造で、現在まで良好な状態で伝来しています。

 

アジャンター石窟寺院の壁画

 

法隆寺金堂壁画

正解：3. インド（アジャンター石窟寺院など）の壁画

解説：

法隆寺金堂壁画は、仏の浄土や菩薩群像を大画面で荘厳する奈良・飛鳥期を代表する宗教絵画で、様式や表現にはインド・グプタ朝期の仏教美術、なかでもアジャンター石窟群の壁画から連なる影響が色濃く認められます。三曲法（わずかに体をひねる姿勢）や、薄い衣が体に沿って流れるように表される襞の描写、柔らかな量感表現、飛天・天蓋・宝相華などの意匠は、インド的源流から中央アジア（クチャ・キジル等）→中国→日本へとシルクロードを経て伝わった図像・技法の継承です。顔貌の三日月形の目やふくよかな肉取り、光背の装飾性もその系譜に位置づけられます。

顔料は群青・緑青などの鉱物系を基調に、厚塗りと繊細な線描を併用して荘厳感を高めています。後世に損傷や焼損を受け、現在は模写や残欠で伝わりますが、根本の図像・様式は「インド起源—中央アジア—中国—日本」という大きな流れの中で理解されます。選択肢のうち、高句麗古墳壁画は行列・狩猟・日月像など固有の題材が中心で、ポンペイ壁画は世俗・風景・静物が主で仏教絵画とは系統が異なります。唐風の影響もありますが、その基層にある国際的な源流としてはインド・アジャンター系の影響がもっとも重要です。

正解：2. 古事記

解説：

「古事記」は、天武天皇の勅命で朝廷に伝わる「帝紀・旧辞（ていき・くじ）」の誤りを正し、体系化するために、稗田阿礼（ひえだのあれ）に口誦で暗誦・伝承させた内容を、のちに太安万侶（おおのやすまろ）が筆録・編纂した史書です。完成は和銅5年（712年）で、安万侶の漢文序（序文）とともに元明天皇に奏上されたと伝えられます。構成は上・中・下の三巻で、上巻は天地開闢から天孫降臨などの神話、 中・下巻は神武天皇から推古天皇に至る歴代天皇の系譜・事績を収めます。

「古事記」は倭語の語彙や音を多く残す表記（万葉仮名的用法）を採るため、日本固有の伝承や言語の姿が濃厚に反映していることが特色です。皇統の正統性を示す系譜と神話的起源を内向きに整える性格が強く、国家祭祀・氏族伝承の集成としての意義があります。

正解：4. 万葉集

解説：

『万葉集』は奈良時代後期、8世紀後半に成立した全20巻の最古の勅撰以前の和歌集で、短歌（たんか）・長歌（ちょうか）を中心に、旋頭歌（せどうか）や仏足石歌などを含む約4,500首を収めます。最終的な編纂に大伴家持が深く関わったと考えられ、彼の作や書き入れが終曲部を飾ることから、成立は8世紀末頃と理解されています。表記には漢字を音仮名として用いる「万葉仮名」が広く使われ、日本語の古層を直接に伝えている点が大きな特色です。

収録歌人は天皇・貴族から東国の民、兵士（防人）に至るまで幅広く、宮廷文化の洗練と民衆の生活感情が同じ歌集に並ぶ点に普遍性があります。柿本人麻呂や山上憶良、大伴旅人・家持らの作品に見られる壮大な叙景・挽歌、社会批判や家族愛の歌など、多様なテーマが日本古典詩歌の原点を形づくりました。

誤答肢について、①『古今和歌集』は905年成立の勅撰和歌集で、仮名序で知られます。②『新古今和歌集』は鎌倉初期（1205年頃）に成立し、本歌取りや幽玄の美が特色です。③『懐風藻』は751年成立の漢詩文集で、和歌集ではありません。したがって、設問の条件に合うのは『万葉集』です。

正解：1. 日本書紀

解説：

『日本書紀』は養老4年（720年）に完成した全30巻の正史で、舎人親王を中心に編纂されました。文体は本格的な漢文体で、年ごとの出来事を配列する編年体を基本とし、中国の王朝正史（いわゆる二十四史）に学んだ体裁を備えます。国家の起源から持統・文武・元明朝に至る政治・外交・儀礼を整序し、詔勅・記事の記載様式も中国史書に準じており、対外的にも通用する公的歴史書として位置づけられます。六国史の第一に当たり、日本最初の本格的漢文史書である点が最大の特徴です。

対照的に『古事記』（712年）は神話・系譜・歌謡を多く含み、万葉仮名的な表記を交えた独自の記述で、内向きの皇統伝承の整理という性格が強いです。『風土記』（713年の撰進命）は各国の地誌であり、史書ではありません。『続日本紀』（797年完成）は『日本書紀』に続く第二の正史で、時代も後の範囲を扱います。したがって、中国の史書体裁を踏まえた最初の漢文体史書は『日本書紀』です。

まとめ：

天平文化は、奈良時代（8世紀前半から9世紀初頭）に花開いた、日本古代文化の一つの最盛期を指します。特に聖武天皇（在位724〜749年）の治世を中心に栄え、仏教を国家の支柱とし、国際的な文化交流が盛んに行われた時代でした。名称は聖武天皇の時代の元号「天平」に由来します。

この時代の特徴は、まず仏教文化の隆盛です。聖武天皇は国家安泰と民衆救済のために大仏建立を発願し、奈良の東大寺に盧舎那仏像（奈良の大仏）が造立されました。大仏開眼供養には諸国から僧侶や使節が集まり、国際色豊かな大規模儀式となりました。また、各地に国分寺・国分尼寺が建立され、仏教は政治と結びつきながら全国に広まりました。

国際交流も盛んで、遣唐使によって中国・唐の先進的な制度や文化、技術、学問がもたらされました。仏教経典や工芸技術、律令制度、漢詩文の作法などが取り入れられ、日本文化の発展に大きく寄与しました。また、唐だけでなく、朝鮮半島や東南アジア、さらにペルシアやインドを経由した西域文化の影響も見られます。正倉院に収められた宝物には、シルクロードを通じてもたらされた染織品、ガラス器、楽器などが含まれています。

文学では、『古事記』『日本書紀』に続いて、現存する最古の和歌集『万葉集』が編纂されました。『万葉集』は天皇から庶民まで幅広い階層の歌を収め、多様な感情と生活の様子を伝えています。また、仏教説話や経典の翻訳、漢詩の創作も盛んになり、学問・芸術が飛躍的に発展しました。

美術や工芸では、唐風を基調としつつも日本的な温かみを持った作品が生まれました。東大寺盧舎那仏像や興福寺八部衆像、唐招提寺の鑑真和上坐像などはその代表です。木彫、乾漆造、金銅仏など多様な技法が用いられ、写実性と精神性を兼ね備えた造形が特徴です。

このように天平文化は、国家仏教の下で国際色豊かに展開し、後世の日本文化の基盤を築きました。その華やかさと多様性は、今日でも奈良の寺院や正倉院宝物を通じて感じ取ることができます。