ジル・ドゥルーズのことがよくわかる！クイズ10問

正解：3. 差異と反復

解説：

ジル・ドゥルーズの博士論文の主著は『差異と反復（Différence et Répétition）』です。この書は1968年に提出され、彼の哲学的立場を決定づける重要な作品となりました。ドゥルーズはこの著作において、伝統的な同一性に基づく哲学を批判し、「差異」そのものを思考の中心に据えるという革新的な視点を提示しました。

従来の哲学では、差異は同一性の派生的概念とされ、あるものが「何かと異なる」と定義される際には、必ず比較対象となる同一的な基準が前提とされていました。しかし、ドゥルーズはこのような見方を否定し、「差異こそが思考の原理である」と主張します。また、「反復」についても、単なる再現ではなく、差異を含んだ新たな生成の契機として捉えました。

この作品は、ドゥルーズの後の哲学、たとえばガタリとの共著『アンチ・オイディプス』や『千のプラトー』にも影響を与える基盤的理論を提供しています。そのため、『差異と反復』は彼の思想の出発点であり、現代フランス哲学においても極めて重要な位置を占めているのです。

正解：2. スピノザとベルクソン

解説：

ジル・ドゥルーズが哲学的形成において最も深い影響を受けた思想家は、バールーフ・スピノザとアンリ・ベルクソンです。ドゥルーズは両者の思想に新たな光を当て、自らの哲学体系の中核に据えました。

まず、スピノザに関しては、彼の著作『スピノザと表現の問題』や『スピノザ――実践の哲学』において、スピノザ哲学を「実体の多様な様態の表現」として再解釈し、倫理や存在をポジティブな力（コナトゥス）として捉える視点を展開しています。ドゥルーズにとってスピノザは「哲学のプリンス」とまで称される存在であり、情動や関係性をめぐる彼の議論は、ドゥルーズの「欲望の哲学」へと繋がっていきます。

次にベルクソンにおいては、時間・運動・生成の哲学がドゥルーズに決定的な影響を与えました。『ベルクソン主義』という初期著作では、「持続（デュレー）」という概念を中心に、連続的で非還元的な時間性を強調します。この考え方は後の『差異と反復』において、同一性ではなく「差異」による存在理解に結実します。

このように、スピノザとベルクソンは、ドゥルーズ哲学の出発点であり、彼が構築する脱構築的で生成論的な思考様式の土台をなしているのです。

正解：3. 生成・変化などの存在論的次元において、差異を媒介しながら現れる動的プロセスのこと

解説：

ジル・ドゥルーズの主著『差異と反復』（1968年）において、「反復（répétition）」という概念は、従来の哲学的理解とは異なる斬新な存在論的意義を持っています。一般に「反復」とは、同じことが繰り返される機械的な再現や再帰として理解されがちですが、ドゥルーズはそれを差異と生成の運動として再定義します。

ドゥルーズによれば、反復とは単なる「同一の再演」ではなく、毎回異なる文脈・条件・知覚のもとで現れる、差異を伴った出来事の生成プロセスなのです。たとえば、同じ言葉を繰り返しても、それが発せられる状況や聞く人の心的状態によって、その意味や効果は異なって現れます。こうした現象は、単なる再現ではなく、差異に基づいた創造的な「出来事」として捉えられるべきだとされます。

このように、反復は「差異の生成」であり、同一性や再現性では捉えきれない動的で流動的な存在の在り方を示す概念です。ドゥルーズにとって、哲学の役割はこうした「生成」「運動」「流れ」のなかで思考し直すことにあり、反復とはそのための思考の核に位置づけられます。

この理解は、ニーチェの「永劫回帰」やベルクソンの「持続」概念とも通じており、ドゥルーズ独自のポスト構造主義的な存在論を特徴づける基盤のひとつとなっています。

正解：2. 精神分析家であり、政治活動にも関わった人物

解説：

フェリックス・ガタリは、フランスの精神分析家であり、哲学者ジル・ドゥルーズとともに多くの革新的な思想を打ち出した人物です。彼はラカン派の精神分析に影響を受けつつも、それを乗り越えるべく独自の理論と実践を展開しました。特に、精神疾患の治療を社会的・制度的文脈の中で捉える「制度精神療法」に積極的に関わり、ラ・ボルド病院での活動で知られています。

政治的にもガタリは極めて活動的で、1968年のフランス五月革命以降、様々な左翼運動や環境運動、脱植民地主義運動にも関わりました。彼にとって精神分析は、単なる治療の技法ではなく、社会変革のための思想的武器でもあったのです。

ドゥルーズとの共著『アンチ・オイディプス』（1972年）は、フロイトのオイディプス・コンプレックス理論を批判し、欲望を社会的・政治的力として捉える「欲望の哲学」を打ち立てました。続く『千のプラトー』（1980年）では、「リゾーム」や「脱領土化」などの概念を導入し、権力や知識の非階層的ネットワークを理論化しています。

ガタリはまた、晩年に『三つのエコロジー』を著し、環境・社会・精神の三領域を横断的に扱う視点を提示しました。彼の思想は、精神分析・政治理論・哲学・文化批評を結びつけた極めてラディカルなものであり、今日でもポスト構造主義や実践的批評の文脈で高く評価されています。

正解：3. 欲望が制度や機能に束縛されず、自由に流動する場としての身体

解説：

ドゥルーズとガタリが『アンチ・オイディプス』および『千のプラトー』で展開した「器官なき身体（corps sans organes）」は、従来の身体観を根本から覆すラディカルな概念です。彼らは、身体を器官ごとに分割し、それぞれの役割や機能に基づいて管理・秩序づけるような伝統的な見方（例：目は見るため、手は握るため）に対し、批判的に挑戦しました。

「器官なき身体」は、こうした機能主義的・制度的な身体理解に抗し、欲望があらゆる方向に流動し、既存の組織構造や意味体系に捕らわれることなく運動する、潜在的で生成的な空間として捉えられます。たとえば、性的な快楽は性器に限定されず、皮膚や声、言語、さらには思考や社会関係など、あらゆる領域から立ち上がる可能性を持つとされます。

この身体は、生物学的・社会的に構成された固定的存在ではなく、絶えず異なるものと接続し、変化し続ける生成の場です。また、それは単なる幻想や観念ではなく、芸術、政治、哲学、精神分析の実践のなかで現実的に作用しうる「運動の場」として提示されています。

要するに、「器官なき身体」とは、欲望が制度的機能や社会的意味づけから解放され、自律的かつ創造的に展開する可能性の開かれた地平を意味しているのです。これはドゥルーズ＝ガタリ哲学における脱構築と生成の核心概念であり、現代思想や芸術、批評理論に広く影響を与えています。

正解：1. 非階層的・非中心的で、始点も終点もないネットワーク的構造

解説：

「リゾーム（rhizome）」とは、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリが『千のプラトー』（1980年）において提示した中心的な哲学概念のひとつです。この言葉は、もともと植物の地下茎（たとえばショウガや竹など、地中を這って広がる構造）を指しますが、彼らはこれを思考や存在のあり方を再構築するためのモデルとして用いました。

リゾーム的構造は、非階層的、非中心的、非線形的であり、どこからでも接続可能で、絶えず分岐し、変化し、再接続されます。始点も終点もなく、固定された中心もありません。そのため、従来の「ツリー構造」（根・幹・枝のような上下関係を持つ階層的モデル）とは対極にあるものです。

ドゥルーズとガタリは、このリゾーム的構造を用いて、知識、言語、欲望、社会、政治といった領域における固定的な権力構造や、中心主義的な思考からの脱却を図りました。リゾームは、流動的で多様な連結を可能にするモデルであり、あらゆる方向に開かれ、生成変化し続ける潜在的な運動の場なのです。

たとえば、インターネットやWikipediaのようなハイパーリンク的知識体系は、リゾーム的構造の好例です。これに対し、学校教育や国家の制度のような体系化・序列化されたモデルは、ツリー構造に近いものといえるでしょう。

このように、「リゾーム」はドゥルーズ＝ガタリによる思考の自由化、階層や中心の解体、多様性の肯定を体現する概念であり、ポスト構造主義の代表的な思想の一つです。

正解：4. 映画を哲学的思考の装置として捉え、「運動イメージ」と「時間イメージ」という二つのイメージ概念に基づいて分析した

解説：

ジル・ドゥルーズの映画論は、1980年代に刊行された2冊の著作『映画Ⅰ：運動イメージ（L’image-mouvement, 1983）』と『映画Ⅱ：時間イメージ（L’image-temps, 1985）』において本格的に展開されました。彼は、映画を単なる娯楽や物語装置としてではなく、**「哲学的思考の媒体」**と見なし、独自の映像概念によって体系的に分析しました。

『映画Ⅰ』では、主にクラシック映画（チャップリン、ヒッチコック、アイズナーシュテインなど）を対象とし、ベルクソンの運動＝持続概念をもとに「運動イメージ」を定義します。ここでは、人物や物体の動きが空間と連続的に結びつき、時間が空間の変化として間接的に表現されるという映画の基本構造が扱われます。

一方、『映画Ⅱ』では、戦後ヨーロッパ映画（オズ、タルコフスキー、アントニオーニ、レネなど）を中心に、「時間イメージ」概念を導入します。ここでは、時間が空間的運動に還元されず、時間それ自体が映像の中で直接的に表現されるという新たな映画的次元が開かれます。これは、物語の因果性や動機付けが曖昧になり、登場人物の行動が宙づりになったような映像スタイルに対応しています。

ドゥルーズの映画論は、単なる「映画批評」ではなく、哲学と映像表現の交差点に立つ画期的な思索であり、映像メディアを通じた「思考そのものの変容」を問うものです。今日では映像研究・哲学・メディア論など多分野において、その影響は極めて大きなものとなっています。

正解：3. 概念（concept）を創造する行為である

解説：

ドゥルーズとガタリは『哲学とは何か？』（1991年）において、哲学を「概念を創造する行為」であると明確に定義しました。彼らにとって哲学とは、既存の知識体系を整理したり分析したりすることではなく、世界に対して新しい思考のツールとなる「概念（コンセプト）」を創り出す創造的営みです。

この立場では、哲学者とは既成の命題を検討する存在ではなく、概念という思考の道具を組み立てる創作者として位置づけられます。ドゥルーズとガタリは、科学や芸術とも哲学を区別しており、それぞれが異なる「創造」の形を担っていると述べます。科学は「関数」を、芸術は「感覚のブロック（アフェクトとパーセプト）」を、哲学は「概念」を創造するのです。

このように、哲学は単なる知識の探求ではなく、世界と関わるための新しい思考の構造を構築する活動とされており、非常に能動的かつ創発的な営みとして理解されています。

正解：3. すべてを固定化し、中心化しようとする定住的な思考様式に対抗し、新たな関係性や概念を創造する脱中心的・脱構造的な批判理論

解説：

ドゥルーズとガタリの「ノマド論（nomadology）」は、彼らの代表的著作『千のプラトー』において展開される重要な哲学的枠組みです。この理論では、「ノマド（遊牧的存在）」を単なる移動生活者としてではなく、既成の秩序や思考枠組みに抗い、脱中心的・流動的・生成的な存在様式として積極的に捉えます。

彼らは、国家的思考（ツリー的・階層的・制度的）を「定住的思考」として批判し、それに対抗する形で、どこからでも接続でき、秩序から自由にずれ、生成と逸脱を繰り返すノマド的思考を提示しました。ノマドとは、既存の権力構造やカテゴリーに囚われず、「滑らかな空間（espace lisse）」を移動しながら、新しい秩序や関係性を構築する力の象徴です。

このノマド論は、都市空間の捉え方、知のあり方、マイノリティの政治、さらには芸術表現の自由性など、多様な領域に適用可能です。特に重要なのは、ノマド的存在が常に「外部」から「制度」の内部を攪乱し、新しい可能性を切り開く力として機能する点です。

つまり、ノマド論とは、定まったアイデンティティや秩序に縛られることなく、動き続けることで自由と創造を追求する、思想的な「脱領土化」の実践といえるのです。これは、ドゥルーズ＝ガタリの哲学全体に通底する、「変化・接続・生成」をめぐるラディカルな思考の核心に位置しています。

正解：3. 投身自殺

解説：

ジル・ドゥルーズは1995年11月4日、パリの自宅アパートから飛び降りて命を絶ちました。享年70歳でした。この「投身自殺」は突発的な衝動ではなく、長年の病苦と身体的限界の果てに熟慮された選択だったと見なされています。

ドゥルーズは1980年代後半から重度の呼吸器疾患に苦しみ、何度か肺の手術を受けました。最終的には片肺を摘出し、日常生活でも酸素吸入器を手放せない状態となっていました。かつて自由で創造的な思考を体現し続けた哲学者にとって、そのような「呼吸すらままならない」身体の拘束は、深刻な苦痛であったと想像されます。

彼の死は、フランスの知的共同体に深い衝撃を与えましたが、同時に彼の思想──とりわけ「自由な生成」「束縛からの逃走」「自己の再創造」といった中心的概念──に照らして見れば、死の選択もまた一つの「逃走線」として捉えることができます。

つまり、ドゥルーズの死は単なる悲劇ではなく、「生命がもはや哲学することを許さない限界」において、自らの思考と身体に責任を取るという行為だったとも解釈されています。彼の死は、思考と生の極限における決断として、現在でも多くの読者や研究者に問いを投げかけ続けています。

まとめ：

ジル・ドゥルーズ（Gilles Deleuze, 1925年–1995年）は、20世紀フランスを代表する哲学者の一人であり、その思想は現代哲学、文学、芸術、政治理論など多岐にわたる領域に影響を与えました。彼はパリで生まれ、ソルボンヌ大学で哲学を学び、早くからベルクソンやスピノザ、ニーチェといった「異端の哲学者」たちに深い関心を示しました。ドゥルーズの初期の著作では、カントやヒューム、プルースト、スピノザなどに関する精緻な研究が展開され、彼独自の哲学的感性が形づくられていきました。

1968年と1969年に刊行された『差異と反復』および『意味の論理学』では、伝統的な同一性や本質主義に対抗し、「差異」や「反復」といった動的で生成的な概念を軸とした独自の形而上学を提示しました。この時期から彼の思想は、構造主義やポスト構造主義と関連づけられることが多くなりますが、ドゥルーズ自身は常に独自の道を歩み続けました。

1970年代には精神分析家フェリックス・ガタリと共著を始め、『アンチ・オイディプス』『千のプラトー』といった『資本主義と分裂症』シリーズを通じて、権力、欲望、制度、知の関係をめぐる革新的な思想を展開しました。彼らは、無意識を抑圧的構造として扱うフロイト的精神分析に対抗し、「欲望の生産」という概念を用いて、新たな主体の生成と社会変革の可能性を探りました。

晩年には、ガタリとともに『哲学とは何か？』を著し、哲学を「概念の創造」と定義しました。ここでは、哲学・科学・芸術の違いを明確にしながら、それぞれの知的実践の創造性を尊重する立場が示されています。

ドゥルーズは1995年に自ら命を絶ちましたが、その思想は「思考とは何か」「差異とは何か」「創造とは何か」といった根源的問いに挑み続ける哲学の可能性を開き、現在に至るまで世界中で読み継がれています。

参考文献：

宇野邦一著 (2020) 『ドゥルーズ　流動の哲学（増補改訂）』講談社学術文庫
KAWADE道の手帖 (2005) 『ドゥルーズ　没後10年、入門のために』河出書房新社
檜垣立哉著 (2009) 『ドゥルーズ入門』ちくま新書