正解:4
解説:
ミシェル・フーコーは、「正常」と「異常」の区別が、自然的・普遍的な真理に基づくものではなく、むしろ社会的・歴史的に構築されるものであると主張しました。たとえば、彼の著作『監獄の誕生』や『臨床医学の誕生』『知への意志』などにおいて、フーコーは近代社会における知識や制度が、何を「正常」とし、何を「逸脱」とするかを規定し、それに従って人々を分類・管理してきた過程を明らかにしています。
この区別は、医療や教育、司法、精神医学といった制度の中で形成され、個人の行動や思考を「矯正」しようとする権力の技術と密接に結びついています。つまり、異常とされる者は単に治療や排除の対象となるのではなく、社会的な規範の再生産に寄与する装置の中に組み込まれているのです。
したがって、フーコーは「正常」と「異常」の区別を絶対的なものとは見なさず、それぞれの時代の制度的・権力的文脈の中で変動しうる相対的な構築物であると理解していました。この視点は、現代社会における差別やスティグマの構造を批判的に問うための重要な視座を提供しています。
まとめ:
ミシェル・フーコー(Michel Foucault、1926年–1984年)は、20世紀フランスを代表する哲学者であり、思想史家、批評家としても知られています。彼は構造主義やポスト構造主義に関連づけられることが多いものの、本人はそれらのラベルを拒否し、独自の知の系譜学を展開しました。フーコーの関心は、知識、権力、主体、言説の関係性にあり、これらの概念を歴史的文脈の中で分析する方法を確立しました。
彼はフランスのポワチエに生まれ、パリのエリート校エコール・ノルマル・シュペリウールで学びました。初期には精神病理学や心理学に関心を寄せ、1954年に最初の著作『狂気と非理性(英語版タイトル:Madness and Civilization)』を発表し、近代の「狂気」概念の歴史的変遷を批判的に検討しました。続く『臨床医学の誕生』『言葉と物』では、近代的知の編成構造を問う作業を進めました。とくに『言葉と物』(1966年)は、「人間の終焉」という挑発的な命題で話題を呼び、知識の歴史的条件がいかに人間の理解を規定するかを示しました。
1970年にはコレージュ・ド・フランスの教授に就任し、「知の考古学」から「権力の系譜学」への転換を本格化させます。『監獄の誕生』(1975年)では、近代国家における懲罰制度と監視のメカニズムを分析し、「パノプティコン」という概念を通じて権力の可視化と内面化を明らかにしました。フーコーの権力論は、権力を抑圧的なものとしてではなく、生産的で遍在的なネットワークとして捉える点に特徴があります。
晩年には『性の歴史』シリーズに取り組み、性、自己、主体化の問題に迫りました。とくに後期のフーコーは、自己への配慮(care of the self)や主体の倫理的形成に関心を移し、古代ギリシャの文献にも注目しました。
1984年、フーコーはエイズの合併症により57歳で亡くなりました。彼の思想は今日でも哲学、社会学、歴史学、文化研究など多様な分野において影響を与え続けています。
参考文献:
内田隆三著 (2020) 『ミシェル・フーコー』講談社学術文庫
慎改康之著 (2029) 「ミシェル・フーコー : 自己から脱け出すための哲学 』岩波新書
中川久嗣著 (2013) 『ミシェル・フーコーの思想的軌跡 : 「文明」の批判理論を読み解く』東海大学出版会
重田園江著 (2011) 『ミシェル・フーコー : 近代を裏から読む』ちくま新書