ボーヴォワールのことがよくわかる！クイズ10問

正解：2. 第二の性

解説：

『第二の性（Le Deuxième Sexe）』は、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが1949年6月に発表した最も重要な著作であり、現代フェミニズム思想の礎を築いた画期的な作品です。この書物は、女性がいかにして社会的に「第二の性」として位置づけられ、主体的存在ではなく「他者」として扱われてきたかを、哲学、文学、生物学、歴史、神話、宗教、精神分析など多岐にわたる視点から精緻に分析しています。

本書の中でボーヴォワールは、「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名な言葉を記し、ジェンダーが生物学的に決定されるのではなく、社会的・文化的に構築されるものであるという視点を示しました。この一節は、その後のジェンダー理論や構築主義的フェミニズム（特にジュディス・バトラーなど）にも深い影響を与えました。

『第二の性』は当初から大きな論争を呼び、カトリック教会などから強い批判を受けた一方で、女性解放運動や実存主義思想を広める上で決定的な役割を果たしました。今日においても、フェミニズムの古典として世界中で読み継がれており、ボーヴォワールの思想的遺産を代表する著作とされています。

正解：3. 女性が歴史的・社会的・文化的構築物として主体たる男性に対する「他者」となること

解説：

この言葉は、シモーヌ・ド・ボーヴォワールの代表作『第二の性』（1949年）の中で述べられたもので、**ジェンダー（社会的性）**の概念を先取りしたきわめて重要な命題です。ボーヴォワールは、「女である」ということが、単に生物学的な事実（性）によって決定されるのではなく、社会的・文化的な教育や制度、規範を通じて形成されるものであると主張しました。

つまり、人は「女性」として生まれるのではなく、家族や学校、宗教、メディア、そして男性中心の社会構造の中で「女になる」ように仕向けられるというのです。これは、女性が**主体ではなく「他者」**として位置づけられる構造を批判するものであり、フェミニズム思想の出発点ともいえる考え方です。

この命題は、その後のジェンダー研究や構築主義的フェミニズム（例：ジュディス・バトラーなど）に大きな影響を与えました。ボーヴォワールは、女性が「第二の性」として位置づけられている現実に対し、それを可能にしている歴史的・制度的・文化的条件を明らかにすることで、女性の解放の可能性を切り拓こうとしたのです。

正解：3. ジャン＝ポール・サルトル

解説：

シモーヌ・ド・ボーヴォワールは、1929年にフランスの哲学アグレガシオン試験（agrégation de philosophie）にわずか21歳で挑み、女性として初めてこの極めて難関な国家試験に合格しました。このとき彼女は首席に次ぐ2位の成績を収め、その1位となったのがジャン＝ポール・サルトルでした。

アグレガシオン試験は、フランスの高等教育において最も名誉ある資格の一つであり、特に哲学分野では競争が激しく、合格者の多くが将来の大学教授や思想家として活躍します。

サルトルは前年に一度この試験に失敗しており、この年が二度目の挑戦でした。一方で、ボーヴォワールは初挑戦での合格であり、しかも当時の女性としては極めて異例な若さと実力を示しました。

この試験を通じて、ボーヴォワールとサルトルは出会い、生涯にわたる知的・恋愛的パートナー関係を築いていきます。彼らの出会いは20世紀の思想史において決定的な意味を持ち、実存主義やフェミニズムの発展に大きな影響を与えました。

このエピソードは、二人の卓越した知性と、当時の女性の社会的限界を突破したボーヴォワールの先駆的な生き方を象徴する出来事といえます。

正解：3. 人工妊娠中絶の合法化を求める運動

解説：

「343人のマニフェスト（Le manifeste des 343）」は、1971年4月5日にフランスの週刊誌『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』誌に掲載された声明で、人工妊娠中絶の合法化を求める運動の一環として発表されました。この声明には、シモーヌ・ド・ボーヴォワールをはじめ、作家、俳優、学者、知識人など343人の女性が署名し、自らが中絶を経験したと公に告白しました。

当時のフランスでは中絶は違法であり、刑事罰の対象でした。署名者たちは、女性が中絶を選択する自由を持てない状況が、女性の身体の自己決定権を否定し、社会的不平等を助長していると訴えました。この声明は大きな反響と論争を呼び、社会に衝撃を与えると同時に、フランスにおける女性の権利運動の転機となりました。

その後、この運動は法律の改正を促進し、1975年にはシモーヌ・ヴェイユ厚生大臣の主導により、妊娠中絶を条件付きで合法化する「ヴェイユ法（Loi Veil）」が成立します。

このように、「343人のマニフェスト」は、女性の身体的・倫理的自己決定権の確立を目指す歴史的な一歩であり、ボーヴォワールの実践的フェミニズムが現実の社会運動と結びついた象徴的な出来事であったのです。

銃を持つヘミングウェイ

正解：2. 隠退して自分の仕事を放棄することは、墓へ降りることに等しい

解説：

この言葉は、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが著書『老い』（La Vieillesse, 1970）の中で引用した、アーネスト・ヘミングウェイの言葉として紹介されています。ヘミングウェイはその晩年、身体的な衰えと精神的な不調、そして創作活動の限界に苦しみ、最終的に自死を選びました。この言葉には、彼の深い絶望と、創作者としての自己を失うことが「生きるに値しない」と感じた強い実存的苦悩が込められています。

ボーヴォワールはこの引用を通して、老いがもたらすのは単なる肉体的衰退ではなく、社会的・精神的に「無用者」とされることによる尊厳の喪失であると指摘しています。特に、自己の仕事や役割によって自己を定義してきた人々にとって、老いによってその役割を剥奪されることは、死と同等の意味を持つとする考え方を象徴する一節です。

このような視点は、ボーヴォワールが『老い』において展開する主張──すなわち、現代社会における老いの「他者化」と「排除」──を補強するものとなっており、高齢者の尊厳ある生をどう保障するかという問題への鋭い問いかけとなっています。

正解：3. 自分が老いたから

解説：

シモーヌ・ド・ボーヴォワールと上野千鶴子の両者が「老い」について本を書こうと思った直接の動機は、自分自身が老いを実感し、その現実に直面したことにあります。

ボーヴォワールは1970年に著書『老い（La Vieillesse）』を出版し、その中で老いがどのように社会的に「他者化」され、尊厳や役割を奪われるかを哲学的・社会学的視点から徹底的に分析しました。彼女は、老いが抽象的な問題ではなく、「私の問題」であると認識したときに、この本を書く決意をしたと述べています。つまり、老いが自分自身の問題となった瞬間に、沈黙するのではなく語ることが必要だと考えたのです。

同様に、上野千鶴子もまた、自身の加齢を契機として、老いの問題に取り組むようになります。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』などの著作では、老いを自己の現実として捉えつつ、社会制度やケアの問題を鋭く批判的に論じています。彼女は、老いを語ることが「私の問題」になった瞬間から、その語りが社会への問いとして成立すると述べています。

このように、「自分が老いたから」こそ、老いを語り、書くことが切実な行為となったという点で、ボーヴォワールと上野千鶴子は深く共鳴しており、個人の経験が思想へと転化する典型的な例といえます。

正解：3. 別れの儀式

解説：

『別れの儀式（La Cérémonie des adieux）』は、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが1981年に発表した回想的著作で、彼女の長年のパートナーであるジャン＝ポール・サルトルとの最後の数年間を赤裸々に描いた感動的な作品です。この本は、サルトルが老いと病に苦しみ、自力での生活や執筆が困難になる中で、ボーヴォワールが彼を献身的に看護し、見送った体験を記録しています。

本書の前半では、サルトルの晩年の衰えが詳細に描かれ、知的巨人として知られた彼がいかに身体的・精神的機能を失っていったかを、ボーヴォワールは愛情と痛みを込めて綴っています。また後半には、サルトルとの長年の対話やインタビューも収録されており、二人の思想的・人間的関係の深さを垣間見ることができます。

この著作は、単なる私的回想録ではなく、老い・死・愛・依存・主体性の喪失といった実存的テーマを含む重層的な作品であり、ボーヴォワール自身の哲学的問題意識とも深く結びついています。

とりわけ、サルトルという存在を看取りながら、彼の衰弱を見つめ、なおも言葉で記述するという行為は、ボーヴォワールの実存主義とフェミニズム思想の延長線上にあるものでした。

『別れの儀式』は、愛と哲学が交差する場所で書かれた、きわめて誠実で感動的な作品として、今も読み継がれています。

正解：2. 文明社会は老いた人間を厄介者として廃物扱いする

解説：

この言葉は、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが著書『老い』の中で述べた象徴的な表現です。彼女は、近代文明や資本主義社会が「生産性」や「若さ」ばかりを重視し、老いた人々を社会の中心から排除し、無力で価値のない存在とみなす傾向を批判しました。つまり、老いが「スキャンダル」であるとは、文明が老いを恥ずべきもの、不都合なものとして扱い、直視することを避けてきたという意味です。

この視点は、老いに対する社会的偏見や差別を浮き彫りにし、高齢者が人間として尊重されない状況を問題提起するものでした。ボーヴォワールは、老いを社会の周縁に追いやるこの態度こそが、文明にとっての深刻な「スキャンダル」であると告発したのです。

正解：3. 従来型の高齢者施設が抱える画一的・管理的・排除的な体質に対して批判的だった

解説：

シモーヌ・ド・ボーヴォワールと上野千鶴子は、いずれも高齢者福祉に関する既存の制度や施設に対して強い批判意識を持っていました。ボーヴォワールは著書『老い』の中で、高齢者が医療施設や介護施設で「無力な存在」として扱われ、自律性を奪われる現実に深い憤りを表明しました。彼女は、高齢者が人間としての尊厳を保ったまま老いることの困難さを強調し、社会の老いに対する態度を根底から問い直そうとしました。

一方、上野千鶴子も『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』などで、画一的で管理優先の施設における「介護される主体」としての高齢者の扱いを問題視し、従来の施設がもつ統制的・排除的な性格に警鐘を鳴らしました。上野は、高齢者一人ひとりの生き方の多様性と、ケアのあり方の個別性を尊重すべきだと主張しています。

両者に共通するのは、高齢者施設の中で個人が自由や尊厳を奪われる構造に対する懐疑であり、「老いを生きること」の意味を真摯に問い直す姿勢です。したがって、正解は「従来型の高齢者施設が抱える画一的・管理的・排除的な体質に対して批判的だった」です。

ボーヴォワールとサルトルの墓

正解：3. モンパルナス墓地

解説：

シモーヌ・ド・ボーヴォワールの墓は、フランス・パリの**モンパルナス墓地（Cimetière du Montparnasse）**にあります。これはパリの左岸に位置する由緒ある墓地で、多くの文化人や知識人が埋葬されていることで知られています。

ボーヴォワールの墓は、生涯の伴侶であり思想的パートナーでもあったジャン＝ポール・サルトルと並んで埋葬されています。二人の墓石は簡素でありながらも訪れる者に深い印象を与え、世界中の読者や思想家、フェミニストたちが今もなお墓参に訪れる場所となっています。

モンパルナス墓地には、ボーヴォワールとサルトルのほかにも、シャルル・ボードレール、サミュエル・ベケット、モーリス・メルロー＝ポンティなど、19世紀から20世紀のフランスを代表する知識人や芸術家たちが眠っており、パリの知的伝統を象徴する場所です。

このように、ボーヴォワールの墓は、彼女が生涯にわたって貫いた実存主義的精神とフェミニズムの思想的遺産を記念する、重要な文化的・思想的聖地となっているのです。

まとめ：

シモーヌ・ド・ボーヴォワール（1908年〜1986年）は、フランスの哲学者・作家・フェミニストであり、20世紀を代表する知識人の一人です。彼女はジャン＝ポール・サルトルの伴侶として知られていますが、独自の思想と実践によって女性解放運動に多大な影響を与えました。

ボーヴォワールはパリのカトリック系ブルジョワ家庭に生まれ、ソルボンヌ大学で哲学を学びました。若くして哲学教授となり、サルトルとともに実存主義の発展に寄与します。彼女はサルトルと「自由」と「選択」の倫理を共有しながらも、独自に女性の経験や存在の問題を掘り下げていきました。

代表作『第二の性』（1949年）は、女性が歴史的に「他者」として位置づけられ、自らの主体性を否定されてきたことを実存主義の視点から明らかにした画期的な著作です。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名な一節は、性別が単なる生物学的事実ではなく、社会的・文化的構築物であることを示唆し、後のジェンダー理論にも大きな影響を与えました。

また、彼女は『老い』（1970年）などの著作で、老年期における人間の尊厳や社会的排除の問題にも鋭く切り込みました。ここでは、年老いた人々が社会の周縁に追いやられ、無力な存在として扱われることへの批判が展開され、高齢社会における倫理と制度の問いが提示されています。

ボーヴォワールは生涯にわたり、抑圧された存在の自由と尊厳を擁護し続けました。思想と実践を結びつけ、哲学を生きるものとする姿勢は、多くの人々に影響を与え続けています。彼女の生涯は、知性と行動、個人と社会、哲学と政治が交差する場において、新たな人間の在り方を模索し続けた証であるといえるでしょう。

参考文献：

シモーヌ・ド・ボーヴォワール著 (1949=1997) 『決定版 第二の性』（I 事実と神話、II 体験）新潮社
ボーヴォワール著 (1970=2013) 『老い』（上下）人文書院
A. シュヴァルツァー著 (1983) 『ボーヴォワールは語る「第二の性」その後』平凡社
上野千鶴子著 (2025) 『アンチ・アンチエイジングの思想ーボーヴォワール「老い」を読む』みすず書房