ウィトゲンシュタインのことがよくわかる！クイズ10問

【正解】 2. ウィーンの裕福な実業家の家庭に生まれた

【解説】 ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは1889年、オーストリア＝ハンガリー帝国（現在のウィーン）に生まれました。彼の父カール・ウィトゲンシュタインは、ヨーロッパ屈指の鉄鋼業で財を成した実業家であり、一家はウィーン有数の大富豪として知られていました。家庭は文化的にも豊かで、ウィトゲンシュタイン家は音楽家や芸術家たちが頻繁に出入りする社交の場でもありました。彼自身は哲学に進みましたが、兄たちの中には音楽家や芸術家もいました。このように、ウィトゲンシュタインは極めて裕福で文化的な環境の中で育ったのです。

【正解】 2. ウィトゲンシュタインはラッセルの弟子であり、ケンブリッジ大学で師事した

【解説】 ウィトゲンシュタインは1911年、ケンブリッジ大学で哲学の講義を受けるために訪れ、そこで当時名声を得ていた哲学者バートランド・ラッセルと出会いました。ラッセルはウィトゲンシュタインの卓越した才能をすぐに見抜き、自身のもとで指導することになります。ウィトゲンシュタインはラッセルの論理学の考えを学びつつも、やがて独自の哲学的視座を深め、ラッセルにも強い影響を与えるようになりました。両者の間には師弟関係でありながら、互いに刺激し合う知的交流がありました。ただし、後年になると哲学的立場の違いから距離が生じることになります。

正解：1. 真理値表

解説：

ウィトゲンシュタインは、論理学の研究において「真理値表」を発明しました。真理値表とは、論理命題がとりうる真偽の組み合わせと、その結果として導かれる命題の真偽を一覧にした表です。これは『論理哲学論考（Tractatus Logico-Philosophicus）』の中で示され、複雑な論理式の真偽を明確に判定できる画期的な方法とされました。

例：「p または q（p ∨ q）」 の真理値表

• p が真であれば「p ∨ q」は常に真

• 両方が偽のときだけ「p ∨ q」は偽

それまでの論理学では、論理式の真偽の判定は直観的な理解に頼ることが多かったのですが、ウィトゲンシュタインは命題論理において、真理値の組み合わせをすべて列挙して評価することで、形式的な体系としての論理を確立しました。

この発明は、後に記号論理学やコンピュータサイエンス、さらには現代のデジタル回路設計にも応用され、極めて大きな影響を与えました。

【正解】

1. 論理哲学論考

【解説】

ウィトゲンシュタインが生前に出版した唯一の著作は『論理哲学論考』（原題：Tractatus Logico-Philosophicus）です。

この書物は第一次世界大戦中の従軍経験を経て書かれ、1921年にドイツ語版が、翌年に英語訳が出版されました。内容は、言語、世界、思考の関係を論理的に記述したもので、「語りうることは明晰に語られねばならない。語りえぬことについては沈黙しなければならない」という有名な命題で結ばれています。

ウィトゲンシュタインはこの著作によって哲学上の問題はすべて解決されたと考え、一時哲学の世界から離れます。その後、晩年に書かれた『哲学探究』や『青色本』などは、いずれも彼の死後に出版されました。

したがって、『論理哲学論考』こそがウィトゲンシュタインが自らの生涯で公に発表した唯一の著作となります。

【正解】 2. 命題とは現実の像である

【解説】 『論理哲学論考』においてウィトゲンシュタインは、「命題とは現実の像（Bild）である」と述べています。 彼の「像理論（Bildtheorie）」によれば、命題は現実の事態（Sachverhalt）を論理的に写し取ったものであり、現実の構造と命題の構造が対応していると考えました。つまり、命題は単なる言葉の並びではなく、世界のあり方を映し出す像のようなものだとしたのです。 この考え方は、命題が真であるか偽であるかは、それが現実とどのように対応しているかによって決まる、という論理的実在論の立場に立つものです。 この「命題＝現実の像」という考えは、後の言語哲学に大きな影響を与え、『論理哲学論考』の中心的な命題のひとつとされています。

【正解】 3. 言語批判

【解説】 カントは『純粋理性批判』において、理性の限界と可能性を吟味し、哲学の出発点を「理性批判」に置きました。一方、ウィトゲンシュタインは20世紀哲学において「言語批判」を中心的理念としました。 彼は『論理哲学論考』では、言語が世界をどのように写し取るかを論じ、言語の論理的構造を明らかにしました。また、後期の『哲学探究』では、言語は固定的な意味を持つものではなく、日常的な言語使用（言語ゲーム）の中でその意味を持つと考え、言語の働きそのものを問い直しました。 このように、ウィトゲンシュタインは哲学の課題を「言語の限界を明らかにし、誤解や混乱を解消すること」と位置づけ、言語批判的なアプローチを通して、哲学を「療法的」な営みとみなしたのです。 したがって、カントの「理性批判」に対応するウィトゲンシュタインの理念は「言語批判」であるといえます。

【正解】 3. 語ることができないことについては、沈黙するしかない

【解説】 ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』は、哲学史上でも特に有名なこの一文で締めくくられています。 この言葉は「Wovon man nicht sprechen kann, darüber muss man schweigen.」という原文で、「語ることができないことについては、沈黙するしかない」と訳されています。 ウィトゲンシュタインは、言語は世界の事実（現実の出来事や状況）を記述するものであり、それを超えるもの――たとえば倫理、宗教、形而上学的な問題――については、言語によって適切に語ることができないと考えました。 したがって、そのような事柄については哲学も沈黙すべきである、という態度を示しています。この結論は、ウィトゲンシュタインの哲学が持つ論理的厳密さと謙虚さを象徴するものであり、20世紀哲学に大きな影響を与えました。

【正解】 3. 哲学探究

【解説】 ウィトゲンシュタインの『哲学探究（Philosophische Untersuchungen）』は、彼の死後1953年に出版された後期哲学の代表的著作です。 この書物では、初期の『論理哲学論考』で示された言語＝世界対応モデルとは異なり、言語は使用の中でその意味を持つという「言語ゲーム」の考え方が中心に据えられています。 ウィトゲンシュタインは、言語が日常生活の多様な活動に根ざしており、言葉の意味はその使われ方に依存すると主張しました。 『哲学探究』は、従来の哲学的問題が言語の誤解から生じているとし、哲学の目的は問題の「解決」ではなく、「解消」にあると考える転換を示しました。 この考え方は、後の言語哲学、日常言語学派、分析哲学に大きな影響を与え、現代哲学の方向性を決定づけた重要な著作となっています。

正解：

2. 言語の意味は、使用される具体的な状況や活動によって決まるという考え方

解説：

ウィトゲンシュタインは後期哲学において、『哲学探究』の中で「言語ゲーム（language game）」という概念を提示しました。これは、言語の意味があらかじめ固定されたものではなく、具体的な使用の場面や社会的活動の中で、その都度決まるものであるという考え方です。

たとえば、「命令」「質問」「約束」など、それぞれ異なる文脈で言葉が使われることで、その意味が成立するのです。これにより、彼は従来の論理学中心の言語観を批判し、日常言語の多様な機能に注目しました。

この理論は、言語を生活の中の「遊び」や「活動」にたとえることで、言語理解における多様性と柔軟性を強調しています。

【正解】 3. 哲学が言語を通して哲学的問題を考察する方向に転じたこと

【解説】 「言語論的転回」とは、20世紀の現代哲学において、哲学の中心的課題が「言語」の分析や考察に移行したことを指します。 それまでの哲学は、意識や存在、認識といった主題を直接扱うことが多かったのですが、20世紀初頭、分析哲学や論理実証主義の流れの中で、言語が哲学的問題の鍵を握ると考えられるようになりました。 この潮流には、フレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタイン（初期・後期の両方）、さらにはクワインやオースティンといった哲学者が深く関与しています。 彼らは「哲学の問題の多くは、言語の誤用や混乱から生じる」と考え、言語の論理的分析や日常言語の用法分析を通じて問題の解決を目指しました。 この転回は、哲学がより厳密な分析的手法を重視するようになった転機であり、現代の哲学研究に大きな影響を及ぼしています。

まとめ：

ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、1889年にオーストリア・ウィーンの裕福な家庭に生まれました。彼は当初、工学を学ぶためにベルリン工科大学に進み、その後イギリスのマンチェスター大学で航空力学を研究していました。しかし、数理論理学に興味を持ち、1911年にケンブリッジ大学へ移り、哲学者バートランド・ラッセルのもとで学びます。ここで彼は哲学的才能を認められ、生涯にわたる哲学研究の道を歩むことになります。

第一次世界大戦に従軍した後、1921年に著したのが彼の代表作『論理哲学論考』です。この書では、世界は事実の総体であり、言語はそれを「像」として映し出すとする「像理論」を展開しました。この考えは、言語の限界が世界の限界であるという独特の思想につながります。しかし、戦後は教師や修道院の庭師など、哲学とは異なる職に就いていました。

1930年代に再びケンブリッジに戻り、後期哲学を展開します。その中心となったのが『哲学探究』で、ここでは前期の言語観を批判し、言語は多様な「言語ゲーム」の中で意味を持つと主張しました。この考えは、言葉の意味は使用に根ざすという言語哲学の転換点となります。

ウィトゲンシュタインは1951年に亡くなりましたが、その思想は哲学・言語学・認識論・心理学に大きな影響を与えました。彼は沈黙すべきものを重んじ、哲学は問題を解決するのではなく、問題を解消する営みであると考えた点で、20世紀最大の哲学者の一人と評価されています。

参考文献：

ウィトゲンシュタイン著（丘沢静也訳）『論理哲学論考』光文社古典新訳文庫
古田徹也著『はじめてのウィトゲンシュタイン』NHKブックス 野家啓一編『ウィトゲンシュタインの知』新書館 黒田亘編『ウィトゲンシュタイン・セレクション』平凡社 ブライアン・マクギネス著『ウィトゲンシュタイン評伝』法政大学出版局
黒崎宏著『言語ゲーム一元論』勁草書房
橋爪大三郎著『言語ゲームと社会理論』勁草書房