空海のことがよくわかる！クイズ八十八問（その４）

正解：3. 入定

解説：

真言宗では、宗祖・空海（弘法大師）の逝去を「入定（にゅうじょう）」と特別に呼んでいます。一般的な仏教用語では、高僧の死を「入寂」や「入滅」などと表現しますが、真言宗においては空海は単に亡くなったのではなく、深い瞑想（三昧）に入り、現在も高野山奥之院で修行を続けているとされています。

この「入定」の概念は、密教の根本思想である「即身成仏」、すなわちこの身このままで仏となるという教えと密接に結びついています。空海は835年3月21日に高野山で入定したとされ、以来今日まで、奥之院では毎日食事が届けられるなど、「今も生き続けている聖者」として崇められています。この特別な思想は、真言宗の信仰体系を象徴する重要な教義のひとつです。

正解：1. 密教の仏が発する言葉（説法）のこと

解説：

「真言（しんごん）」とは、サンスクリット語で「マントラ（mantra）」と呼ばれる神聖な音・言葉を漢訳したもので、密教において極めて重要な修行法の一つです。真言宗では、「真言」は単なる呪文や祈りの言葉ではなく仏が発する真理そのものの言葉（法身説法）であると捉えられています。

この考え方は、空海の密教思想において中心的な位置を占めています。空海は、仏（とくに大日如来）は言語を超えた存在であるが、真言を通じて直接にその智慧と慈悲を表しており、修行者がその真言を唱えることで、仏と一体になることができると説きました。

つまり、「真言」は単に仏を称えるだけのものではなく、仏そのものの力が宿った言葉であり、修行における「身密（印）・口密（真言）・意密（観想）」の「口密」として重要な役割を果たしています。このように、「真言」とは密教において仏が語る真理の言葉そのものであり、悟りに至るための実践的な道でもあります。

正解：1. 地・水・火・風・空・識

解説：

空海の密教思想において、「六大（ろくだい）」とは、宇宙と人間を構成する根本的な要素を示す概念です。この六つの要素とは、「地（ち）・水（すい）・火（か）・風（ふう）・空（くう）・識（しき）」です。

「地・水・火・風・空」の五つは古代インド思想に由来する「五大（ごだい）」であり、それぞれ物質的世界の構成要素を示します。

• 地：固体・安定性
• 水：液体・融合性
• 火：熱・変化作用
• 風：気体・運動性
• 空：空間・包容性

これに空海は第六の要素として「識（しき）」を加えました。

• 識：精神・認識作用

この「識」を加えることで、空海は宇宙と人間は精神を含めて同じ原理で構成されていると説きました。すなわち、大日如来の身体と精神のはたらきは、この六大によって現れ、また人間の身体と心も六大によってできているとすることで、人間と宇宙（仏）の本質的一体性を明らかにしたのです。

この六大の思想は、空海が唱える「即身成仏」や「三密即如（身・口・意がそのまま仏と一致する）」という密教の根本理念と深く結びついています。

正解：1. 延喜21年（921年）、醍醐天皇から

解説：

空海が「弘法大師（こうぼうだいし）」の**諡号（しごう）**を与えられたのは、延喜21年（西暦921年）のことです。この時の天皇は醍醐天皇で、空海が入定してから約86年後の出来事です。

「弘法大師」という諡号は、「弘教利生（こうきょうりしょう）」、すなわち仏法を広く弘め、衆生を利益したという空海の功績をたたえるものであり、日本仏教史において極めて名誉ある称号です。諡号は本来、死後に与えられる尊号で、国家による公式な顕彰を意味します。

この称号の授与は、空海が宗教だけでなく、書道、教育（綜藝種智院の設立）、土木技術（満濃池の修築）など、多方面で国家と民衆に大きな貢献を果たしたことが、時の朝廷に広く認められていた証です。

以後、空海は「弘法大師」として広く人々に親しまれ、現在に至るまで「お大師さま」として篤い信仰を集めています。特に高野山奥之院では、今なお生き続けて衆生を救っていると信じられており、その信仰は真言宗のみならず日本全国に広がっています。

正解：3. 大日経

解説：

胎蔵曼荼羅（たいぞうまんだら）は、真言密教において中心的な意義を持つ曼荼羅の一つで、**『大日経（だいにちきょう）』**に基づいて構成されています。この曼荼羅は、大日如来を中心とした多くの仏・菩薩の世界を象徴的に表現した図像であり、「大日如来の慈悲によって育まれる宇宙の真理」を視覚的に示したものです。

「胎蔵」とは、母の胎内のようにあらゆる命を包み育むものを意味し、ここでは仏の慈悲のはたらきや法界（ほっかい）そのものを象徴しています。曼荼羅の中心には大日如来が座しており、周囲に九会（くえ）と呼ばれる区画に分類された多数の如来・菩薩・明王・天部などが配されています。

『大日経』は、密教の根本経典のひとつであり、大日如来が自らの悟りを衆生に説き明かす「法身説法」の形式をとっています。この経典をもとにした胎蔵曼荼羅は、真言宗の教理・瞑想・修法の中心となるものであり、密教修行において欠かせない存在です。

胎蔵曼荼羅は、金剛界曼荼羅（『金剛頂経』に基づく）と対を成す「両界曼荼羅」の一方を構成し、この二つを通して宇宙の真理と悟りへの道が総合的に示されています。

正解：3. 金剛頂経

解説：

金剛界曼荼羅（こんごうかいまんだら）は、真言密教において重要な曼荼羅であり、**『金剛頂経（こんごうちょうきょう）』**を根拠とした図像表現です。この曼荼羅は、大日如来の智慧のはたらきを中心に、宇宙の構造と仏の悟りの内容を象徴的に示すものです。

「金剛」とは、壊れることのない堅固なもの、すなわち悟りの智慧の堅固さと不動性を意味し、金剛界曼荼羅はその智慧の力によって迷いを断ち、真理へと至る道を視覚化したものです。曼荼羅の中央には「五仏（五智如来）」が配置され、特に中央の大日如来を中心として、四方に阿閦如来、宝生如来、阿弥陀如来、不空成就如来が配されています。

この曼荼羅は、慈悲を象徴する胎蔵曼荼羅と対を成し、「両界曼荼羅（りょうかいまんだら）」として用いられます。胎蔵曼荼羅が仏の「内なる慈悲」の世界を表すのに対し、金剛界曼荼羅は仏の「外への智慧の働き」を示すとされ、この両者の統合によって密教の宇宙観が完成します。

修行者はこの曼荼羅を観想し、仏と一体化することで即身成仏を目指します。したがって、金剛界曼荼羅は真言宗における修行と教義の核心をなす、極めて重要な図像体系です。

正解：2. 大曼荼羅・三昧耶曼荼羅・法曼荼羅・羯磨曼荼羅

解説：

真言密教において、「四種曼荼羅（ししゅまんだら）」とは、密教の世界観と修行体系を視覚的かつ象徴的に表現した四つの異なる形式の曼荼羅を指します。これらはそれぞれ仏のさまざまな側面を表しており、以下のように分類されます。

1. 大曼荼羅（だいまんだら）：仏の悟りそのもの、すなわち法身（ほっしん）としての大日如来の存在を描く曼荼羅です。絵画や立体によって表されることが多く、仏や菩薩の形相が視覚的に示されます。
2. 三昧耶曼荼羅（さんまやまんだら）：仏や菩薩が持つ持物や象徴（法具）によって、仏の本質や誓願を象徴的に表す曼荼羅です。たとえば金剛杵や蓮華、宝珠などがその象徴です。
3. 法曼荼羅（ほうまんだら）：仏の本質を文字（種子字）で表した曼荼羅です。梵字（サンスクリット文字）で仏の名や本質が記されており、視覚ではなく文字の力による表現となります。
4. 羯磨曼荼羅（かつままんだら）：仏の行為や実践的なはたらきを象徴する曼荼羅で、仏や菩薩が実際に動作や作法を行っている姿で表現されます。

これらの曼荼羅は、単に図像や象徴にとどまらず、修行者が仏と一体になるための実践の道として重視されており、真言密教の教義と実践の中核をなしています。四種曼荼羅を通して、密教は仏の身（形）、口（言葉）、意（心）、行（行為）の全体性を顕現しようとするのです。

正解：3. 頭頂に水をそそぐ入門の儀式

解説：

「灌頂（かんじょう）」とは、密教において極めて重要な宗教儀式であり、**修行者が密教の修法に正式に入門する際に行われる「伝法の儀式」**です。その名のとおり、参加者の頭頂に水を注ぐ作法が行われることから、この名がつけられました。

この儀式は、単なる形式的な通過儀礼ではなく、密教の秘法を伝授し、修行者が仏と一体になるための資格を得るための聖なる行為とされています。インド古来の王の即位儀礼（アビシェーカ）に由来し、仏教に取り入れられたものです。

灌頂にはいくつかの段階や種類がありますが、特に有名なのが「四種灌頂（ししゅかんじょう）」であり、それぞれ身・口・意・智慧という仏の働きを象徴する伝授が行われます。

空海も唐の青龍寺で恵果阿闍梨から正式に灌頂を受けたことにより、真言密教の正統な継承者として認められ、日本に密教を伝えることができました。

このように、「灌頂」は単に水をかける儀式ではなく、修行者が仏の悟りに向かって歩む道に入るための本格的な宗教的イニシエーションとして、真言宗をはじめとする密教諸派で大切にされています。

正解：4. 行住坐臥いつも弘法大師と一緒だということ

解説：

「同行二人（どうぎょうににん）」とは、四国八十八か所を巡礼するお遍路さんが身につける菅笠や金剛杖に書かれている言葉で、「旅をしているのは一人ではなく、常に弘法大師（空海）とともにある」という意味を表しています。

この言葉の背景には、真言宗における空海への深い信仰があり、巡礼者がどんな場所にいても、たとえ一人で歩いていても、弘法大師が常に守り導いてくれているという安心と加護の感覚が込められています。日常のすべての行動――歩く、立つ、座る、寝る（行住坐臥 ぎょうじゅうざが）――の中においても、大師が共にいるという精神的な同行を表した言葉です。

また、金剛杖は「大師の化身」ともいわれ、お遍路の旅の間に大師そのものとして扱われることからも、「同行二人」という言葉は巡礼の核心的理念を象徴しています。

この言葉を通じて、巡礼者は孤独ではなく、信仰の力によって常に導かれていることを実感するのです。

正解：1. 自由で寛容な心

解説：

空海が著した『十住心論』に代表される十住心思想は、人間の精神的な成長を十の段階に分けて体系的に示したものです。この思想は、さまざまな信仰や哲学、宗教的実践の段階を否定せず、それぞれに意味と価値を認めた上で、より高次の真理へと導くというものでした。

このような思想は、他者の信仰や生き方を否定せず、包み込む「自由で寛容な心」を育てるものです。空海は、一人ひとりの精神のあり方が異なることを前提に、それぞれの心の段階に応じた教えが必要であると考え、すべての宗教的実践を段階的に位置づけました。その最終段階には、密教的悟りである「即身成仏」を置きつつも、他の段階を軽視することはありませんでした。

この多様性の尊重と共感的な理解に根ざした空海の教えは、現代においても宗教的・文化的寛容さや、他者の立場を尊重する精神の源泉となっています。曼荼羅の世界観がすべての存在を肯定的に捉えるのと同様に、十住心思想も人類の心に多様性を認め合う自由で寛容な態度をもたらしているのです。