空海のことがよくわかる！クイズ八十八問（その３）

東寺（Wikipedia)

正解：4. 東寺

解説：

弘仁14年（823年）、嵯峨天皇の勅命により、空海は京都の東寺（教王護国寺）を賜り、ここを真言密教の根本道場としました。東寺はもともと国家鎮護の官寺として平安京の東方に建立された寺院ですが、空海の手に渡ってからは、密教の実践と教義の発信拠点として重要な役割を果たすようになります。

空海は東寺において、曼荼羅を中心とする密教の宇宙観を視覚化した講堂を設計し、立体曼荼羅として21体の仏像を安置しました。これにより、東寺は単なる寺院にとどまらず、視覚と儀礼を通じて密教の世界観を体感できる場となりました。以後、東寺は真言宗の教学と修行の中心となり、今日に至るまで弘法大師空海ゆかりの聖地として多くの参詣者を集めています。

正解：2. 仏教

解説：

『三教指帰（さんごうしいき）』は、空海が24歳の頃に著したとされる思想的な対話形式の書物で、儒教・道教・仏教という三つの教えを比較し、それぞれの価値や限界について論じたものです。この作品では、擬人化された三教の信奉者たちが登場し、対話を通じて議論を展開していきます。

空海は儒教を「現世の秩序を保つ教え」、道教を「不老長寿を追い求める教え」とし、それぞれに一定の意義を認めつつも、人間の根本的な苦悩や死の問題に対する抜本的な解決には至らないと批判します。それに対して仏教は、生死を超えた真理を悟り、永遠の安らぎに至る道を示す教えであり、人間存在の根本的な問いに応える最も優れた教えであると評価しています。

この著作は、空海がいかにして仏教に帰依し、後に真言密教の道を歩むようになったのか、その思想的な出発点を示す重要な作品です。また、若き日の空海がすでに高い論理的思考力と文学的表現力を備えていたことを物語っています。

正解：2. 青年時代の空海が出家して仏道に入る決意を述べたもの

解説：

『三教指帰（さんごうしいき）』は、空海がまだ青年であった頃に著した、出家の動機と仏道への志を示す思想的な書物です。題名にある「三教」とは、儒教・道教・仏教の三つの教えを指し、空海はこの書の中で三教を比較検討し、最終的に仏教こそが真理に至る道であると論じています。

この書は対話形式で構成されており、主人公である「仮名乞児（けみょうこつじ）」が儒教・道教・仏教の代表者たちと議論を交わすことで、仏教の優位性を浮き彫りにしていきます。そして仮名乞児は最後に仏道へ進む決意を表明します。これはすなわち、若き日の空海自身の内面的な葛藤と、出家への覚悟を表現したものと考えられています。

『三教指帰』は空海の文学的才能や宗教的情熱を示す初期の代表作であり、真言宗における重要な思想的出発点となっています。

正解：1. 身密・口密・意密

解説：

密教の「三密（さんみつ）」とは、「身密（しんみつ）」「口密（くみつ）」「意密（いみつ）」の三つを指し、これは密教修行における根本的な実践要素です。それぞれは人間の行為の三つの側面を表しています。

「身密」は身体の行為で、印（手で結ぶシンボル的な形＝印契）を結ぶことを意味します。「口密」は言葉の行為で、真言（マントラ）を唱えることを指します。そして「意密」は心の行為で、仏や曼荼羅の諸尊を観想することを意味します。

この三密を仏の「身・口・意」と一体化させることにより、修行者自身が仏と一体となり、即身成仏（この身このままで仏になる）を実現することが密教の教えの核心です。すなわち、三密は密教における実践と悟りの基盤であり、空海が伝えた真言密教の根本的な教義でもあります。

空海の「真言」では、大日如来を象徴とする宇宙の根源から発せられた人間の声すべてのこの世界の音を理解し、体得し、それと同一になることで、自分だけではなく、すべての衆生の救済を目的としていました。すなわち「情報としての言語」ではなく、「叡智としての言語」としての「真言」を語ろうとしており、「言語」を正確に発音し、正しく理解することが必要とされたのです。

**正解：2. 顕教は密教と何が違うのかを明らかにしたもの**

**解説：**

『弁顕密二教論（べんけんみつにきょうろん）』は、空海が唐からの帰国後に著した密教の理論書で、仏教の教えを「顕教（けんぎょう）」と「密教（みっきょう）」に分類し、それぞれの違いや特質を明らかにしたものです。

空海はこの書の中で、顕教とは釈迦が人々に対して言葉で説いた教えであるのに対し、密教は大日如来が説いた究極の教えであり、言葉や文字だけでは伝えられない「秘密の教え」であるとしています。密教では、仏の本質そのものに触れられる方法が存在し、それは曼荼羅、真言、印契、観想などを用いて修行者が仏と一体になることを目指す点にあります。

空海は『弁顕密二教論』を通じて、密教の優位性と独自性を論理的に展開し、日本における密教の理論的基盤を築きました。この書は真言宗の教義を理解するうえで極めて重要な文献とされています。

正解：3. 人は生きたまま仏になれるという密教の教えを説いたもの

解説：

『即身成仏義（そくしんじょうぶつぎ）』は、空海が唐から帰国した後に著した密教の根本思想を明確に説いた重要な著作です。この書物では、「即身成仏」、すなわち人間が現世において、この身のままで仏に成ることが可能であるという真言密教の核心的教義が論じられています。

空海は、宇宙の真理そのものである大日如来と、修行者の「身・口・意」が三密の修行を通じて一致することによって、修行者は現世の身体のまま仏の境地に至ることができると説きました。これは顕教における「死後に仏果を得る」という考え方とは大きく異なり、密教の革新性と即効性を象徴する教義です。

『即身成仏義』は、真言宗の哲学と修行の核心を明らかにした書であり、密教の思想的基盤を支える重要な文献と位置づけられています。

正解：1. 真言および法身説法の本質（空海の言語観）を明かすもの

解説：

『声字実相義（しょうじじっそうぎ）』は、空海が密教における言語観・文字観を深く論じた重要な著作であり、特に「真言（しんごん）」の意義と、「言葉（声）」や「文字（字）」がそのまま仏の真理を表すという思想を展開しています。

この書において空海は、「声」と「字」、すなわち発せられる音や記された文字が、単なる象徴や記号ではなく、それ自体が仏の実在（実相）を体現していると説いています。これは、密教特有の「法身説法（ほっしんせっぽう）」の教義に基づいたものであり、大日如来が言葉によらず存在そのもので真理を説いているという考え方です。

この思想によって、真言（マントラ）は単なる呪文ではなく、仏の身体・言葉・心を直接体現し、修行者がそれを唱えることによって仏と一体となることが可能であるとされます。『声字実相義』は空海の高度な言語哲学を示す書として、思想・宗教・言語の各分野からも注目されています。

正解：1. サンスクリット語の最終の字、吽の宇義について説明したもの

解説：

『時宇義釈（じうぎしゃく）』は、空海が密教の根本となる言語哲学の一端として、特にサンスクリット語の最終音節である「吽（うん）」の「宇（う）」の字義について詳細に解説した書物です。

「吽」は、真言（マントラ）の結びにしばしば登場する重要な音であり、密教では極めて神聖な意味を持っています。空海はこの「吽」の構成要素に注目し、とくに「宇」の音が持つ象徴的・形而上的意味を掘り下げることで、密教における言語の根源性や大日如来の働きとの関連を明らかにしています。

この書は、単に一音節を解説するものにとどまらず、言語・音・宇宙観が一体となる密教思想の深奥を示す重要な文献です。『時宇義釈』を通して、空海は一音一音に宇宙的真理が宿るという密教の言語観を明らかにしています。

正解：1. 「般若心経」を密教の視点から解釈した書物

解説：

『般若心経秘鍵（はんにゃしんぎょうひけん）』は、空海が著したとされる注釈書で、『般若心経』を密教の視点から再解釈した書物です。通常、『般若心経』は大乗仏教の「空」の思想を説いた経典として広く知られていますが、空海はその表層的な理解にとどまらず、その中に隠された密教的真義を読み取ろうとしました。

空海はこの書の中で、『般若心経』が単なる顕教的な教えではなく、大日如来による「法身説法」であり、仏の本質を直接示す密教的な経典であると説いています。とくに、「真言（マントラ）」の部分に注目し、言葉そのものに仏の働きが宿っているという密教独自の言語観を展開しています。

また、「色即是空」などの般若思想を、否定や無ではなく、むしろ仏の智慧の顕現ととらえることで、密教的な実践と結びつけて再解釈しています。このように、『般若心経秘鍵』は、密教と般若思想を架橋する重要な著作として、真言宗の教学において大きな意味を持つ書物です。

正解：3. 密教の悟りに至るまでの人間の精神的成長を十段階に分けて描いたもの

解説：

『十住心論（じゅうじゅうしんろん）』は、空海が著した密教哲学の根本を成す大著で、人間の精神的・宗教的成長の段階を十の「住心（じゅうしん）」として体系的に示したものです。この書では、凡夫の無明の状態から始まり、徐々に仏教の各宗派の教えを経て、最終的に真言密教の悟り＝即身成仏の境地に至るまでの過程が論じられています。

それぞれの「住心」は、儒教や外道、小乗仏教、大乗仏教、華厳宗、法華経などの思想を順に取り上げながら、人間の内的な成長を表現しています。そして第十段階「秘密荘厳心（ひみつそうごんしん）」において、密教の教えこそが究極であり、すべての教えを包含・統合するものであると説かれています。

この『十住心論』のエッセンスを簡潔にまとめた書が『秘蔵宝鑰（ひぞうほうやく）』であり、仏教の全体像と密教の位置づけを明快に理解するための解説書としても高く評価されています。空海の宗教思想を知る上で不可欠な書物です。