空海のことがよくわかる！クイズ八十八問（その２）

正解：3. 天台の付法と菩薩の三聚浄戒を受け、天台教学を修得した。

解説：

804年、最澄（伝教大師）は空海とともに遣唐使船で唐に渡りました。最澄の主な目的は、当時中国で隆盛を極めていた天台宗の教義を直接学ぶことでした。彼は天台山国清寺にて天台宗第七祖である道邃（どうずい）や行満（ぎょうまん）らのもとで教義を学び、「天台の付法」と呼ばれる法系の伝承を正式に受け継ぎました。また、出家者として菩薩が守るべき三つの戒律、「三聚浄戒（さんじゅじょうかい）」も授けられました。これにより最澄は、帰国後に日本で天台宗を体系化し、比叡山延暦寺を中心とした教団形成を進める基盤を築いたのです。彼のもたらした天台教学は、後の日本仏教の発展、とりわけ浄土宗や法華宗、禅宗などに大きな影響を与えることになりました。

正解：3. 最澄の弟子・泰範が空海の元から戻らなかったから

解説：

最澄は、天台宗の体系を完成させるために密教をも取り入れようと考え、帰国後に真言密教を修得していた空海に接近しました。空海は最澄の求めに応じて、一時期彼に密教の教義や儀式を伝授しました。その過程で、最澄は自身の弟子・泰範（たいはん）を空海のもとに弟子入りさせました。

ところが泰範は、空海の教えに深く心酔し、空海の元から最澄のもとに戻ることを拒んだのです。この出来事は、最澄にとって大きな失望であり、以後、両者の間に徐々に距離が生まれました。さらに、密教の奥義（灌頂）を得るためには長期間の修行と空海の承認が必要であったため、最澄は空海の慎重な姿勢に不満を抱くようになりました。

このような経緯から、最澄と空海は思想的にも距離を置くようになり、やがて疎遠となっていきました。この出来事は、密教の導入と独自の宗派形成を目指した平安初期の仏教界において重要な転機となったのです。

嵯峨天皇像 (Wikipedia)

正解：4. 嵯峨天皇

解説：

嵯峨天皇は、空海が唐から帰国した後、その才能と人柄に注目し、深く庇護した人物です。空海は、密教の正統な伝承者として「伝法阿闍梨位（でんぽうあじゃりい）」を受け、朝廷からも高く評価されました。特に嵯峨天皇は、空海に対して高野山を下賜するという大きな恩恵を与えました。高野山は、空海が真言密教の道場として開いた地であり、後に金剛峯寺を中心とする真言宗の総本山となります。嵯峨天皇の支援により、空海は国家公認の宗教家として活動の幅を広げ、真言宗の教義と教団の確立に尽力することができたのです。

正解：2. 八葉の峰々に囲まれた盆地状の平地

解説：

高野山は和歌山県北部の標高約800メートルに位置する山上の宗教都市で、その地形は「八葉の峰々に囲まれた盆地状の平地」であることが特徴です。「八葉」とは、仏教における蓮華の八枚の花弁を意味し、高野山の周囲を取り囲む8つの山々が蓮の花びらのように配置されていることからこのように呼ばれています。

この特異な地形は、密教における宇宙観と深く結びついており、中心に位置する壇上伽藍は曼荼羅の中心、すなわち大日如来を象徴する場所とされています。空海（弘法大師）はこの神秘的で閉ざされた空間に、密教の修行道場としての理想的な場を見出し、ここに真言密教の根本道場を開きました。高野山は今日に至るまで、真言宗の総本山として信仰と修行の聖地となっています。

正解：3. 高野山全域が寺の境内地（金剛峯寺）となっていること

解説：

「一山境内地（いっさんけいだいち）」とは、山全体がひとつの寺院の境内として扱われる特別な形態を指します。高野山では、全体を総本山金剛峯寺の境内地とみなしており、これが「一山境内地」という言葉の意味です。つまり、山内に点在する堂塔伽藍や子院（塔頭）はすべて、金剛峯寺の一部として機能しているのです。

この制度は、高野山が空海によって開かれた密教の聖地であるという特別な宗教的意味と、独自の歴史的背景に基づいて成立しています。山内に117もの寺院が存在しつつも、それぞれが独立した存在ではなく、あくまで金剛峯寺という大伽藍の中の構成要素とされている点に大きな特色があります。このような形は日本でも極めて珍しく、高野山ならではの宗教都市としての性格を色濃く表しています。

正解：3. 覚り（さとり）への道が開けるから

解説：

空海が高野山に籠って瞑想やヨガ行（瑜伽行）に励んだのは、仏教における究極の目標である「覚り（さとり）」に至る道を求めるためです。真言密教においては、単なる知識の習得だけでなく、身体と心を用いた厳しい修行によってこそ、如来の智慧と一体化することが可能になるとされています。

特に高野山のような静寂で神聖な環境は、外界の雑念を離れ、内面に深く向き合うのに理想的な場所であり、空海にとっては密教の教義を体得し、仏と一体となる「即身成仏」を実現するための場でした。高野山を選んだ理由の一つも、このような霊的修行に最適な地であったからです。

また、空海は都市での教学・布教活動と山での修行生活を両立させることで、理論と実践の両面から密教を深め、弟子たちにもそれを伝えることを重視していました。このような姿勢は、彼の宗教者としての真剣さと、密教における実践重視の精神をよく表しています。

高野山で修行する空海（ChatGPTで作成）

正解：3. 自分自身の体のままで仏になれるという考え方

解説：

「即身成仏（そくしんじょうぶつ）」とは、空海が説いた真言密教の根本教義のひとつで、「この身このままで仏になれる」という思想です。従来の仏教では、悟りを得て仏になるには数えきれないほどの修行や生まれ変わり（輪廻）を経る必要があるとされてきました。しかし、空海は密教の教えに基づき、生きたままの身体（即身）で、仏の智慧と一体となることが可能であると説いたのです。

この考え方の背景には、大日如来が万物に遍満しているという密教の世界観があります。すなわち、修行を通じて心と体を浄め、言葉（真言）、行い（印契）、心（観想）を整えることで、大日如来と同じ智慧の境地に至ることができるとされます。これは、修行の成果を現世で即時に実現できるという意味で、他の仏教宗派とは一線を画す革新的な教えでした。

「即身成仏」は、空海が開いた高野山をはじめ、真言宗の教義の核心として今なお重要視されています。

空海の即身成仏思想は、『即身義』という書に展開されています（松長有慶著『空海』岩波新書より）。

正解：2. 重重帝網

解説：

「重重帝網（じゅうじゅうたいもう）」とは、華厳経において説かれる世界観で、宇宙のあらゆる存在が互いに関係し合い、ひとつひとつの存在の中に全体が映し出されているという思想です。この概念は、インドラの網（帝網）の比喩で説明されます。帝釈天の宮殿に張り巡らされた無数の網の結び目には、それぞれ宝珠がはめ込まれており、その一つ一つの宝珠の中に他のすべての宝珠が映り込んでいるというイメージです。

この考え方は、真言密教の曼荼羅観にも深く通じています。曼荼羅においては、中央の大日如来を中心に多くの諸尊が配置されますが、それぞれの尊格は大日如来の智慧や慈悲の側面を表現したものであり、個々の尊格の中にも全体（大日如来）の本質が内在しています。つまり、曼荼羅とは重重帝網の構造を視覚化したものとも言えるのです。

空海は、この華厳的な全体と個の相即的関係を深く理解し、自らの密教思想の体系にも取り入れました。したがって、「重重帝網」は、空海の宇宙観を理解するうえでも重要なキーワードとなります。

正解：3. 仏の悟りの境地を、わかりやすく絵画で表現したもの

解説：

曼荼羅（まんだら）とは、サンスクリット語の「マンダラ（maṇḍala）」を音写した言葉で、「円」や「集まり」といった意味を持ちます。空海が唐の長安で師・恵果阿闍梨から受け継ぎ、持ち帰った曼荼羅は、仏教とくに密教において、仏の悟りの境地や宇宙の真理を視覚的に表現した図像です。

曼荼羅は、中心に大日如来を据え、周囲に多くの諸仏や菩薩、明王などが体系的に配置されています。これは、それぞれの尊格がどのように仏の智慧や慈悲を具体的に体現しているかを示すもので、観る者に密教の世界観や修行の段階を直観的に伝える役割を果たします。

とくに有名なのは「胎蔵界曼荼羅」と「金剛界曼荼羅」で、この二つを並べた「両界曼荼羅」は、真言密教における宇宙観と仏の境地を示す中心的な図像です。空海はこれらを使って教えを伝え、弟子の指導や儀礼に活用しました。曼荼羅は絵画であると同時に、仏教哲理を凝縮した「視覚の経典」とも言える存在です。

胎蔵曼荼羅 Wikipediaより

正解：3. 恵果阿閣梨が第七祖、空海が第八祖

解説：

真言密教においては、釈迦如来の代わりに、宇宙の根源的真理を体現する仏である「大日如来（だいにちにょらい）」が第一祖（初祖）とされています。密教の教えは、大日如来から直接に伝えられたとされ、その教義は師資相承（ししそうじょう）と呼ばれる師から弟子への厳密な伝授によって継承されてきました。

この密教の系譜は、中国においても受け継がれ、第七祖にあたるのが中国唐代の高僧・恵果阿閣梨（けいか あかり）です。彼は密教の諸流派を統合し、曼荼羅や儀軌の体系化を進めた偉大な指導者でした。そして、日本から唐に留学してきた空海に、密教の奥義を短期間で授けたことで知られています。

空海は、恵果から正式に伝法灌頂（でんぽうかんじょう）を受けた唯一の日本人であり、その正統な後継者と認められました。このため、空海は第八祖として真言密教の正系に位置づけられ、日本における密教の開祖となったのです。

この系譜は真言宗において非常に重視されており、空海が日本にもたらした密教は「東密（とうみつ）」と呼ばれ、師から弟子へと厳格に継承され続けています。

参考文献：

松長有慶著『空海』2022年 岩波新書
長澤弘隆著『空海ノート』2009年 ノンブル社
竹村牧男著『新・空海論』2023年 青土社
岳真也著『此処にいる空海』 2015年 牧野出版
三田誠広著『謎の空海』2007年 河出書房新社
三田誠広著『空海』2005年 作品社
司馬遼太郎著『空海の風景』中公文庫
佐伯泉澄著『空海百話』1984年 東方出版
静慈圓著『弘法大師空海の金言をひらく』2009年 セルバ出版