正解: 2. 正常化の偏見
解説:
認知バイアスは全部で150種類以上ありますが、そのうち最も早く見つかったのが「正常化の偏見」(正常性バイアス)です。これは、私たちが非常な状況や異常な行動を見た時に、それを正常なものだと思い込む傾向のことを指します。これは危険な状況に対するアラート感を鈍らせ、適切な対応を遅らせる可能性があります。
正常化の偏見が発見されたのは、第二次大戦後のアメリカです。災害に関するフィールド調査において、災害の脅成に対する認知が、解釈者自身のもつ先有傾向、デモグラフィック特性の違い、解釈者のおかれている社会・心理的背景などによってさまざまなバイアスを受けることが明らかにされました。これは、大戦中の警報に対する人々の反応に関する研究がそのきっかけとなっていますが、戦後も災害社会学の領域においてフィールド研究が継続され、1950年代には、「正常化の偏見(normalcy bias)」(正常性のバイアス)の発見につながります。これは、環境からインプットされる情報を日常生活の判断枠組の中で解釈しようとし、危険が迫っているという事実を認めようとしない態度のことをいいます(Fritz, 1961)。そのため、たとえ情報確認が行なわれても、危険のサインを逆に日常的な出来事の一部として解釈しつづけるために、脅威を正しく認知できないことがしばしばあります。たとえば1952年3月21日、アーカンソー州ホワイト郡で竜巻が起こり、約50名の死者を出したとき、多くの人びとは、激しいつむじ風の音を聞いて、それがすぐ近くを走る汽車の音だろう、と日常性の判断枠組の中で解釈し、竜巻の脅威を認知できませんでした(Fritz, 1958)。
監修者が日本に持ち帰ったこれらの研究成果は、災害警報を人々が受け取る時に生じる「正常化の偏見」という認知バイアスが、危険の認知を低下させ、避難行動を遅らせてしまうというネガティブな影響を引き起こすことを明らかにした点で、その後の防災対策のあり方にも大きな影響をもたらしました。
参考文献:
Fritz, Charles E. (1958) , Disasters Compared in Six American Communities, Human Organization, 16, pp.6-9.
Fritz, Charles E. (1961), Disaster, in Robert K. Merton & R.A. Nisbet (eds.), Contemporary Social Problems, pp.651-694.
三上俊治 著「 災害警報の社会過程.」東京大学新聞研究所編『災害と人間行動』所収 1982 東京大学出版会
中村功著『災害情報と避難 : その理論と実際 』 2021 晃洋書房