夏目漱石がよくわかる！クイズ10問

夏目漱石誕生乃地碑（Wikipediaより）

正解: 4. 江戸牛込馬場下

解説: 夏目金之助（のちの漱石）は1867年に江戸の牛込馬場下横町（現在の東京都新宿区喜久井町1番地）で生まれました。金之助の生まれた日は庚申にあたり、しかも申の刻でした。当時、申の日の申の刻に生まれたものはたいへん出世するか、「さもなければ大泥棒になるという言い伝えがあり、その難を避けるには名前に「金」の用いれば良いという迷信があったため、「金之助」と命名されたと言われます。漱石はここで幼少期を過ごし、後に日本の文豪として名を馳せることになります。

正解: 1. 正岡子規の編集した文集に書いた巻末批評で使ったこと

解説: 漱石は本名を夏目金之助といいましたが、号を使い始めたきっかけは正岡子規の編集した文集に書いた巻末批評で使ったことです。子規は漱石の文才に感銘を受け、彼の才能を高く評価しました。『七草集』の批評の終わりに「明治己丑五月念五日辱知漱石妄批」と書いています。また、1889年（明治22年）には、『木屑録』の表紙に、「漱石頑夫」と号名を明記しています。漱石はその後、号としての「漱石」を使用するようになり、この名前で文学界での活動を続けました。

参考文献：

小宮豊隆著『夏目漱石』（1935 岩波書店）

松山の「坊っちゃん列車」

正解: 4. 愛媛県尋常中学校（旧制松山中学）

解説: 1896年に高等師範学校の英語教師を辞めた後、夏目漱石は愛媛県尋常中学校（旧制松山中学）に就職しました。この転職は、漱石が東京で神経衰弱を患ったことが一つの木かけでした。漱石は松山で親友の正岡子規とともに俳句に精進し、数々の佳作を残しました。また、松山での教員生活は、名作『坊ちゃん』に描かれることになりました。

坊っちゃんとマドンナの像

正解: 3. 数学の教師

解説: 小説『坊っちゃん』では、主人公の坊っちゃんが松山中学で数学の教師として働きます。坊っちゃんは学生たちとの関わりや授業の中で様々な出来事を経験し、成長していく様子が描かれています。

小説の中で、坊っちゃんは蕎麦屋で天麩羅を4杯食べ、団子を2皿食べたことを生徒にからかわれました。また、初めての宿直の夜には寄宿生からひどい嫌がらせを受け、坊っちゃんは生徒の処分を求めました。しかし、赤シャツや他の教員たちは事なかれ主義を取り、坊っちゃんに責任を転嫁しようとしました。この時、山嵐という教員が筋を通す処分を主張しました。最終的には、生徒たちは坊っちゃんに謝罪し、厳しい処分を受けることになりましたが、坊っちゃん自身も宿直当日に無断で外出し、外食店への出入り禁止を受けました。

やがて坊っちゃんは、赤シャツがうらなりの婚約者であるマドンナへの横恋慕からうらなりを左遷したことを知り、義憤にかられます。このことで坊っちゃんと山嵐は過去の諍いを水に流し意気投合。彼らを懲らしめるための策を練りますが、赤シャツの陰謀によって山嵐が辞職に追い込まれてしまいます。坊っちゃんと山嵐は、赤シャツの不祥事を暴くための監視を始め、ついに夜明けに芸者遊び帰りの赤シャツと腰巾着の野だいこを取り押さえます。当初の予定通り、芸者遊びについて山嵐と共に詰問し、しらを切る彼らに天誅を加えました。

正解: 1. 吾輩は猫である

解説: 夏目漱石の処女作として知られる小説は「吾輩は猫である」です。この小説は1905年に発表され、漱石の文学的な才能を世に知らしめました。物語は猫の視点から描かれ、人間社会や人間の欲望について風刺的な視点を持っています。

物語は、主人公である猫の吾輩が、飼い主である主人の家庭や人間の世界について綴る形で進行します。吾輩は自身の観察や経験を通じて、人間の欲望や虚栄心、道徳観念などを風刺的に描き出します。この作品は、漱石の独特な文体や思索的な要素が詰まった作品として高く評価されています。

「吾輩は猫である」は漱石の文学的なキャリアのスタートを飾った作品であり、日本の文学史においても重要な位置を占めています。

正解: 1. 理知だけで割り切っていると他人と衝突するし、他人の感情を気遣っていると自分の足をすくわれる

解説: この有名な一節は、夏目漱石の小説『草枕』の冒頭に登場します。この一節の意味は、理知だけに頼っていると他人と対立することがあり、感情に流されると自分自身をコントロールできなくなるということを表しています。人間は理性と感情の両方を持っており、バランスを保つことが重要です。理知を働かせることで冷静な判断ができますが、感情を無視すると他人との関係が悪化する可能性があります。一方、感情に流されると冷静な判断ができなくなり、自分自身を害することがあります。人の世が住みにくい実態を知･情･意によって三種に分けて述べたうえで、住みにくい所を住みよくするためにこそ、詩や画の存在理由がある、というのが漱石の言わんとするところです。

Stray Sheep

正解: 2. stray sheep

解説: 夏目漱石の小説『三四郎』の中で、美禰子に失恋した主人公の三四郎は、展覧会で原口の絵『森の女』を見て「stray sheep」とつぶやきます。この言葉は、三四郎の心情や現状を表現しています。

「stray sheep」は直訳すると「迷子の羊」となりますが、この言葉は一般的には「迷える者」という意味合いで使用されます。三四郎は美禰子との別れによって心が迷っており、自分自身を迷子のように感じているのです。また、この言葉は漱石の作品の中でも広く知られており、三四郎の内面の葛藤や苦悩を象徴する言葉として重要な役割を果たしています。

「森の女」は原口文子という画家が描いた絵画であり、物語の中で三四郎が感銘を受ける一幕となっています。この絵画は自然の中に佇む女性を描いており、その美しさと神秘性が三四郎の心を揺さぶります。絵画と言葉の組み合わせが物語のテーマや三四郎の心情を深く表現しており、漱石の巧みな筆致が感じられます。

乃木大将夫妻の銅像

正解: 1. 乃木大将の殉死

解説: 夏目漱石の小説『こゝろ』の中で、先生が自殺の決心をした直接のきっかけは、乃木大将の殉死です。物語の中で、先生は乃木大将の死に触発され、自らも死を選ぶ道を選びます。

乃木大将は、西南戦争の時敵に旗を奪られて以来、申し訳のために死のう死のうと思って、つい今日まで生きていたという意味の遺書を残していました。先生は、お嬢さんをめぐる三角関係の結果、友人のKを自殺に追い込んでしまった自分もまた罪の意識を引きずりながら、乃木大将と同じように死ぬに死ねないで生きながらえていたことを知り、明治天皇の崩御を機に、乃木大将と同じように「明治の精神に殉死」することを選んだのでした。

この場面では、漱石が人間の内面の葛藤や倫理的な問題を探求しており、「こゝろ」（精神）の罪を犯した人間の苦悩と絶望を描き出しています。『こゝろ』は漱石の代表作の一つであり、彼の深い思索と文学的な才能が凝縮された作品とされています。

参考文献：
平川祐弘。鶴田欣也編『漱石の「こゝろ」どう読むか、どう読まれてきたか』（1992年 新曜社)
※ 本クイズの「解説」を書くにあたっては、上記書籍を参考にしていますが、あくまで「クイズいろいろ」編集部および監修者の独自解釈によるものです。

正解: 3. 天にのっとって私心を捨てること

解説: 「則天去私」とは、夏目漱石が晩年に到達した境地を表す言葉であり、天に則して私心を捨てることを意味します。漱石はこの境地に至るまで、自己のエゴイズムと闘い続けました。彼は自己中心的な欲望や世俗の執着から解放され、より高い精神的な高みに到達することを目指しました。この境地は、個人の欲望や私利私欲にとらわれず、より大きな善を追求することを意味します。

漱石は自身の小説や評論を通じて、この境地について模索し、その哲学や思索を読者と共有しました。彼の晩年の作品は、則天去私の理念を反映しており、読者に深い洞察と啓示をもたらしました。

『明暗』原稿の一部（Wikipediaより）

正解: 3. 明暗

解説: 夏目漱石の最後の長編小説は「明暗」です。この作品は未完に終わりましたが、漱石の代表作の一つとされています。

「明暗」は、明治時代の日本社会を舞台に、主人公の相沢真太郎の成長と苦悩を描いた作品です。真太郎は貧しい家庭で育ちながらも、努力と学習によって進学し、東京帝国大学に入学します。しかし、そこでの学生生活や社会との関わりの中で、彼はさまざまな困難や苦悩に直面します。

「明暗」は、漱石の鋭い社会批判や人間の内面の葛藤を描いた作品として知られています。漱石自身もこの作品の執筆中に病に倒れ、未完に終わったため、その結末や展開は明確にされていません。しかし、真太郎の人生の明るさと暗闇、希望と絶望が対比され、読者に深い感銘を与える作品となっています。

漱石の死後、彼の妻である浜岡禮子が未完の原稿を整理し、出版されました。その後も、「明暗」は多くの読者に読み継がれ、漱石の文学的な遺産として評価されています。

参考文献：

小宮豊隆著『夏目漱石（上）（中）（下）』（1938 岩波文庫）
漱石文学研究会編『エンサイクロペディア夏目漱石』（2016 洋泉社）
三好行雄編『夏目漱石事典』（1992 學燈社）
土居健郎「漱石の心的世界」（1994 弘文堂）
平川 祐弘 , 鶴田 欣也 (編集)『漱石の「こゝろ」―どう読むか、どう読まれてきたか』 （1992　新曜社）