ルソーのことがよくわかる！クイズ10問

ヴァランス夫人像 (Wikipedia)

正解：3. ヴァランス夫人
解説：
ジャン＝ジャック・ルソーは15歳のとき、家庭を離れて放浪の旅に出ました。その旅の中で出会ったのが、ヴァランス夫人（フランソワーズ＝ルイーズ・ド・ヴァランス）です。彼女は教養と気品を備えた年上の女性で、ルソーに母性と恋愛の両面で深い影響を与えました。ルソーの回想録『告白』では、彼女との出会いが自身の人格形成や思想に決定的な影響を与えたと語られており、「第二の母」とも称しています。ヴァランス夫人との関係は、ルソーの感受性や自然への愛、そしてのちの教育思想にもつながっていく重要な出来事でした。

ルソーは『告白』の中で、ヴァランス夫人と出会った瞬間に落ちた運命的な恋について、次のように回想しています。

正解：2. 尿閉症
解説：
ジャン＝ジャック・ルソーは、生涯にわたって尿閉症という排尿困難の病に悩まされていました。尿閉症は泌尿器系の障害で、尿が正常に排出されず、排尿時に強い苦痛を伴います。この病気はルソーの身体的な不快だけでなく、精神的にも大きなストレスとなり、彼の孤独癖や被害妄想、他者との軋轢にも影響を与えたと考えられています。彼の著作『告白』や『孤独な散歩者の夢想』にも、健康への不安や医療への不信が繰り返し語られており、彼の思想形成にも少なからず影響を与えた側面がうかがえます。

正解：3
解説：
ルソーは1749年、ディジョン・アカデミーの懸賞論文「学問と芸術の復興は習俗を純化するのに貢献したか」に応募し、翌年『学問芸術論（Discours sur les sciences et les arts）』として発表されました。この論文において彼は、近代における学問や芸術の発展は表面的な洗練をもたらす一方で、人間本来の純朴な徳性を腐敗させ、社会の風俗を堕落させていると主張しました。彼は文明の進歩が虚栄心や不平等を助長し、人間性を損なっていると考えました。この逆説的な主張は当時大きな反響を呼び、彼に思想家としての名声をもたらすきっかけとなりました。ルソーの思想の核には、自然状態への回帰と人間本来の善性への信頼があります。この論文はその出発点をなす重要な作品です。

正解：4. 育児を放棄し、孤児院に送った

解説：

ジャン＝ジャック・ルソーは、長年の同棲相手であったテレーズ・ルヴァッシュールとの間に5人の子供をもうけましたが、すべての子供を生後まもなくパリの「捨子養育院（孤児院）」に送ってしまいました。彼自身、『告白』の中でこの行動を正直に記しており、その理由として、貧困や子供に教育を与える余裕がないこと、また「国家の教育制度」に頼るほうが子供のためだと信じていたことなどを挙げています。

ルソーはのちに、教育論『エミール』を出版しましたが、その執筆動機の一つは、自分の子供を捨てたことへの贖罪の意味があったとも言われています。

しかし、教育論『エミール』で「親の愛と家庭教育の重要性」を説いたにもかかわらず、自身の子供を捨てたことは、生涯にわたって激しい批判の対象となりました。この矛盾は、ルソーの人物像の複雑さを象徴する出来事の一つです。

正解：2. 村の占い師
解説：
ジャン＝ジャック・ルソーは哲学者や思想家として知られていますが、実は音楽家としても活動しており、作曲にも意欲的でした。1752年にパリで発表されたオペラ《村の占い師（Le Devin du village）》は、彼が作曲・台本を手がけた作品で、当時のフランス宮廷や市民に非常に高く評価され、大成功を収めました。この作品は素朴で感情的な音楽と、愛と誠実を主題とした物語によって、オペラ・コミックの形式に新風を吹き込んだとされています。ルイ15世もこのオペラを気に入り、王宮でも上演されました。《村の占い師》の成功は、ルソーの名声をさらに高め、彼が音楽理論や芸術に関する論争に加わるきっかけともなりました。

正解：
3. 自己愛とあわれみ
解説：
ジャン＝ジャック・ルソーは『人間不平等起源論』において、文明以前の「自然状態」に生きる人間、すなわち自然人は、本来的に「自己愛（amour de soi）」と「あわれみ（pitié）」という二つの感情に基づいて行動すると主張しました。
「自己愛」とは、自分自身の生命や安全を保とうとする本能的欲求のことであり、生物的生存に直結しています。一方、「あわれみ」とは、他者の苦しみに対して自然に生じる共感の感情であり、他者を傷つけまいとする道徳的感受性の原初的な形です。
ルソーによれば、人間が文明社会に入る以前は、この二つの原理だけが彼らの行動を導いていたため、戦争や支配、深刻な不平等などは存在せず、むしろ平和で平等な生活が営まれていたと考えられます。つまり、不平等や搾取といった社会的悪は、私有財産の発生と社会的契約の構築によって後天的に生じたものであると、ルソーは批判的に論じているのです。

正解：
3. つねに正しく公共の利益を目指す一般的な意志
解説：
ルソーの『社会契約論』における「一般意志（volonté générale）」とは、個々人の私的利益を超えて、社会全体の共通善・公共の利益を目指す意志のことです。この意志は、特定の個人や集団の利益ではなく、すべての市民に共通する利益を代表するものであるため、つねに正しく、つねに正義にかなうものとされます。
ルソーにとって、真の自由とは、自分の意志を他人に従わせることではなく、自らが立法に参加し、その「一般意志」に従うことにあります。したがって、一般意志は全人民による政治的主体性を保障する核心的な概念であり、専制的な統治や少数の特権に基づく意志（これを「全体意志（volonté de tous）」と呼びます）とは明確に区別されます。
このように、一般意志は単なる多数決ではなく、公共の善という理念に照らして導かれる理性的な意思決定の原理である点に、ルソー政治哲学の独自性があります。

正解：
4. 人間は自然本性的に善である
解説：
ルソーは教育小説『エミール』において、教育の出発点として「人間は本来、自然において善である」という思想を明確に打ち出しています。彼は「すべては造物主の手を出たときは善であり、人間の手に渡ると悪くなる」という有名な一節を冒頭に掲げ、文明や社会制度によって人間が堕落していくという批判的な見方を示しました。
つまり、ルソーにとって人間の本性は純真であり、教育とはその自然な善性を損なわずに育む手段であるべきだとされます。逆に、社会的な偏見や不自然な道徳規範が子どもの成長を歪める要因になると警鐘を鳴らしました。
この考え方は、彼の自然状態論や一般意志論とも深くつながっており、近代教育思想において「子どもの主体性を尊重する教育観」の源流の一つとなっています。

正解：
3. 社会制度
解説：
ジャン＝ジャック・ルソーは、人間は自然状態では善良であり、他者に対して憐れみや自己保存の本能に基づいて平穏に暮らしていたと考えました。しかし、文明が進み、私有財産が発生し、人間が互いに比較しあうようになると、嫉妬や虚栄、支配欲といった「悪」が生まれました。
このような悪の根本的な原因として、ルソーが強く批判したのが「社会制度」です。社会制度、特に不平等な財産制度や権力構造が、人間の本来の善性を歪め、道徳的堕落を引き起こすとされました。『人間不平等起源論』や『社会契約論』において、彼は人間社会のあり方そのものを問い直し、真に自由で平等な社会を構想しようと試みました。
この思想は、近代民主主義や教育思想、さらにはフランス革命にも大きな影響を与えたと評価されています。

正解：
3. 白水社から1978年から1984年にかけて刊行された
解説：
日本でもっとも新しい「ルソー全集」は、白水社から1978年から1984年にかけて全13巻で刊行されました。この全集は、ルソーの主要著作を網羅的に収録しており、邦訳としては最も信頼性の高いものの一つとされています。翻訳には小林善彦など当時の一流のフランス文学・思想研究者たちが携わっており、原文のニュアンスに忠実な訳文と詳細な解説が特徴です。
この全集には、『エミール』『社会契約論』『人間不平等起源論』『告白』『新エロイーズ』など、ルソーの代表作が収められており、学術的にも一般読者にも広く利用されています。以降、これに代わる全集は刊行されておらず、現在でも最も包括的なルソーの邦訳全集とされています。

参考文献：

ルソー著『ルソー全集　第１巻〜第13巻』（小林善彦他訳） 1978 - 1982 白水社
桑瀬章二郎編『ルソーを学ぶ人のために』 2010年　世界思想社
押村襄他著『ルソーとその時代』 1987年 玉川大学出版部
中里良二著『ルソー：人と思想』2015年 清水書院