大正期の大衆文化のことがよくわかる！クイズ10問

正解：3
解説
大正末期（1920年代前半〜半ば）には、都市部の民間企業で大卒新入社員の初任給がおおむね月額50〜60円程度とされます。第一次世界大戦後の好況とその反動不況を経て、銀行・商社・電力など近代的産業や事務職の拡大により「サラリーマン」層が形成され、学歴に応じた賃金体系が整い始めました。とくに大企業や金融・商社系では比較的高水準の初任給が提示され、中小企業や官庁はそれよりやや低めという傾向がみられます。
当時は物価変動が大きく、住居費や通勤費、被服費など都市生活のコストも無視できませんでしたが、50〜60円という水準は単身の下宿生活であれば慎ましく暮らせる程度と理解されています。加えて、年功的な昇給、季節手当（ボーナス）や諸手当が付く場合もあり、安定収入を背景に中産的な生活像が社会に広がりました。選択肢のうち「15〜20円」「30〜40円」は主として中等学卒や職種・企業規模によってみられる水準であり、「80〜100円」は当時の初任給としては高すぎます。以上の理由から、正解は「50〜60円」です。

キング 1巻1号 大正14年（1925年）1月、大日本雄弁会講談社。表紙絵は和田英作が担当 (Wikipedia)

正解：4
解説
『キング』は大日本雄弁会講談社が大衆向け総合雑誌として創刊し、娯楽小説・教養記事・グラビア・時事解説などを大量に収める“万人向け”編集で爆発的な人気を得ました。都市中間層の拡大、識字率の向上、書店網の整備と販売戦略の巧みさ（全国的な配本や宣伝）も追い風となり、日本の雑誌として初めて発行部数が100万部を超える規模に達しました。これは大正末〜昭和初期のマス・カルチャーの成立を象徴する出来事であり、以後の総合娯楽誌や週刊誌文化の発展に大きな影響を与えます。
なお、比較として挙げた『サンデー毎日』（1922年創刊）は週刊ニュース・娯楽誌で、『改造』は評論・総合雑誌として知識人向け色が強く、『主婦の友』（1916年創刊）は家庭・生活分野の実用性が特徴です。いずれも重要な雑誌ですが、日本出版史上で最初に“100万部の大台”を突破した大衆総合誌として知られるのは『キング』です。

正解：3
解説
1925年は、日本のマスメディア史において「ラジオ放送元年」と呼ばれる重要な転換点です。この年、東京放送局（コールサインJOAK、3月）、大阪放送局（JOBK、6月）、名古屋放送局（JOCK、7月）が相次いで本放送を開始し、ニュース・講演・音楽番組・天気予報などが一般家庭へ同時的に届けられるようになりました。これにより、活字中心だった情報伝達が「音のメディア」へと大きく広がり、都市から地方へと文化や情報が迅速に共有される基盤が整いました。
放送の普及は受信機の拡大と聴取契約制度の整備に支えられ、翌1926年には各放送局が統合されて日本放送協会（のちのNHK）が発足します。ラジオは廉価な鉱石ラジオから高性能受信機まで幅広く普及し、家庭内の時間割（正午の時報、定時ニュース）や娯楽の様式を変えただけでなく、教育・防災情報の提供など公共的役割も担いました。
選択肢のうち、テレビ放送は1953年に本放送が始まり、トーキー映画（有声映画）の本格普及は1930年代です。衛星放送はさらに後の時代の技術です。したがって、本問の正解は「ラジオ放送」です。

正解：2
解説
美濃部達吉の「天皇機関説」は、近代公法学に立脚して明治憲法下の主権を「国家そのもの」に存するものと捉え、天皇をその最高機関として統治権を行使する存在と位置づける学説です。国家を法人と考える「国家法人説」を採用し、統治作用は国家の各機関（天皇・帝国議会・内閣・裁判所など）が分担して担うと説明しました。これにより、無制限な天皇主権論に理論的制約を与え、立憲主義と議会主義の運用に合致する法理を提供した点が大きな意義です。
しかし1930年代半ばには、国体論を掲げる右派・国家主義勢力から「国体否定」との攻撃を受け、1935年のいわゆる「天皇機関説事件」によって美濃部の著作は発禁・削除の措置となり、本人も要職を辞するなど弾圧が強まりました。それでも、学説としては権力の法的統制や機関相互の役割分担を明確化する点で、近代的立憲秩序の理解に資する枠組みを示したと評価されています。
選択肢について補足します。上杉慎吉はむしろ天皇主権説を理論化した立場で、本問の趣旨と反対です。吉野作造の民本主義は政治思想上の原理であり、法学の主権論そのものではありません。穂積八束は家族国家的な国体論を展開し、天皇主権観に親和的でした。したがって、正解は「美濃部達吉の天皇機関説」です。

正解：4
解説
『善の研究』（1911年）は、西田幾多郎の処女作であり、日本近代哲学の出発点とされる画期的著作です。本書は「純粋経験」を基礎概念として、主観と客観が未分化の直接的経験において真の知が生起することを論じます。全体はおおむね「純粋経験」「実在」「善」「宗教」といった主題を段階的に扱い、経験の論理から価値・道徳、さらには宗教的自覚へと思索を深化させます。西田は近代西洋哲学（とくに新カント学派やジェイムズらの経験論）と東洋的思惟（禅的直観）を往還させ、二元論を超える統一的世界観を提示しました。本書はのちの京都学派形成に大きな影響を与え、日本の哲学的自己省察を世界水準へ押し上げたと評価されます。
選択肢について補足します。①『自覚に於ける直観と反省』は1917年の西田の著作で、本問の1911年の書物ではありません。②「純粋経験の哲学」は『善の研究』の核心概念を指す表現で、独立した書名ではありません。③『存在と時間』はハイデガーの著作（1927年）であり、西田の書物ではありません。以上より、正解は『善の研究』です。

正解：1
解説
野口英世（1876–1928）は、ロックフェラー医学研究所を拠点に細菌学・熱帯医学の研究を進め、特に黄熱病の研究で国際的に知られるようになりました。中南米や西アフリカなど現地でのフィールド調査を重ね、流行地域に赴いて感染経路や病原体に関する検討、血清学的診断の試み、ワクチン・血清療法の可能性探索などに取り組みました。その過程で自身も研究途上に黄熱に罹患し、1928年にガーナ（当時の英領ゴールドコースト）のアクラで亡くなっています。研究のために流行地へ踏み込み、実地にデータを集めた姿勢は、当時の国際公衆衛生や熱帯医学の発展に大きく貢献したと評価されます。
なお、野口は黄熱の病原体をレプトスピラとみなす仮説を提示しましたが、のちに黄熱がウイルス性疾患であることが確定し、この点は修正されました。それでも、彼の現地調査・検体収集・検査体系の構築は、その後のウイルス分離・ワクチン開発へ向けた研究基盤の整備に資する面があり、黄熱研究史の重要な一章をなしています。比較として、北里柴三郎は破傷風菌やペスト研究、志賀潔は赤痢菌の発見、高木兼寛は海軍における脚気対策で知られます。従って、本問の正解は「野口英世」です。

正解：2
解説
白樺派は、1910年創刊の雑誌『白樺』を拠点に活動したグループで、武者小路実篤・有島武郎・志賀直哉ら学習院出身の作家を中心に、人道主義・個人主義・理想主義を掲げました。人間の尊厳や主体の内面的成長を重視し、トルストイの影響なども受けつつ、道徳的・倫理的な自己追求を主題に据えた作品が多いことが特色です。代表作には、武者小路の『友情』『お目出たき人』、志賀の『城の崎にて』『暗夜行路』、有島の『或る女』『小さき者へ』『カインの末裔』などが挙げられます。
一方、谷崎潤一郎は白樺派ではありません。耽美派・新思潮系の中心的作家で、美と官能、倒錯や陰翳礼讃といった美学的追求を特色とします。初期の『刺青』（1910）や『痴人の愛』、後年の『卍』『細雪』などは、白樺派の倫理的・人道主義的傾向とは志向を異にします。したがって、本問で「白樺派の代表者として正しくない」人物は谷崎潤一郎であり、正解は②となります。

正解：2
解説
芥川龍之介は、1915年の「羅生門」や1916年の「鼻」などで頭角を現し、古典素材の換骨奪胎と冷徹な観察・諧謔・知的構成によって近代人の心理や社会の矛盾を描いた作家です。白樺派（1910年創刊の『白樺』を拠点）の人道主義・倫理的自己形成の作風に対し、芥川は「新思潮」系の作家として、素材の構図化とアイロニーを通じて現実を理知的に切り取る点が特色です。代表作には「地獄変」「奉教人の死」「藪の中」「杜子春」「河童」などがあり、短篇の緻密な構成と語りの多層性で日本近代文学の短篇術を高めました。
一方、武者小路実篤・有島武郎・志賀直哉は白樺派の中心作家で、人間の尊厳や道徳的自己の確立（武者小路『友情』）、理想主義や社会批評（有島『或る女』）、私小説的な内面の叙述（志賀『城の崎にて』『暗夜行路』）などを志向しました。したがって、「白樺派にやや遅れて『羅生門』等を示した理知的作風の作家」は芥川龍之介となります。

岸田劉生「麗子微笑」

正解：3
解説
岸田劉生（1891–1929）は、1912年にフューザン会（Fusain＝木炭の意）を結成して新しい洋画運動を推進し、既成の官展的傾向に対して独自の制作理念を打ち出しました。初期にはセザンヌなど西欧近代絵画から強い影響を受けつつ、やがてデューラーやホルバインら古典的写実の研究へと向かい、厳密な造形と量感表現を重視する画風を確立します。その到達点の一つが、愛娘を描いた「麗子像」シリーズであり、なかでも「麗子微笑」は、静謐な構成と精緻な筆致によって対象の内面性を凝縮した代表作として高く評価されています。
一方、選択肢の武者小路実篤・有島武郎・志賀直哉はいずれも白樺派を代表する文学者で、洋画家ではありません。したがって、本問の正解は「岸田劉生」です。

晩春（『グラフィック』誌大正15年(1926年)4月号掲載）(Wikipedia)

正解：2
解説
竹久夢二（1884–1934）は、抒情性に富む「夢二式美人」と呼ばれる独特の美人画で大正ロマンを象徴する画家です。柔らかな水彩や版画のタッチ、うつむきがちな細身の女性像、控えめな色調と曲線的な線描によって、都市の哀歓やセンチメントを繊細に表現しました。作品は雑誌挿絵・装幀・絵はがき・千代紙などのデザイン領域にも広がり、マスメディアと日常生活をつなぐかたちで大衆的人気を博します。代表作に「黒船屋」や娘を題材にした一連の人物画、さらに詩「宵待草」などがあり、多方面で近代日本の視覚文化に大きな影響を与えました。
一方、選択肢の武者小路実篤・有島武郎・志賀直哉は白樺派の主要作家で、文学分野の人物です。絵画の分野で大正ロマンを代表するのは竹久夢二であるため、本問の正解は「竹久夢二」です。