明治の美術のことがよくわかる！クイズ10問

正解：3

解説

フェノロサ（Ernest F. Fenollosa, 1853–1908）はアメリカ人の哲学者・美術史家で、1878年に来日して帝国大学で哲学・政治経済学を教えつつ、日本の仏像・絵画・工芸の価値を強く主張しました。廃仏毀釈の余波で失われかけていた寺社の古美術の調査・保存を岡倉覚三（天心）らとともに進め、伝統絵画（日本画）の再評価をリードします。東京美術学校（1887年）創設に尽力し、狩野芳崖・橋本雅邦らの復興を後押ししました。のちにボストン美術館で東洋美術部門の整備にも携わり、日本美術の国際的評価を高めます。

なお、1のモースは大森貝塚の発見で知られる考古学者、2のハーン（小泉八雲）は文学者、4のチェンバレンは言語学・民俗学の研究者で、美術保護の中心人物ではありません。

正解：2

解説

岡倉天心（1863–1913、号は天心・本名は岡倉覚三）は、1898年に日本美術院を創設し、日本画の近代的再生を主導しました。天心は東京美術学校（1887年創設）の設立にも中心的に関わり、その後の学校内の対立を契機に、横山大観・菱田春草・下村観山ら俊秀を糾合して新たな制作拠点として日本美術院を立ち上げます。ここでは、伝統的な筆線と面の調和を重視しつつ、西洋画法の観察や空気表現を取り入れるなど、多面的な実験が行われ、日本画の表現領域が大きく拡張されました。大観や春草が試みた「朦朧体」などの新様式も、こうした探究の中で生まれています。

天心は、寺社や古美術の保護・調査にも尽力し、のちにボストン美術館東洋部での活動や『東洋の理想』（1903）等の著作を通じて、日本・東洋美術の理念を国際的に発信しました。選択肢のうち、3の横山大観と4の菱田春草は日本美術院の中核メンバーですが創設者ではありません。1の黒田清輝は洋画（外光派・白馬会）の指導者で、日本美術院の創設とは立場が異なります。

正解：4

解説

高橋由一（1828–1894）は、横浜で活動した英国人画家・風刺雑誌『ジャパン・パンチ』の主宰として知られるチャールズ・ワーグマンに学び、油彩による写実表現を日本に根づかせた先駆者です。仏像や工芸など「日本美」の再評価が進む以前から、西洋の遠近・明暗法を取り入れ、対象を科学的に観察して描く姿勢を徹底しました。とくに《鮭》（1877）は、質感や量感を克明にとらえた静物画として名高く、明治前期の油彩画が単なる模倣段階を越えて独自の写実主義へと踏み出した象徴的作品と評価されます。由一は私塾で後進を育て、官製の工部美術学校（1876）以前から洋画教育の土台を築いたことでも重要です。

なお、1の黒田清輝はフランスでラファエル・コランに学び、白馬会を率いた後続世代の洋画家です。2の山本芳翠はパリでジェロームに学び、3の小山正太郎は工部美術学校でフォンタネージに学んでおり、いずれもワーグマン門下ではありません。

明治8年（1875年）から明治12年（1879年）ごろに描いたと見られる『鮭』(Wikipedia)

正解：1

解説

明治美術会は、1880年代末に浅井忠や小山正太郎ら洋画家が結成した団体で、当時まだ制度的基盤の弱かった油彩（洋画）の制作・発表の場を自前でつくり、社会的評価を高めることを目的としていました。明治初頭に工部美術学校で西洋画法が導入されたものの、その後は官の保護が薄れる局面もあり、洋画家たちは分散しがちでした。そこで彼らは「大同団結」して定期的な展覧会・研究会・会報の発行などを行い、写実表現や遠近・明暗法といった西洋の技法を日本の美術界に根づかせるための教育・普及活動を進めました。こうした草の根の組織運営は、のちの白馬会（1896）や太平洋画会（1900）など、近代洋画の発展につながる流れを生み出す重要な土台となりました。

選択肢のうち、2の白馬会は黒田清輝・久米桂一郎らによる団体、3の太平洋画会は1900年に設立された洋画団体、4の日本美術院は岡倉天心が1898年に創設した主に日本画（日本美術）の拠点であり、いずれも明治美術会とは別団体です。

黒田清輝『湖畔』(1897) Wikipedia

正解：3

解説

黒田清輝（1866–1924）は、1884年からフランスに留学し、ラファエル・コランに学んで外光（プレナイール）による明るい色調と自然光の表現を身につけました。1893年に帰国すると、その新しい画風で日本の洋画界に強い刺激を与えます。代表作「読書」「湖畔」などに見られる澄明な光の表現は、従来の暗調で重厚な写実からの転換を示し、若い世代を牽引しました。1896年には東京美術学校（現・東京藝術大学）西洋画科の教授となり、石膏デッサンや裸体写生の重視、戸外制作の導入など教学面でも改革を進めます。同年、盟友の久米桂一郎らと白馬会を結成し、展覧会活動を通じて外光派の理念を広め、日本の近代洋画の基盤整備に大きく貢献しました。

選択肢について補足します。1の山本芳翠はパリでジェロームに学んだ先行世代で、学習院などで教えましたが、外光派の中心ではありません。2の小山正太郎はフォンタネージ門下で、明治美術会や私塾「不同舎」を主宰しました。4の久米桂一郎はコラン門下で黒田の良き協力者・白馬会同人ですが、本問の叙述（外光派の旗手としての新風と教授就任）を代表する人物は黒田清輝です。

与謝野晶子『みだれ髪』表紙　藤島武二画 (Wikipedia)

正解：4

解説

藤島武二（1867–1943）は、黒田清輝に学んだ白馬会系の洋画家でありながら、世紀転換期のアール・ヌーヴォーの装飾性を敏感に摂取し、絵画とグラフィック・デザインの両面で新風をもたらしました。与謝野晶子『みだれ髪』（1901年）の装丁・表紙意匠は、流線的で有機的な曲線や平面的な構成など、当時の国際的潮流を日本の出版美術に洗練されたかたちで導入した好例として知られます。のちには留学経験をへて古典主義的な均整や輝く色面を重視する作風へ展開し、女性像や風景作品で近代的な美の感覚を開拓しました。教育面でも東京美術学校で後進を育て、日本の近代洋画の基盤整備に寄与しています。

選択肢について補足します。1の岡田三郎助、3の和田英作はいずれも黒田門下の中核ですが、装丁やポスターなどでアール・ヌーヴォー様式を先導した中心人物ではありません。2の竹久夢二は抒情画・商業デザインでアール・ヌーヴォー風の図案が著名ですが、黒田の弟子ではなく、所属や出自が異なります。

横山大観『無我』 (Wikipedia)

正解：3

解説

横山大観（1868–1958）は、岡倉天心の同志として日本美術院の中核を担い、院展（日本美術院展覧会）の看板作家として活躍しました。大観は、菱田春草とともに輪郭線を弱めて空気や光の移ろいを重視する表現（いわゆる「朦朧体」）を探究し、日本画の色面構成や空間表現に大胆な革新をもたらしました。『無我』（1897）、『生々流転』（1923）などの代表作は、日本画が近代に適応していく上での指標となり、院展を通じて後進にも大きな影響を与えます。さらに再興日本美術院の運営にも深く関わり、安田靫彦・小林古径・前田青邨・速水御舟らを含む後続世代の活躍基盤を整えました。

選択肢について補足します。1の黒田清輝は洋画（白馬会）を主導し、院展の中心ではありません。2の竹内栖鳳と4の上村松園は京都画壇・帝展／文展系で評価された日本画家で、活動の主舞台は日本美術院（院展）とは異なります。

正解：2

解説

梅原龍三郎（1888–1986）は、1908年に安井曽太郎とともにフランスへ渡り、南仏カーニュのアトリエを訪ねるなどルノワールに直接接して強い影響を受けました。ルノワールからその色彩感覚を高く評価され、梅原は光に満ちた鮮やかな色面と厚塗りの筆致を核に、装飾性と量感を兼ね備えた独自の様式を確立します。帰国後は静物・人物・風景において、豪胆で伸びやかなタッチと豊麗な色彩を前面に押し出し、日本洋画に新しい美の尺度を提示しました。こうした仕事は大正・昭和前期の洋画壇を牽引し、後進にも大きな影響を与えます。

選択肢の補足です。3の安井曽太郎も同時期に渡仏しましたが、構成とデッサン重視の落ち着いた色調が基調です。4の岸田劉生は写実の探究を深め、線と形の緊張に特色があります。1の藤田嗣治はパリで活躍しましたが、乳白色の下地と鋭い線描による様式で知られ、ルノワールに色彩家として認められたという本問の叙述とは異なります。

重要文化財『老猿』（1893年） (Wikipedia)

正解：2

解説

高村光雲（1852–1934）は、江戸の仏師の伝統に立ちながら、西洋由来の写実的な観察や解剖学的理解、量感表現を積極的に取り入れて近代木彫を切り拓いた彫刻家です。代表作「老猿」は、枝にしがみつく猿の緊張した姿勢や筋肉の張り、毛並みの質感まで巧みに表し、伝統木彫と西洋写実の融合を示す名作として高く評価されます。東京美術学校で木彫教育を担い、後進の育成にも尽力したことから、日本近代彫刻の基礎形成に大きく貢献しました。

選択肢の補足です。1の平櫛田中は木彫の巨匠ですが主に大正・昭和期に活躍し、「鏡獅子」などで知られます。3の荻原守衛はロダンに学んだブロンズ中心の近代彫刻家です。4の朝倉文夫もブロンズを得意とし、「墓守」「猫」などで名高い人物で、本問の「老猿」の作者ではありません。

日本銀行本店本館（辰野金吾設計）(Wikipedia)

正解：2

解説

辰野金吾（1854–1919）は、工部大学校でお雇い外国人の建築家ジョサイア・コンドルに学び、さらに英国に留学して本格的な近代建築を修得しました。帰国後は赤煉瓦と白い石材の帯（ストライプ）を組み合わせた重厚な意匠で知られ、いわゆる「辰野式（フリー・クラシック）」と呼ばれる様式を確立します。東京駅丸の内駅舎（1914竣工）はその代表で、ドーム屋根と煉瓦壁が象徴的景観を形成し、日本の首都景観に西欧古典主義の構成美を定着させました。日本銀行本店（1896竣工）など官庁・銀行建築でも都市のモニュメント性を示し、コンドル直系の日本近代建築の主潮を牽引した人物です。

選択肢のうち、1の片山東熊は宮廷建築（迎賓館赤坂離宮など）で名高く、フランス風の華やかな様式が特色です。3の曽禰達蔵は実務派の先駆で事務所運営やオフィス建築に功績があります。4の伊東忠太は神社建築や東アジア考証を取り入れた独自様式で知られます。赤煉瓦の大規模西洋館といえば、やはり辰野金吾が中心的人物です。