化政文化（文学・美術・民衆文化）のことがよくわかる！クイズ10問

【正解】3

【解説】

式亭三馬（しきてい さんば, 1776–1822）は、文化・文政期に活躍した戯作者で、滑稽本の代表作『浮世風呂』『浮世床』で庶民生活を生き生きと描きました。銭湯や床屋という誰もが集う場を舞台に、客同士の世間話や口論、与太話を軽妙な会話でつなぎ、江戸言葉・地口・駄洒落・言い間違いなどの言語的笑いを巧みに用いて読者の共感と笑いを誘います。筋運びよりも台詞のテンポと風俗の克明なスケッチを重視し、当時の町人社会の価値観や流行、職業観、男女関係までが活写されている点が特徴です。こうした会話中心の手法は、滑稽本というジャンルの確立と流行を牽引し、後世の大衆文学や落語的話法にも通じる表現を先取りしました。

なお、十返舎一九（②）は『東海道中膝栗毛』で知られる道中滑稽の名手、為永春水（①）は恋愛や情の機微を描く人情本の中心作家、山東京伝（④）は洒落本や黄表紙の第一人者であり、いずれも三馬とはジャンルと代表作が異なります。以上より、正解は式亭三馬です。

【正解】2

【解説】

十返舎一九（じっぺんしゃ いっく）は、江戸後期に活躍した滑稽本の作者で、代表作『東海道中膝栗毛』（通称：弥次喜多道中）で一世を風靡しました。作中では、弥次郎兵衛と喜多八の凸凹コンビが江戸から東海道を旅し、伊勢・京都・大坂など各地で巻き起こす失敗談や勘違いを、軽妙な会話・駄洒落・地口でテンポよく描きます。写実的な風俗描写に地誌・名所案内の要素が加わり、当時の旅行ブームとも相まって大衆的人気を獲得しました。刊行は享和期から文化期にまたがり、続編群も生まれて長期のベストセラーとなります。

一方、式亭三馬（③）は『浮世風呂』『浮世床』で庶民の日常会話の可笑しさを描いた滑稽本の名手ですが、弥次喜多道中の作者ではありません。山東京伝（①）は洒落本・黄表紙の第一人者、為永春水（④）は恋愛や人情を描く人情本の中心作家です。したがって、本問の正解は十返舎一九です。

【正解】2

【解説】

小林一茶（1763–1828）は、信濃国水内郡柏原村（現・長野県信濃町）の出身で、農村社会に根差した視線から俳諧を革新した江戸後期の俳人です。『おらが春』は晩年の代表的な俳文・句集で、身近な自然や暮らしの情景を方言まじりの平明な言葉で描き、弱き者や小動物への温かなまなざしを一貫して示します。町人中心に発展してきた俳諧を、百姓や在方の人びとへと広く浸透させた功績は大きく、「民衆俳諧」を体現した存在と評価されます。写生的で機知に富む与謝蕪村（①）や、幽玄・風雅を旨として旅の記録を残した松尾芭蕉（③）、女性俳人として疎水の情を詠んだ加賀千代女（④）とは理念と作風が異なります。よって本問の正解は小林一茶です。

参考：一茶の代表的な俳句：

• やせ蛙　まけるな一茶　これにあり
• 我と来て　遊べや親の　ない雀
• 名月を　取ってくれろと　泣く子かな
• 雀の子　そこのけそこのけ　お馬が通る
• 朝顔や　つるべとられて　もらい水

【正解】4

【解説】

曲亭（滝沢）馬琴（1767–1848）は、読本（よみほん）の大成者で、『南総里見八犬伝』によって江戸後期の大衆文学を牽引しました。本作は里見氏再興を主軸に、勧善懲悪と因果応報の観念を物語全体に徹底させ、善行は最終的に報われ、悪は必ず罰せられるという道徳的世界観を描きます。物語上の仕掛けとして、八犬士それぞれが「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の徳目を宿す霊玉（珠）と「犬」の字を名に持ち、血縁・因縁・誓約が幾重にも絡み合う構成になっている点が特徴です。中国白話小説（『水滸伝』など）の語り口を摂取しつつ、武辺・怪異・恋慕・旅路・家名の再興といった諸要素を長期連載で緻密に組み立て、読者を惹きつけました。

一方、山東京伝は洒落本・黄表紙の名手、為永春水は人情本の中心作家、上田秋成は怪異を主題とする『雨月物語』などで知られます。勧善懲悪・因果応報を物語骨格に据えた長大な読本を完成させたのは馬琴であり、したがって正解は曲亭（滝沢）馬琴です。

正解：葛飾北斎

解説：

この版画は、江戸時代後期の浮世絵師 葛飾北斎（かつしかほくさい） が描いた 『凱風快晴（がいふうかいせい）』 です。

別名「赤富士（あかふじ）」とも呼ばれ、代表作《富嶽三十六景》の一図にあたります。夏の朝、南風が吹きわたる晴天時に、朝日に照らされて赤く染まった富士山の姿を描いた作品で、日本美術を象徴する景観表現として国際的にも有名です。

正解：歌川広重

解説：

この版画は、江戸時代後期の浮世絵師 歌川広重（うたがわ ひろしげ） による作品です。

シリーズ《東海道五十三次》の一図で、描かれているのは 箱根宿 の風景です。険しい山道と大きな岩、駕籠に乗った旅人や歩く人々の様子が表現されており、広重らしい叙情的な自然描写と旅情が感じられる作品です。

【正解】3

【解説】

鶴屋南北（四代, 1755–1829）は、文化・文政期の江戸歌舞伎を代表する狂言作者で、『東海道四谷怪談』（文政8年・1825初演）を著して評判を取りました。本作は、江戸の町人社会に取材した世話物の手法に、怪談の要素と舞台的奇術（外連＝けれん）を巧みに組み合わせた点に特徴があります。毒薬で顔を崩されたお岩の怨霊譚を中心に、与兵衛改め伊右衛門の悪事や裏切りを、床屋・長屋・橋場など身近な生活空間に配し、現実味ある会話と風俗描写で観客の恐怖と同時代感覚を喚起します。髪梳きの場、提灯に浮かぶお岩の面影、早替りやセリ・スッポンといった舞台装置の駆使は、南北の演劇的工夫の白眉です。

一方、①河竹黙阿弥は明治の名作者で『白浪五人男』など白浪物・世話物を得意としました。②近松門左衛門は上方の人形浄瑠璃・歌舞伎作者で『曾根崎心中』などが代表作、④並木宗輔は上方で近松と並ぶ脚本家ですが、『四谷怪談』の作者ではありません。したがって正解は鶴屋南北です。

【正解】4

【解説】

河竹黙阿弥（かわたけ もくあみ, 1816–1893）は、江戸末から明治にかけて活躍した歌舞伎の狂言作者で、町人世界を題材とする「世話物」と、盗賊を主人公に据えた「白浪物」を得意としました。代表作『青砥稿花紅彩画（あおとぞうしはなのにしきえ）』通称『白浪五人男』（1862）は、長台詞（つらね）や言い立てを七五調のリズムで畳みかける作風が際立ち、「知らざあ言って聞かせやしょう」で始まる弁天小僧の名口上や「稲瀬川勢揃いの場」など、今日まで上演の定番となっています。ほかにも『三人吉三廓初買（さんにんきちさくるわのはつがい）』（「月も朧に白魚の…」の名科白）や『梅雨小袖昔八丈（髪結新三）』など、役者の口跡を生かした台詞中心の劇作で人気を博しました。

一方、①鶴屋南北は『東海道四谷怪談』など怪談・生世話の名作で知られる作者、②近松門左衛門は主に上方の人形浄瑠璃・歌舞伎で時代物・心中物を大成した作者、③為永春水は人情本の中心作家です。『白浪五人男』で世話物の名作を残したのは河竹黙阿弥です。

【正解】3

【解説】

四国八十八ヶ所巡りが庶民層まで広く浸透し、一大ブームとなったのは江戸時代中期から後期（18世紀中葉～19世紀前半）です。江戸の交通網整備（街道・海上輸送の発達）や旅宿・舟運の充実、寺社参詣の流行が追い風となり、伊勢参り・善光寺参り・金毘羅参りなどと並ぶ全国的巡礼として定着しました。各地の講中（遍路講）や相互扶助が資金・宿の手配を支え、道標・茶屋・接待文化（「御接待」）が整い、納経や納札など巡礼実務も制度化されます。

先行する基盤として、17世紀末には真念の案内記（遍路道の標準化）が普及し、経路と札所情報が共有されましたが、爆発的に人々が巡礼に参加する「ブーム」は18～19世紀の江戸後期に本格化します。よって、最も適切なのは「江戸時代中期から後期」です。

【正解】4

【解説】

「御蔭参り」は、宝永・明和・文政などの時期に全国規模で突発的に広がった伊勢神宮への大集団参詣のことを指します。とくに文政13年（1830）には各地で「お札が空から降った」という噂（お札降り）が拡散し、老若男女が一斉に旅立つ現象が生じました。多くは「抜け参り」と呼ばれる自発的な出立でしたが、街道沿いでは接待や施行（せぎょう）、伊勢講の相互扶助が働き、道中の宿・茶屋も受け入れ体制を整えるなど、社会全体が参詣者の流れを支えました。こうした大規模巡礼は、信仰の高まりだけでなく、地域間の交流や物資・情報の流通を活性化させ、民衆文化の一体感を育む役割も果たしました。

なお、①「ええじゃないか」は幕末（1867–68）の踊り騒動で、神符の降下がきっかけになる点は似ていますが、目的は巡礼ではありません。②「富士講参詣」は富士山信仰の講中による登拝、③「伊勢講」は伊勢参宮を支える講組織の名称で、現象そのものの呼称ではありません。したがって本問は「御蔭参り」です。