第一次世界大戦のことがよくわかる！クイズ5問

【正解】3

解説

日露戦争（1904〜1905年）で極東における影響力が低下したロシアは、外交の軸足を西南方向へ戻し、バルカン半島での影響力回復を狙いました。その際の大義名分として掲げられたのが「パン＝スラヴ主義」です。パン＝スラヴ主義とは、広くスラヴ系諸民族の連帯・統一を目指す思想で、最大のスラヴ国家であるロシアが“保護者”を自任して各地のスラヴ系国家・民族（とりわけセルビア人など）を後援する論理として用いられました。

具体的には、オーストリア＝ハンガリー帝国がバルカンに勢力を伸ばす動き（1908年のボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合など）に対抗し、ロシアはスラヴ的連帯を掲げてセルビア支援を強めます。1912〜1913年のバルカン戦争期には、スラヴ系主体の連携（いわゆるバルカン同盟）を後押しする外交環境が形成され、さらに1914年のサラエヴォ事件後の「セルビア擁護」もスラヴ連帯の名分と結びついて総動員へと傾斜していきました。こうしてパン＝スラヴ主義は、ロシアの対バルカン外交を正当化する看板として機能したのです。

選択肢1のパン＝ゲルマン主義は、ドイツ帝国やオーストリア＝ハンガリー帝国側の「ドイツ系民族の連帯」を掲げる思想で、ロシアの立場とは対立する側にあります。選択肢2の「正教徒保護」は19世紀のロシア外交でしばしば用いられた名目ではありますが、日露戦後のバルカン再進出を説明する中心概念としてはパン＝スラヴ主義が適切です。選択肢4のパン＝アラブ主義は中東・アラブ世界の思想で、バルカンでのロシアの名分とは関係がありません。

【正解】2

解説

日露戦争（1904〜1905年）後、ドイツは世界政策（ヴェルトポリティク）を一層推し進め、中央・東欧からオスマン帝国圏に至る影響力の拡大を図りました。その際の理念的な「看板」となったのがパン＝ゲルマン主義です。パン＝ゲルマン主義は、ドイツ語圏・ゲルマン系民族の結束と指導を掲げ、ドイツ文化（クルトゥーア）の優越や共同体意識を根拠に、政治・経済・軍事的な進出を正当化する思想として機能しました。

バルカンでは、ドイツは同盟国オーストリア＝ハンガリー（独墺ブロック）の後押しを通じて影響力を拡大します。とくに1908年のボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合をめぐる危機では、独墺側はロシアやセルビア（スラヴ系）と対峙し、ゲルマンとスラヴの「汎民族」対立という図式が鮮明になりました。また、ベルリン＝バグダード鉄道計画に象徴されるように、ドイツは経済・軍事の回廊を南東欧からオスマン領へ伸ばし、英仏露の伝統的勢力圏に挑戦しました。こうした動きは、表向きにはゲルマン系の結束やドイツ文化圏の拡張という大義で語られ、実際には勢力均衡の再編を狙う現実政治（リアルポリティク）と結びついて進められたのです。

選択肢1のパン＝スラヴ主義はロシアがスラヴ系民族の保護・連帯を名分として掲げた思想です。選択肢3のパン＝アラブ主義は中東・北アフリカのアラブ民族統合思想で、ドイツのバルカン政策の名分とは異なります。選択肢4のパン＝トルコ主義（汎テュルク主義）はトルコ（テュルク）系の連帯を掲げるもので、オスマン帝国内部の動向とは関わりますが、ドイツの大義名分を直接示す概念ではありません。

【正解】4

解説（ですます調）

1914年6月28日、ボスニアの首都サラエヴォを視察中であったオーストリア＝ハンガリー帝国の皇太子フランツ・フェルディナント夫妻が、セルビア人青年ガヴリロ・プリンツィプに暗殺されました（サラエヴォ事件）｡ 彼は「青年ボスニア」と呼ばれる民族解放を志向する地下組織に属し、背後にはセルビアの対外秘密結社「黒手組」との関係が取り沙汰されました。事件後、オーストリア＝ハンガリーはセルビアに対して極めて厳しい最後通牒を突き付け、ドイツのいわゆる「白紙小切手（無条件支持）」を得て、7月28日にセルビアへ宣戦布告しました。

これに対して、セルビアを後援するロシアが動員を開始し、同盟関係にあったドイツが8月1日にロシア、3日にフランスへ宣戦、さらにシュリーフェン計画に基づくベルギー侵攻を行ったため、ベルギーの中立保障を重視するイギリスが8月4日にドイツへ宣戦しました。こうして同盟網が次々と作動し、局地紛争は世界規模の総力戦へと拡大して「第一次世界大戦」（1914〜1918年）となりました。

誤答の各選択肢について申し上げますと、3の「第二次バルカン戦争」は1913年の地域戦争で、サラエヴォ事件の前年にあたります。1の「クリミア戦争」は1853〜56年にロシアと英仏などが争った戦争で時代も地域構図も異なります。2の「日露戦争」は1904〜05年の極東における戦争で、直接の契機とはなりませんでした。以上の理由から、本問の正解は4の「第一次世界大戦」となります。

【正解】1

解説

第一次世界大戦が勃発すると、イギリスは日英同盟（1902年・改訂1905年・1911年）を根拠に、主として極東・太平洋での「海上作戦」に限った支援を日本に要請しました。具体的には、ドイツ東洋艦隊の掃討や通商保護、海上交通路の安全確保といった限定的な協力を想定していました。これに対し日本政府は、同盟義務の履行に積極的姿勢を示し、1914年8月15日にドイツへ最後通牒を発出、回答がなかったため8月23日に対独宣戦を布告しました。すなわち、日本は「海上限定」要請を超え、同盟協約を拡大解釈して全面的な交戦状態に入ったのです。

【正解】2

解説

第一次世界大戦勃発後、日本は日英同盟を根拠に1914年8月23日にドイツへ宣戦布告し、東アジア・太平洋で作戦を展開しました。最大の戦果は、山東半島のドイツ租借地・膠州湾の根拠地である青島（チンタオ）の攻略と、太平洋のドイツ領島嶼（いわゆる南洋諸島：マリアナ（グアム除く）・カロリン・マーシャル、パラオなど）の占領です。青島では英国部隊と協同し、海上封鎖と陸上包囲によって要塞・港湾・無線施設を制圧しました。南洋諸島は日本海軍の機動力を生かして速やかに掌握し、戦後は国際連盟の委任統治（南洋群島、クラスC）として日本の管理下に置かれ、1922年に南洋庁が設置されました。これらは日本の対外的地位と海上交通路の確保に大きく寄与します。

なお、選択肢3のドイツ領サモアはニュージーランド軍が占領しており日本の戦果ではありません。選択肢4のように「青島攻略失敗」という事実はなく、またドイツ東洋艦隊の主力は太平洋から離脱しており、日本は欧州本土の「西部戦線」（選択肢1）に派兵していません。以上より、本問の正解は2となります。