寛政の改革のことがよくわかる！クイズ10問

正解：2
解説
「天明の打ちこわし」は、天明7年（1787）に江戸を中心として質屋・札差・米問屋などを襲撃し、米価の引き下げや売り惜しみへの制裁を迫った大規模な民衆騒擾を指します。背景には、天明期の連年の凶作と浅間山噴火の影響による深刻な食糧不足、米価高騰、そして田沼政権下で台頭した特権商人への反発がありました。天明6年（1786）に田沼意次が失脚した後も幕府中枢では後任の路線をめぐる綱引きが続いていましたが、この全国的な騒動の発生は、民心安定と物価対策を最優先とする改革派擁立の機運を一挙に高めました。その結果、翌天明7年に松平定信が老中に抜擢され、倹約・教化・流通統制を柱とする寛政の改革が本格化していきます。
なお、選択肢1の「天明の大飢饉」は騒擾の直接の原因となった広域的な飢饉そのものを指します。3の「明和事件」は明和期の思想弾圧事件であり、4の「天保の打ちこわし」は天保年間（1830年代）の出来事で、本問の時期・性格とは異なります。

正解：4
解説
松平定信は、徳川吉宗の孫として御三卿の一つである田安徳川家に生まれた人物です。御三卿（田安・一橋・清水）は、将軍家に後嗣を出すために設けられた家格の高い家であり、定信はその血統と教養を背景に幕政で重用されました。のちに白河松平家へ養子に入り白河藩主となったうえで、天明の打ちこわし後の混乱収拾を託され老中に抜擢され、寛政の改革を主導しました。吉宗の「享保の改革」を意識した倹約と教化の路線を継承・再解釈したことも、彼の出自と政治姿勢の結びつきを物語ります。
なお、選択肢1の尾張徳川家は御三家の一つですが、定信の出自ではありません。選択肢2の会津松平家（保科家）は保科正之を祖とする別系統です。選択肢3は「白河松平家の生まれ」としている点が誤りで、定信は生まれは田安徳川家であり、白河松平家には後に養子に入って藩主となったにすぎません。

【正解】3. 倹約令による財政緊縮政策
【解説】
松平定信は、天明の大飢饉（1782〜1787年）後に深刻化した幕府財政の逼迫を立て直すため、老中就任（1787年）直後から寛政の改革（1787〜1793年）を推進し、その中核に「倹約令」を据えました。倹約令は、幕府・諸役所・旗本・御家人から町人・百姓に至るまで広く奢侈を禁じ、支出の徹底削減を求めるものでした。具体的には、衣服・婚礼・葬礼・饗応・贈答の質素化、幕府儀礼や建築・土木事業の抑制、役所経費の節減などを命じ、まず歳出を切り詰めることで財政の均衡回復を狙いました。
併せて、金融面では旗本・御家人の過重債務を整理する棄捐令（利息の大幅削減・返済調整）を出し、非常時への備えとして町費節減分を積み立てる七分積金、農業基盤の立て直しを図る旧里帰農令や米備蓄の奨励など、支出削減と危機耐性の強化を組み合わせました。重商主義的な商業振興で歳入増を図った田沼意次の路線とは対照的に、定信はまず支出を抑える「引き締め」に軸足を置いたのが特徴です。倹約令は社会に窮屈さをもたらす一方で、短期的には幕府財政の急場をしのぐ効果を持つ施策として位置づけられます。

【正解】2. 棄捐令を出した
【解説】
寛政の改革を主導した松平定信は、天明の大飢饉後に債務が膨らんだ旗本・御家人の生活破綻を放置すれば、武家統制や治安にも悪影響が及ぶと判断し、寛政元年（1789年）に「棄捐令（きえんれい）」を発しました。棄捐令は、主として札差（武家の俸禄米を担保に資金を貸し付ける金融業者）に対し、①過去に累積した利息の破棄（帳消し）、②元本返済の猶予・長期分割、③利率の上限設定などを命じ、旗本・御家人の借金を実質的に整理するものでした。これにより当座の返済負担を軽くし、窮迫による離散や不法行為の抑止を狙いました。
もっとも、商人側には大きな損失となったため、信用収縮や新規貸し出しの手控えが生じ、武家の与信環境はむしろ厳しくなる副作用もありました。定信は倹約令による歳出削減や役所経費の節減と併走させることで、武家の生活規律を引き締めつつ財政再建を図りました。棄捐令は短期的な救済策としては有効でしたが、長期の財政基盤強化には限界があり、後続の制度改正や経済政策と組み合わせて運用された点が重要です。

【正解】4. 旧里帰農令を出した
【解説】
寛政の改革期、松平定信は天明の大飢饉後に疲弊・流出した農村人口を回復し、年貢の基盤である農業生産を立て直す必要があると考えました。そこで寛政初年に「旧里帰農令」を出し、江戸や在郷町へ流入した無高の人々（農民出身の出稼ぎ・日雇いなど）に対して、出身村へ戻って耕作に従事することを奨励しました。村籍への復帰を促し、逃散・離村の歯止めをかけることで、耕地の荒廃を防ぎ、年貢徴収を安定させる狙いがありました。併せて、帰農者の受け入れを円滑にするため、村方の調整や一時的な負担軽減・未納年貢の整理などの措置も講じられました。
もっとも、都市での生計手段を既に得ていた者や、村に残る債務・年貢負担を嫌う者も多く、実施効果は地域差がありました。それでも定信の基本方針は、「まず農」を掲げて人口と生産力を農村に回帰させることで財政の基礎を強くする点にあり、同時期の倹約令・米備蓄奨励などと組み合わされて、短期の危機対応と中期の基盤整備を狙った政策であったと評価できます。なお、のちの天保の改革で出された強制色の強い「人返し令」とは性格が異なり、旧里帰農令は奨励・指導色が相対的に強いのが特徴です。

【正解】2. 寛政異学の禁を出した
【解説】
松平定信は寛政2年（1790年）に「寛政異学の禁」を発し、幕府の学問所（昌平坂学問所・聖堂）および諸藩校の指導方針として朱子学（宋学）を正学と定め、これに反する学説の講義・採用を禁じました。とりわけ、実践・良知を重んじる陽明学や、古典復帰を唱える古学（伊藤仁斎・荻生徂徠の学）などは、秩序や上下関係を揺るがしかねない「異学」とみなされ、公式教育の場から排されました。
この措置は、天明の大飢饉後に乱れた風俗と綱紀を立て直し、道徳規範で社会を統制するという寛政の改革の理念と直結しています。朱子学を官学として統一することで、身分秩序・家父長制・礼制を支える思想的基盤を再確認し、幕府支配の正統性を補強しようとしたのです。併せて、出版統制や風紀取締り（洒落本の弾圧など）も強化され、異説の流通や批判的言論は抑制されました。
もっとも、私的な研究や実学としての蘭学・医学などは一定範囲で容認され、完全な思想封鎖ではありませんでした。しかし、教育制度の中枢を朱子学に一本化した効果は大きく、以後の武士教育と官僚登用に長期的な影響を及ぼした点が重要です。

【正解】1. 出版統制令を出した
【解説】
松平定信は寛政の改革期（1787〜1793年）に、風紀を乱す洒落本・黄表紙・過激な浮世絵などの流通を抑えるため、出版統制令（触書）を相次いで出しました。これにより、①出版の事前検閲の強化、②奥付への板元・作者名などの明記徹底、③風俗壊乱・幕政批判・不敬表現の禁止、④違反時の厳罰（手鎖・営業停止・罰金・板木没収）などが制度化・厳格化されました。取締りは作者・版元・挿絵師・貸本屋にも及び、山東京伝や蔦屋重三郎の処罰に見られるように、江戸の出版文化全体に強い萎縮効果を与えました。
この統制は、同時期の「寛政異学の禁」による学問統制や倹約令による生活規律の引き締めと歩調を合わせ、道徳の立て直しと社会秩序の維持を狙ったものです。長期的には創作表現に一定の制約を課しましたが、幕府は治安・風俗の取り締まりを通じて支配の正統性を補強しようとした点に意義があると評価できます。

【正解】3. 営業停止処分、拘禁刑、罰金などを受けた
【解説】
寛政の改革期、幕府は洒落本や黄表紙、風俗を刺激する浮世絵などを「風紀壊乱」とみなし、出版統制令（触書）を相次いで出しました。統制令は、内容取締りの強化に加え、奥付への板元・作者名の明記徹底、事前審査の厳格化、違反時の厳罰化を柱としていました。蔦屋重三郎は山東京伝の洒落本などを刊行した板元として連座し、営業の一時停止処分、手鎖などの拘禁刑、罰金、さらには板木の没収といった制裁を受けています。これらは版元・作者・挿絵師・貸本屋にまで責任を及ぼす統制の象徴的事例であり、江戸の出版界に強い萎縮効果をもたらしました。
この動きは、学問世界を朱子学に一本化する「寛政異学の禁」や倹約令と歩調を合わせた社会規律の引き締め政策の一環でした。蔦屋に対する厳罰は、幕府が表現市場の流通段階（版元）を重く処罰することで、逸脱的な内容の出版自体を未然に抑え込もうとしたことを示しています。以上のように、蔦屋重三郎は寛政の出版統制の直撃を受け、営業・身柄・財産の各面で厳しい処罰を科されました。

【正解】4. 子平に禁固刑を科し、板木を没収した
【解説】
林子平は仙台藩出身の地理・兵学者で、北方ロシアの南下など対外情勢の緊迫を踏まえ、『海国兵談』や『三国通覧図説』で沿岸防備の強化・蝦夷地の重視などを提言しました。ところが寛政期の幕府は、海外情報や軍備論の拡散が「風説」を招き秩序を乱すとして、出版統制を一段と強めます。その流れの中で子平の著作は幕政批判・国情露呈に当たると判断され、板木（版木）の没収・刊行差し止めが命じられ、本人も禁固（蟄居・拘禁）処分を受けました。
この弾圧は、寛政の改革における言論・出版統制強化（洒落本・黄表紙の取締りや「寛政異学の禁」など）と軌を一にするもので、外国関係や軍事情報の扱いに対し強い抑制がかけられたことを示します。もっとも子平の警鐘は的確で、のちに蝦夷地の一時直轄化（18世紀末〜19世紀初頭）や海防体制の整備へとつながっていきます。

【正解】4. 尊号一件
【解説】
「尊号一件」は、寛政3年（1791）に朝廷側が参議以上の公卿に対する尊号宣下、さらに光格天皇の実父（閑院宮典仁親王）への太上天皇号授与を望んだことに対し、老中・松平定信が強く拒絶し、朝廷側へ厳しい処分を加えた出来事を指します。定信は、皇位に就いていない者への上皇号付与は前例を乱し、政治秩序にも影響するとして、申請そのものを退けました。併せて、関係した公家・武家伝奏らを譴責・罰科とし、宮中儀礼や人事運営にも介入して統制を強めました。
この事件は、寛政の改革における「規律・秩序の回復」という理念が、学問統制（寛政異学の禁）や出版統制だけでなく、公武関係にも及んだことを示します。幕府は朝廷の威儀や称号付与にまで監督権を及ぼし、将軍政権の優位を明確化しました。その結果、朝廷は政治的主導権をさらに制約され、公武の棲み分けが一段と固定化される契機となりました。