二・二六事件のことがよくわかる！クイズ10問

【正解】2
【解説】
1930年代半ばの陸軍では、「皇道派」と「統制派」の対立が先鋭化しました。皇道派は荒木貞夫・真崎甚三郎らに連なり、天皇親政を理想化した「昭和維新」を掲げ、精神主義と「国体明徴」を重視しました。政治腐敗や財閥を打破するためには、下からの「直接行動」も辞さない急進的傾向が強く、青年将校の支持を集めます。これに対し統制派は永田鉄山・東條英機らに連なり、近代的な兵站・装備・産業動員を基盤とする「国家総動員体制」の整備を主張しました。官僚機構や産業界との協働を通じて計画的に戦備を整える現実主義・組織重視の路線であり、軍の統制（コントロール）を重んじたのが特色です。
両派の確執は1935年の相沢事件（皇道派同調の相沢三郎が統制派の中核・永田鉄山を刺殺）で表面化し、1936年の二・二六事件では皇道派思想に影響された青年将校が蜂起しました。鎮圧後は粛清・人事異動を通じて皇道派が後退し、統制派が主導権を握って国家総動員法（1938年）へとつながる体制整備が進みます。以上のように、両派は「精神主義的・急進的改革か」「計画統制による現実的軍備か」という路線対立で、日本の戦時体制形成に深い影響を与えました。

【正解】3
【解説】
皇道派の青年将校に決定的な影響を与えたのは北一輝です。北は『日本改造法案大綱』で、議会政党や財閥・官僚を打破し、天皇親政の下で国家を急進的に再編する「昭和維新」を構想しました。そこでは、憲法・議会の停止、非常措置による国家改造、土地・主要産業の国家統制や金融資本の整理、普通選挙の徹底など、社会改革と国防強化を一体で進める青写真が示されています。こうした「上からの革命」路線は、既成政治への不満と倫理的・精神主義的改革願望を抱いた青年将校の心理と合致し、彼らの直接行動志向を正当化する理論的支柱となりました。
他方、大川周明の国家主義思想や荒木貞夫の精神主義も影響は与えましたが、クーデターによる一挙改革を理論的に提示した点で北の影響は特に大きかったと評価されます。二・二六事件では北の思想に感化された将校が「尊皇討奸」を掲げて蜂起し、事件後、北は関与を問われて処刑されました。以上のように、皇道派の急進的改革論の核心には北一輝の構想があり、青年将校の運動方向を規定する強い原理的魅力を持っていたのです。

【正解】4
【解説】
統制派は、陸軍全体の統率と計画性を重視し、国家の産業・官僚機構と連携して戦時体制を整備することで、近代的で持続可能な軍事力を実現しようとする立場でした。具体的には、兵站・補給・動員計画の高度化、機械化・火力化の推進、作戦と産業力を結びつける総合的な国防計画の策定を重視しました。これは、クーデター的な「直接行動」を志向する皇道派の急進主義・精神主義とは対照的で、組織運営と制度設計に軸足を置く現実主義的なアプローチでした。
また、統制派は軍の統帥と行政・経済の統制を一体で捉え、官僚機構（のちの企画院など）や主要産業と協働して資源配分・価格・生産計画を管理する「統制経済」的発想を押し出しました。こうした発想は、軍需生産力を基礎とする「高度国防国家」を目指すもので、軍の権限強化だけでなく、国家全体の動員体制を制度として整えることに主眼がありました。
1935年の相沢事件、1936年の二・二六事件を経て皇道派が後退すると、統制派の人事・政策が優勢となり、軍需産業との結合や人的・物的資源の計画的動員が一段と進みました。最終的には、国家総動員体制の構築へと結びつき、軍事力の持続的運用を可能にする法制度・官僚機構・産業動員の枠組みが整備されました。このように、統制派は「軍の統制強化」と「計画的な革新」を両輪として、高度国防国家を指向したのです。

【正解】3
【解説】
二・二六事件を起こした中心は、皇道派思想に傾倒した陸軍の青年将校たちでした。彼らは既成政党・財閥・官僚を「国体」を歪める奸臣とみなし、「尊皇討奸」「昭和維新」を掲げて直接行動に踏み切りました。雪の降る未明、近衛や第一師団隷下の部隊を動かし、首相官邸・各大臣私邸・警視庁・国会周辺などを襲撃・占拠し、高橋是清（大蔵大臣）、斎藤実（内大臣）、渡辺錠太郎（教育総監）らを殺害しました。岡田啓介首相は秘書官が身代わりとなり難を逃れます。
思想的背景には北一輝の国家改造論や荒木貞夫らの精神主義があり、議会政治を停止して天皇親政のもとで一挙に国家改造を行う構想が強い影響を与えました。しかし昭和天皇は断固不支持の姿勢を示し、政府・軍中枢は反乱軍と断定して鎮圧に動きます。事件は数日で終息し、関与者は厳しく処罰され、陸軍内では皇道派が粛清されて統制派が主導権を握りました。結果として、計画的な国家総動員体制へ向かう流れが一層強まり、日本の戦時体制形成に重大な転換点となりました。

【正解】1
【解説】
正しくないのは犬養毅です。犬養毅は1932（昭和7）年の五・一五事件で、海軍青年将校らにより首相官邸で射殺されています。二・二六事件（1936〈昭和11〉年）で殺害された政府要人は、高橋是清（大蔵大臣）、斎藤実（内大臣）、渡辺錠太郎（陸軍教育総監）の3名です。いずれも皇道派系の青年将校らが「尊皇討奸」「昭和維新」を掲げて首都中枢を急襲した際の標的でした。
一方、岡田啓介首相は襲撃を受けましたが最終的に難を逃れ、侍従長の鈴木貫太郎は重傷を負いながらも生存しました。二・二六事件は数日で鎮圧され、関与者は厳罰に処せられます。事件後は皇道派が粛清され、統制派が陸軍内で主導権を握り、国家総動員体制の整備が進む契機となりました。五・一五事件と二・二六事件は時期も主体（海軍中心か陸軍青年将校中心か）も異なりますので、犬養毅の暗殺は前者、三名の政府要人の殺害は後者と区別して覚えると整理しやすいです。

【正解】4
【解説】
二・二六事件当日、皇道派系の青年将校らは「尊皇討奸」を掲げて首相官邸を急襲しました。混乱のなかで岡田啓介首相は官邸内の女中部屋に逃れ、押し入れに身を潜めて命をとりとめます。襲撃隊は暗がりと混乱の中で岡田の義弟で秘書官の松尾伝蔵大佐を首相本人と誤認し、射殺しました。この“誤認殺害”が岡田の生存に直結した重要な要因でした。
その後、官邸は反乱側に占拠されましたが、昭和天皇の断固たる不支持と戒厳令下での包囲により、反乱軍は孤立していきます。官邸周辺の情勢が反乱側に不利となるにつれて、岡田は機を見て安全圏へ移され、最終的に事件は数日で鎮圧されました。岡田の潜伏と救出の経緯は、青年将校らの計画が短時間で綻び、標的確認や指揮統制の不備が致命的であったことを示す象徴的なエピソードです。なお、岡田は生存し、政権はその後総辞職に追い込まれますが、事件後は皇道派が粛清され、統制派主導で国家総動員体制の整備が加速していきます。

【正解】3
【解説】
二・二六事件の首謀・指導的立場にあった皇道派系の青年将校たちは、鎮圧後に軍法会議で審理され、死刑判決を受けて処刑されます。軍事反乱は軍の統帥と国家秩序を直接揺るがす重大犯罪と見なされ、審理は非公開・短期間で進み、判決は速やかに執行されました。処刑方法は当時の軍刑法に基づく銃殺刑で、同年中に次々と執行されています。
他方、反乱に加わった全員が同一の処分を受けたわけではありません。下士官・兵の多くは関与の程度に応じて減刑や釈放となり、背後で思想的影響を与えた民間の国家主義者（例：北一輝）も別途厳罰に処されています。事件後、陸軍内部では皇道派が大規模に粛清され、統制派が人事・政策の主導権を掌握しました。これにより、計画的な産業・人的資源の動員を柱とする体制整備が加速し、のちの国家総動員体制の確立へとつながっていきます。以上のように、首謀青年将校には最も重い刑である死刑が科され、それが陸軍内外の力学を大きく塗り替える契機となりました。

【正解】2
【解説】
北一輝は、二・二六事件後に思想的首魁・扇動者とみなされ、軍法会議で審理されて死刑判決を受けました。北は直接の作戦指揮や武装蜂起への参加を否認しましたが、青年将校に強い影響を与えた『日本改造法案大綱』などの急進的国家改造論が重く評価され、反乱幇助・煽動の責任を問われました。軍事反乱は国家と軍の統帥を直接揺るがす重大犯罪と判断され、審理は非公開かつ迅速に進められ、翌年には銃殺刑が執行されています。
他方、処罰は一律ではなく、関与の程度に応じて量刑は分かれました。首謀・指導層の青年将校は死刑を含む最も重い刑を受けた一方、下士官・兵は減刑や釈放となる事例もありました。いずれにせよ、北の死刑は皇道派思想による下からの「直接行動」路線に終止符を打つ象徴的な出来事であり、事件後の陸軍内では皇道派が粛清され、統制派が主導権を握って国家総動員体制の整備が加速する流れを後押ししました。

【正解】2
【解説】
「兵に告ぐ」放送は、反乱側の下士官兵に対して原隊復帰と帰順を強く促す内容で、上官の命令に従い武装解除するよう繰り返し呼びかけました。これは、反乱軍の“自分たちは天皇の真意を体現している”という自己正当化を揺さぶり、さらに「官軍」側の統一意思（反乱軍を“叛徒”と認定する姿勢）を周知する効果を持ちました。結果として、占拠部隊の間で動揺と離反が進み、無用な衝突を避けて帰順に向かう空気が広がります。
この放送は、戒厳下での包囲・圧力と連動して心理的圧迫を加え、忠誠の所在を明確化することで、強行突入に伴う流血の市街戦を抑止する役割を果たしました。もし大規模な掃討戦となれば、首都の要所で日本軍同士が激突し、市民を巻き込む被害が拡大した可能性が高かったのですが、放送は部隊の分断と投降を促し、事態の沈静化を後押ししました。以上から、「兵に告ぐ」放送は、軍内部の対峙を心理面から解体し、日本軍同士の市街戦を未然に防ぐことに大いに役立ったと評価できます。

【正解】2
【解説】
二・二六事件後に発足した広田弘毅内閣は、政党色を抑えた挙国一致内閣であり、結果として軍部—とくに陸軍—の政治的発言力が一段と強まりました。最大の転機は、軍部大臣現役武官制の復活です。これは陸海軍大臣を現役の将官に限定する仕組みで、軍が大臣候補を出さなければ内閣が組織できない「拒否権」を事実上与えるものでした。そのため、内閣の存立・改造に軍部の意向が強く作用するようになり、政策決定でも国防・軍備拡充が優先されます。
さらに、陸軍統制派が人事で主導権を握り、産業・人的資源を計画的に動員する体制づくりが加速しました。外交面でも、対外強硬・反共協調の路線が強まり、のちの日独防共協定の締結へとつながります。これらの流れは、議会や政党の影響力を相対的に低下させ、行政・軍・官僚が結びつく戦時体制への助走となりました。したがって、広田内閣期は、事件の鎮圧にもかかわらず軍部の政治的影響が拡大した時期として押さえておくと理解しやすいです。

まとめ：
二・二六事件は、1936（昭和11）年2月26日未明、皇道派思想に傾倒した陸軍の青年将校らが「尊皇討奸」「昭和維新」を掲げて挙兵した未遂クーデターです。彼らは政治腐敗や財閥支配、農村疲弊を「国体を歪める奸臣」の所産とみなし、天皇親政の実現と国家改造を一挙に断行しようとしました。反乱部隊は雪の東京で首相官邸・各大臣私邸・警視庁・国会周辺を急襲し、高橋是清（大蔵相）、斎藤実（内大臣）、渡辺錠太郎（教育総監）らを殺害、岡田啓介首相は難を逃れました。27日には戒厳令が布かれ、昭和天皇は断固不支持を表明し、参謀本部・政府は反乱鎮圧に動きます。占拠は次第に包囲・孤立し、29日から3月にかけ投降・鎮圧となりました。事件後、軍法会議で首謀者は厳罰に処され、北一輝も関与を問われて処刑されます。陸軍内では皇道派が粛清され、統制派が主導権を握り、国家総動員体制へ向かう流れが強まりました。二・二六事件は、議会政治の脆弱さと軍部の政治介入の危険性を露呈し、昭和戦時体制形成の重大な転換点となりました。

参考文献：
筒井清忠著 (2014) 『二・二六事件と青年将校』吉川弘文館
須崎慎一著 (2003) 『二・二六事件ー青年将校の意識と心理』吉川弘文館