正解:3. 女性は自然的な存在であり、家族という倫理的共同体にとどまるべき存在とされた。
解説:
ヘーゲルは『法の哲学』(1821年)において、家族・市民社会・国家という三つの人倫的制度を提示し、それぞれに応じた役割を論じました。その中で彼は、女性は主として「自然的」な存在であり、家族という領域において感情や愛によって結びつけられる役割を担うと述べています。つまり、女性は家族内での愛情や教育の担い手として位置づけられ、国家や市民社会の「普遍的」な理性的活動にはあまり適さないとされました。
特に有名なのは、「女性の本性は主観的で特殊的なものであり、普遍的なものには到達しえない」という趣旨の記述です。これは、ヘーゲルが当時の性別役割分担を前提とした価値観を共有していたことを示しています。
このような女性観は、現代のジェンダー平等の観点からは明確に批判されるべきものであり、多くのフェミニスト哲学者や思想家たちは、こうした性差別的な前提を哲学的に問い直す作業を行ってきました。ヘーゲルの女性観は、彼の哲学的業績と並行して検討されるべき重要な論点のひとつです。
まとめ
ヘーゲルの哲学は、「絶対精神」の発展を中心に据えた体系的で包括的な思想です。彼は世界のあらゆる現象を「理性」の自己展開として理解し、歴史・自然・芸術・宗教・哲学などすべてを統一的な体系の中で捉えようとしました。彼の思索は、「弁証法」と呼ばれる独特の論理形式に基づいています。これは、ある命題(定立)がそれと矛盾する反命題(反定立)を生み出し、その対立がより高次の統合(総合)へと発展していくという運動です。
この弁証法的発展の中で、個別的なものと普遍的なもの、主観と客観、自由と必然といった対立が、矛盾を通してより高次の段階へと昇華されていきます。ヘーゲルにとって、自由とはこのような対立の自己解決を通じて自己を実現する過程にほかなりません。
彼の代表作『精神現象学』では、人間の意識がどのようにして自己意識に至り、最終的には絶対知に達するかが描かれています。また、『法の哲学』では、個人の自由が家庭、市民社会、国家といった制度的枠組みの中でどのように具現化されるかを論じています。
ヘーゲルの思想は、後のマルクス主義や実存主義、さらには20世紀の現象学や構造主義など、多くの哲学的潮流に大きな影響を与えました。彼の哲学は抽象的かつ難解である一方、深い論理性と体系性を備え、人間の歴史的・社会的存在の意味を深く探求し続けています。
参考文献:
権左武志著 (2013) 『ヘーゲルとその時代』岩波新書
H.F.フルダ著 (2013) 『ヘーゲル 生涯と著作』梓出版社
寄川条路著 (2018) 『ヘーゲル:人と思想』晃洋書房
滝口清榮著 (2016) 『ヘーゲル哲学入門』社会評論社
牧野広義編著 (2016) 『ヘーゲル哲学を語る』文理閣
矢崎美盛著 (2022) 『物語ヘーゲル精神現象学』名月堂書店
斉藤幸平著 (2025) 『100分de名著:ヘーゲル 精神現象学』NHK出版