カントについてよくわかるクイズ10問

正解：2

解説：

イマヌエル・カント（Immanuel Kant）は、ドイツ観念論の基礎を築いた18世紀の哲学者であり、その代表的な著作群として「三批判書」が広く知られています。三批判書とは、『純粋理性批判』（1781年、改訂版は1787年）、『実践理性批判』（1788年）、そして『判断力批判』（1790年）の三つの著作を指します。

『判断力批判』は、認識の理論（『純粋理性批判』）と道徳の理論（『実践理性批判』）の間を橋渡しするものであり、美的判断と目的論的判断を中心に論じています。とくに「崇高」や「美」の感覚に関する議論は、後の美学や芸術哲学に大きな影響を与えました。また、「目的論的判断」では、自然の秩序や生命の目的性に関する議論が展開されており、カントが自然科学と哲学の調和を試みた点でも重要です。

このように、『判断力批判』は、理性と感性、理論と実践の調和を追求するカント哲学の集大成の一つであると言えます。

正解：2

解説：

カントは非常に規則正しい生活を送ったことで知られており、特に「午後の定時の散歩」は一度として欠かしたことがないといわれています。この散歩のあまりの正確さから、地元ケーニヒスベルクの住民は彼の散歩を見て時計を合わせたという逸話もあるほどです。

しかし、そんなカントがただ一度、その習慣を忘れるほどに読み耽ったと伝えられているのが、ジャン・ジャック・ルソーの教育思想書『エミール』（1762年）です。この書物は、子どもの自然な成長と自由を重視する教育論であり、啓蒙時代において極めて画期的な内容でした。

ルソーの『エミール』に触れたカントは、深い感銘を受け、自らの道徳哲学の形成にも大きな影響を受けたと考えられています。カントはこの読書体験について、外的な規律よりも内面の道徳法則に従うことの重要性に目覚めたとも述べており、ルソーを「人間の尊厳を教えてくれた人物」として深く敬愛していました。

このエピソードは、カントがいかに思想的な衝撃を受けたか、そしてルソーの思想が後の哲学者にどれほど強い影響を与えたかを象徴するものです。

正解：

2. 人間の認識がいかにして可能か

解説：

『純粋理性批判』（1781年初版、1787年改訂の第二版）は、カントの批判哲学の基礎をなす主著です。この書でカントが主に問うたのは、「人間の認識がどのようにして可能であるのか」という問題でした。彼は、経験に先立つ「ア・プリオリ」な認識の条件を探求し、「われわれは物自体を認識するのではなく、物がわれわれの感性と悟性によって構成されたかたちで現れるもの（現象）を認識している」と論じました。この探究を通して、カントは「コペルニクス的転回」とも称される画期的な認識論的視座を提示しました。

正解：

3. 道徳的行為の根拠と自由の問題

解説：

『実践理性批判』（1788年）は、カントの三批判書のうち第二にあたる著作であり、実践理性、すなわち道徳的理性の働きに関する哲学的探究を行っています。ここでの中心的テーマは、「道徳的行為は何を根拠として正当化されるのか」、そして「人間は自由な意志を持ちうるのか」といった問題です。

カントは、理性的存在者は「定言命法（categorischer Imperativ）」に従って行為すべきであり、それによって道徳法則を自律的に立てる自由な存在であると主張します。また、自由は「実践理性の要請」として認識されるとし、理性によって道徳法則が可能であるとともに、それによって自由も証明されると論じました。

正解：

3. 趣味判断は利害を離れた快の感情に基づき、主観的ながらも普遍性を主張する

解説：

『判断力批判』（1790年）は、カントの三批判書のうち最後のもので、美学と目的論という二つの大きな領域を扱っています。前半の美学では、「趣味判断」（Geschmacksurteil）つまり美に対する判断が主題です。

カントによれば、美的判断は「利害を離れた快の感情」によってなされます。つまり、何かを「美しい」と感じるとき、それは私たちの欲望や目的とは無関係に、純粋にその対象に対する快さから生じています。しかし、これは単なる個人的感覚ではなく、他者にも共有されうるという「普遍妥当性」を主張します。これが、カントの「趣味判断の逆説（美的判断の主観性と普遍性の結合）」です。

正解： 3. 性悪とは、人間の道徳的傾向が根本的に腐敗していることを意味する

解説：

カントは著作『人間学』や『宗教の中の理性の限界内の宗教』において「性悪説」について論じていますが、その立場はホッブズ的な悲観論とは異なります。カントにおける「性悪」とは、人間が理性を持ち、道徳法則を知っているにもかかわらず、それに反して自己愛や利己心に従ってしまうという根本的な道徳的傾向の腐敗を指します。

ただし、これは「人間が本質的に悪であり、善を選ぶことができない」という意味ではありません。人間には自由意志があり、道徳法則に従うことが可能であるため**改善可能な悪（radikale Böse）**と位置づけられます。ゆえにカントの性悪説は、倫理的改善と道徳的努力の余地を残した立場です。

正解： 2. 二つの相反する命題が、それぞれ正当な根拠によって導き出されるように見える状況

解説：

カントが『純粋理性批判』において提起した「アンチノミー（Antinomie）」とは、理性がみずからの構造によって、相互に矛盾する主張（命題）をどちらも正当に導いてしまうという事態を指します。このとき、肯定的命題を「テーゼ（These）」、否定的命題を「アンチテーゼ（Antithese）」と呼び、両者が対をなして「アンチノミー」となるのです。

たとえば、「世界には始まりがある（テーゼ）」と「世界には始まりがない（アンチテーゼ）」のように、互いに両立しない命題が、どちらも理性によって論証される。これは理性が自己矛盾に陥る例であり、カントはこのような事態が理性批判の出発点であると考えました。彼はこの現象を「超越論的弁証論（transzendentale Dialektik）」の一部として扱います。

選択肢1や3のような単なる矛盾とは異なり、アンチノミーは見かけ上、正当な論証が可能に見えるところにこそ問題の核心があります。

正解： 4. 感性に固有のア・プリオリな直観形式である

解説：

カントは、時間と空間を「ア・プリオリな純粋直観」と呼びました。これは、時間や空間が経験から得られるものではなく、われわれの感覚がそもそも備えている形式的な枠組みであるという意味です。世界は「時間と空間の中にある」のではなく、われわれが世界を「時間と空間の中で」経験するのです。

正解： 2. カテゴリー（範疇）

解説：

悟性とは、感覚的に与えられた多様な情報（直観）を統一する働きであり、それを可能にするのが「カテゴリー（範疇）」と呼ばれるア・プリオリな概念群です。たとえば「因果性」「実体」「単一性」といったカテゴリーによって、世界は秩序づけられ、認識可能になります。

正解： 3. 実践理性の要請として、道徳的実践を支える合理的確信

解説：

カントは「神」「自由」「不死」のような理念は理論理性では証明不可能だが、実践理性（＝道徳のための理性）の要請として信じることができると主張しました。たとえば、善を行うにあたって「正義が最終的に報われる世界がある」という確信（道徳的信仰）は、行為を可能にする支えとなります。このような信仰は、感情ではなく理性に根ざした「道徳的な希望」です。

まとめ：

カントの哲学思想は、「批判哲学」と呼ばれる独自の立場に特徴があります。彼は、人間の理性がどこまで正当な認識を可能にし、どこからが誤用であるかを明らかにしようとしました。『純粋理性批判』では、私たちが経験する世界は、「物自体」ではなく、時間と空間という形式と、悟性のカテゴリーによって構成された「現象」にすぎないと説明しました。つまり、私たちは世界をありのままに知るのではなく、認識能力を通して世界を構成しているというのです。また、『実践理性批判』では、道徳は外的な命令によるものではなく、理性に内在する「定言命法」によって成り立つと述べ、人間の自由と道徳的責任の根拠を示しました。さらに『判断力批判』では、美や崇高、目的論といった主題を通じて、自然と自由、理論理性と実践理性の統合を試みました。カントは近代哲学における画期的な転換点を築き、その影響は後のドイツ観念論や現代思想に大きな足跡を残しています。

参考文献：
坂部恵 (2001)『カント』講談社学術文庫
石川文康（1995) 『カント入門』ちくま新書
竹田青嗣（2022）『超解読！はじめてのカント『純粋理性批判』』講談社現代新書
中島義道（2014）『カントの読み方』筑摩eブックス
牧野英二編（2012年）『カントを学ぶ人のために』世界思想社